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呪われた森へ

「こちらは随分と変わりましたね」


「あら、トリアはここがそんなに久しぶりだったっけ?」


「お嬢様がアカデミーにご入学なさって以来は本日が初めてなのです」


 呪われた森に来るやいなやトリアとそんな話をした。


 私もかなり久しぶりだけれど、アカデミーに在学中にも時々修練や視察のためにここに来ていた。思えば一緒に来たのはロベル程度だったね。


 そんな私とロベルにも馴染みのない部分が多いほど変化が急激な状況なんだから、トリアにはまるで別世界のように感じられるかもしれないね。


「それで、久しぶりに見た感想はどうかな?」


「狩りを仕事とする者なら、こちらに定住してもよろしいかもしれませんね。多少お暮らしは厳しくなるかもしれませんが、強靭さを養うには最適かと」


 なんだかタフなことを言うトリア。


 まぁ、それもそうだろうね。今はメイドだけど、元々我が家に雇われる前は名の知れた傭兵だったから。


 トリアの言う通り呪われた森は凄まじく変わった。依然として魔物も多いし大地の復元も終わっていないけれど、過去邪毒が溢れていた頃に比べれば人が住めるほどにはなっていた。


 特に私たちが来たのは修練の時によく利用していた内部基地。ここは復元事業の拠点の一つでもあるため、周辺がかなり整理されていた。しかも狭い範囲だけど歩道ブロックまで敷かれており、どこに向かうのかは分からないけど適当に舗装された道路まで目に付いた。


 周辺にも普通に肉眼で見える範囲には魔物がいなかった。草むらも邪毒に歪められて魔物化したものじゃなく、普通の植物をどこかから調達してきて植えたものだった。養分豊富な土を持ってきて撒いても足りなくて魔力で成長を補助するなど不完全な部分もあったけれど、この程度ならなかなか良い水準だ。


 何よりもその光景の中で忙しく動く多数の人々がいた。以前の森だったらこの人数が留まることすら不可能だっただろうけど、今は彼らの行動を妨げる要素が何もない。


 もちろん魔力で気配を感じてみればまだ魔物が多いことが分かった。まだ残された課題は多い。しかし目に見える範囲がこの程度だってことは少なくともこの付近の安全は確実だという意味だ。


「お待ちしておりました、アルカお嬢様」


 忙しく働く人々を陣頭指揮していた男が近づいて挨拶した。この付近を担当する責任者さんだ。


 責任者さんは線が太く強靭に鍛えられた男だけど、私に向けて見せる笑顔は柔らかく穏やかだった。


「いらっしゃるとの知らせは受けておりましたが、今回はいつもより早いですね」


「申し訳ありません。急に用事ができてしまって」


「ハハ、いいえ。責めるつもりはございませんでした。ただそのように謝罪してくださり、私どもの日程を配慮してくださるアルカお嬢様がこのように急いで動かれたのを見ると、それだけ急ぎの用件なのだろうと驚いただけです」


 責任者さんは恥ずかしい言葉を平然と詠んで私の顔を熱くさせておきながら、自分は平然と笑いながら私に礼を取った。


「本日の視察経路はお決めになりましたか?」


「少し遠くまで行ってみたいです。まだ復元が十分に行われていない場所に」


 責任者さんは少し困ったような表情を浮かべたけれど、私は引き下がらなかった。


 今回の目的は私に存在する違和感と異常現象が本当に邪毒や邪毒神と関係があるのかを調べるためだ。邪毒自体はもうこの世から消え去ってしまった今、少しでも近い手がかりを見つけ出すには邪毒の影響がまだ濃く残っている所を探り回るしかない。


 そして呪われた森はそのような目的に最も適した場所だ。復元事業がうまく広がっていない所は、ね。


 私が意志を変える気がないことを体全体で主張すると、責任者さんは当惑感を苦笑いにて飛ばした。


「十分ご存じかと存じますが、おっしゃった区域は危険でございます。すでに並の騎士の能力を超えたお嬢様には大きな脅威とはならないでしょうが、それでも油断なさらぬようお願いいたします」


「もちろんです。私がミスをすれば、私を守るために他の方々が犠牲になってしまいます。そんな目に遭わせたくありませんよ」


「そうです。お嬢様ご自身が悲しまれないためにも、どうかその点だけはご注意ください」


 責任者さんはそれだけ言い残して人を呼んだ。魔導兵団の団服と武器を身につけた男二人と女一人がこちらに来た。


 呪われた森は邪毒は消えたものの魔物はまだうごめく場所。そのため復元事業従事者を守るための護衛人員を魔導兵団から派遣している。感じられる風貌や魔力を見ると、責任者さんが呼んだ人々は護衛兵の中でもかなり実力が優れた人々のようだ。


 トリアがその人々の面々を見てから頷いた。


「うむ。相変わらず素晴らしい人選ですね」


「アルカお嬢様の護衛に半端な者をつけるわけにはいきませんからね。護衛の要であるトリアさんとの相性まで考えると、なおさらこやつらが適任だと考えました」


「?」


 最後の言葉が何を意味するのか分からずトリアの方を見た。


 答えはトリアよりも先に護衛兵たちの方から出た。


「それぞれ期間は異なりますが、私たち三人全員がトリアさんに師事したことがあります。おそらくその点を考慮されたのでしょう」


 兵団の精鋭たちをメイドが鍛えたって。馴染みのあることだけど相変わらず何とも言えない気分になってしまう。


 ともかく森に進入するための人員が決まった。私の護衛として同行したトリアとロベル、そして兵団の護衛兵三人。


 私自身の力もあるので、今の森なら私たちの脅威にはならないだろうけど……それでも現場ではいつも不意の事態が起こるもの。注意しながら進もう。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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