調査のために
奇妙なものも、分からないものもある。
けれど今ここでそれらを全て解明することは不可能だ。そもそも私自身が何を解明すべきかを分かっていないのだから。
それでもリディアお姉さんの見解は大きな助けになりそうだし、奇妙な異名も調査する価値はありそうだ。
そしてこの……妙なほど認められているこの邪毒神についても。
今はこの程度にしておこう。方法がないわけじゃないけれど、その方法というのが今ここでできることじゃないからね。
久しぶりに両親の顔も見るし。
* * *
「ふむ。それは確かに変だね」
微笑みとともに、けれど真剣な声でこっちの悩みに応じる。
オステノヴァ邸。しばらくいろいろなことがあって戻ってこられなかったけれど、我が家に帰るというのはいつも心を温かくしてくれる何かがある。今日はそれほど愉快な理由で戻ってきたわけじゃないけど。
来るなり遠慮なく父上に相談を求め、今の私が感じている違和感と不可思議さを全て打ち明けた。すると父上が最初の一言として出した答えがそれだった。
父上の態度は優しかったけれど、私の悩みを真剣に聞いて考察されているのが分かった。
「まず、君が聞いているという耳鳴りのことだけど。それが邪毒神と関係があるっていう推測は、かなり的を射てると思うんだ」
「そうなんですか?」
「強度は非常に弱いけど、似たような症状は昔もあったんだ。頻繁とは言えないまでも、邪毒神が世界に干渉しようとする時の様々な前兆症状の一つだったんだよね」
机に肘をついて話す父上の横で、母上は椅子で足を組んだまま考え込んでいた。
そんな中、母上が顔を上げた。
「『救われざる救世主』が現れて以降は、目撃情報や体験談が完全に途絶えた事例なのよね。アルカ、あなたが感じたのはどの程度のものだったかしら?」
「それが、とても微かなレベルでした。最初はただの小さな耳鳴りで、その次は何か声のようなものが聞こえはしたんですけど……内容は全く聞き取れませんでした」
母上は元太陽騎士団長で、今も現場から退いただけで騎士団に在籍中なのは変わらない。この国では治安維持や各種調査も騎士団の業務である以上、邪毒神関連の問題現象についてもよく知っている。
そんな母上の言葉を聞いてさらに疑問が強くなった。
『救われざる救世主』が現れてから大体十年ほど。正確な時期は学者たちの間でも意見が分かれているが、とにかく大まかに十年ほどというのが定説だ。
その十年の間、少なくとも公式な調査で収集された事例が全くない事。それが私に突然現れた理由は何か。
「正確なことは検査をしてみないとわからないけど、君の話を聞いて判断する限りでは確かに微弱だね。通常、邪毒神の前兆としての現象はそれよりもずっと強く直接的だからさ」
「そう……なんですか?」
「そうだね。でも、消えていた前兆が突然現れたことは警戒に値するんだ。……『救われざる救世主』の力が邪毒神たちをこの世界から追い払ったって言われてるんだ。それがどこまで真実なのかは、まだ僕も正確には把握してないんだけど……もしかするとそのせいで邪毒神がこの世界に干渉する力が弱まって、だから君に現れた前兆が微弱なだけかもしれないね」
つまり外的な要因により邪毒神の干渉力が弱まっただけで、危険かもしれないという意味だ。
一方、父上は眉間にしわを寄せた。先ほどの話ではなく、その次に話すことへの反応だってことがなぜか分かった。
「でも邪毒神の前兆の方はわかりやすいんだ。前例もあるし、本当にそれが邪毒神と関係があるかどうかは容易に検出できるからね。だからこちらは頭の痛いことじゃないんだけど……問題は残りの一つなんだ」
「アルカ。あなたの記憶の違和感について具体的に話してくれるかしら?」
母上の要請に応じて、私が感じたことを最大限詳しく整理して説明した。
一言も口を挟まず静かに聞いていた父上は、私の話が終わった後に少し苦悩するような溜息をついた。
「確かに異常な部分はあるけど、現段階では何がどうだと明確に言うことはできないんだ。それについてはこちらでも別途調査してみることにするよ。とりあえず邪毒神のことだけど……ベティ?」
「設備なら今すぐ使えますわ。幸い、そちら関連の装置は最近使う機会があまりございませんので」
父上と母上のやり取りに私一人首をかしげた。設備とは何のことだろう。
幸い、わざわざ言葉で尋ねる必要はなかった。
「よし。アルカ、今日の予定はあるかな?」
「いいえ」
「じゃあ今日は検査をしてみようか。まずは君に聞こえる耳鳴りと声が邪毒神と関連があるかを確実にしておこうね。君の記憶の違和感についてはどうするか、じっくり考えてみることにするよ」
そもそも私もそれを期待してきたんだけど、まさか今日すぐに検査を行おうとは思わなかった。少し驚いた。
父上は私の表情だけで考えを察したかのように微笑んだ。
「ちょうど都合が良かったおかげではあるけど、たとえそうでなくても日程を調整して可能にしただろうね。君は大切な我が子なんだからさ。一人娘のためなら些細な優先順位くらいいくらでも調整できるからね」
「――――」
瞬間沸き上がった感情を私自身もよく理解できなかった。
父上の言葉に間違った部分はなく、私への愛情で満ちている。その事実に不満なんてないはずなのに、異常なほど腹が立った。
その怒りがあまりに強くて、なぜそんな気持ちになるのか到底分からなくて、表に出すことはできなかった。しかしだからといってこの感情をただ押し殺して忘れることはできなかった。
それが何であれ、分からないすべてのことが今の私には手がかりでもあるのだから。
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