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計画と決心

 父上は眉をひそめ舌打ちをした。母上も少し顔をしかめながら拳を強く握った。


 私の言葉を否定しているのではなかった。むしろ同意したからこそ、それが指し示す事実に不快感を表したのだ。


 それも当然だろう。もし私の考えの通りなら、私たちは家族を一人失ったことになるんだから。私にとってはお姉様であり、両親にとっては娘となる誰かを。


 そう思った瞬間、胸の中で感情が激しく渦巻いた。


 怒り、悲しみ、喪失感、絶望、悲観。単純な感情一つや二つを超えて、ありとあらゆる否定的な感情がめちゃくちゃに入り混じって同時に暴れ回った。


 とても耐えられなくて、耐える理由が見つからなくて、魔力がどんどん漏れ出して物理的な嵐を引き起こすほどに。


「ふむ」


 父上は目を細めると手を一度振った。私の感情に従って狂ったように暴れていた魔力が瞬時に収まった。一瞬感じた波動を見るに、邸宅のあちこちに設置されている魔力抑制の魔導具のようだ。


「申し訳ありません。ありがとうございます」


「いや、特に被害はなかったから大丈夫だよ。むしろ今のところはそういう反応も君の状態を把握するのに役立つんだからむしろ良い」


 父上の言葉だった。


 その言葉が何を意味するのかはすぐに理解した。父上と母上は私ほど動揺していなかったんだから。


 もちろん私が感情をきちんと抑制できていないのもあるだろうが、あれは単純にそれくらいの個人差ではなかった。


 父上は私の顔を見ると、表情から考えを察したように小さく頷いた。


「もちろん僕も何でもないとは思っていない。僕たちに他の子供がいたのに消されてしまったのなら、僕たちは邪毒神に子供を奪われたことになるからね。しかも、そういう事例が僕たち以外にもあるかもしれない。でも……」


「実感自体がない以上、私たちが感じる感情には限界があるわ」


 母上が父上の言葉を引き継いだ。


「私たちには自覚もなく実感もないのよ。私たちの記憶の中では、私たちの子供はあなた一人だという点だけが何の違和感もなく完結しているの。私たちはせいぜい『もし本当に他の子供がいたとしたら』という仮定に対して怒りを感じるだけよ」


「それでも君だけがそれほど激しく魔力を吐き出すほどの感情を感じたんだ。その差に意味があるはずだよ」


 父上が再び言葉を受けてそう結んだ。


 お二人の言葉は十分に理があったけれど……実際それによって私が何をすればこのもどかしさと怒りを晴らせるのかは全く見えなかった。そもそもどうして私だけがこんなに違和感を感じているのかも分からない状況なんだから。


 私の特性である『万魔掌握』が世界の魔力を扱う力であるため、私には世界の変化をより敏感に感じ取る能力がある。もしかするとそれと関係があるのかもしれないけど……それも確証はない。


 父上は一人で悩む私を見るとそっと微笑んだ。


「アルカ。久しぶりに呪われた森に行ってみない?」


「え? 急にですか?」


「うん。視察自体は初めてじゃないだろう」


 確かに父上の言う通り、呪われた森はたまに行っていた場所ではある。


 かつてこの世界で最も邪毒が濃く残っていた土地。しかし邪毒神と邪毒がすべて追放されたとき、そこの邪毒もすべて消えた。浄化のためには国力を注ぎ込んだ浄化事業が必要だと言われていた場所が一瞬できれいになったのだ。


 いや、正確に言えばきれいになったわけではなかった。


 消えたのは邪毒だけ。すでに邪毒に侵食されて歪んだものたちは戻ってこない。邪毒が消えたとしても、すでに魔物化した動植物とめちゃくちゃになった大地はそのままだった。


 そのため私が幼い頃は、そこに残っていた魔物を利用して実戦修練をした。そして私がアカデミーに入学した後は本格的に森を正常化する事業が実施された。


 呪われた森はその特性上無法地帯だったけれど、名目上は我がオステノヴァ家の領地。そのため邪毒が消えた後、森を復元する事業もオステノヴァが執行している。非常に広大な領域にわたってありとあらゆる魔物と荒廃した大地が広がっているため、魔物を討伐し環境を復元する事業はまだ現在進行形だ。


 オステノヴァの後継者として私もたまに視察に行ったことはあるけど……。


「今回は普通の視察じゃないんですね?」


「そうなんだ。視察も重要な業務で後継者に必要な素養ではあるけど、それよりは森自体にヒントがあるんじゃないかと思ってね。あそこはかつてこの世一番の邪毒溢れ場所だったし、それだけの量の邪毒が消えたんだから何か痕跡が残っているかもしれない。今君から検出されたのも邪毒に似た反応だしね」


 正直、確信を持てるような方法ではないということは父上も分かっているだろう。


 それでも提案したのは他にもっと良い方法がないからだろう。


「分かりました。精一杯やってみます。もはや私一人の問題じゃありませんから」


「支援できることは全てしてあげるよ。答えを見つけ出せることを期待しているんだ」


「ありがとうございます」


 視察とは言っても今すぐ出発するわけではない。


 まずはその場での話を終え、邸宅にある私の部屋へと向かった。


 重要な事柄なのでトリアもロベルもハンナも今は傍にいない。そのため一人で考えに耽る余裕は十分にあった。


 不確かな違和感。いるのかいないのかも分からないお姉様。そして……そのすべてに関連があるかもしれない、ただのごく小さな疑惑に過ぎない邪毒神。


 私の頭と感情をこれほどまでに乱すそのすべてを、今度こそ確実に明らかにできるのか。確信はないけど覚悟はあった。


 今回の視察で結論が出ればそれで良い。もし出ないなら……無理にでも押し切って道を切り開いてみせる。

読んでくださってありがとうございます!

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