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違和感と調査

 その本を最後まで読破した後、魔力で複数の本を一度に引き出した。それらを一斉に開いて多読の術式で内容を素早く確認していった。


 本が多い分、内容も様々な種類があったけれど、共通する内容がかなり多く見られた。最初に読んだ本のおかげでニュアンスをある程度把握していたので、膨大な内容も簡単に整理することができた。


「アルカ、そっちはどう?」


 リディアお姉さんが近づいてきた。


「どんな感じかはわかりそうです。お姉さんはもう全部見たんですか?」


「ええ。ちょっとずつ違うとこあったけど、だいたい似たようなもんだったね」


 魔力の痕跡を辿ってみると、邪毒神関連の書籍区域の半分ほどにリディアお姉さんの魔力が付着していた。


 ……うわ。私はたった一つの本棚をようやく片付けようとしているところなのに。リディアお姉さんが読破したのは本棚の数で言えば八つほどだった。


「すごく速いですね」


「え? そうかな?」


 リディアお姉さんは本当に分からないといった様子で首を傾げた。その姿に苦笑いが出た。


 前から感じていたことだけど、リディアお姉さんの才能も本当にすごい。一体どうしてディオスなんかにやられていたのか疑問が湧くほどに。まぁ、真剣に考えれば幼い頃からやられていたぶん心理的に萎縮していただけだろうけど。


 そう、そんな状態を克服したのも――。


「……あれ?」


「え? どうしたの?」


 リディアお姉さんの質問に答えることはできなかった。私自身も答えを知らなかったから。


 何か強烈な違和感を感じたけれど、それが何なのか分からない。


 初めて会った時のリディアお姉さんはとても暗かった。でもそれを見過ごすことができなかった私は、リディアお姉さんがディオスを倒してトラウマを克服できるよう手伝った。その出来事をきっかけに私とお姉さんはとても親密な仲になった。


 ――本当?


 記憶に問題はない。抜け落ちている部分もないし、不自然な部分もない。


 それなのにどうして――こんなにも馴染みのない感じがするのだろう。


「リディアお姉さん。私たちが初めて会った時のこと覚えてますか?」


「忘れられるわけないじゃない。リディアにとって一番大切な思い出だよ」


 リディアお姉さんは両手を合わせて目を閉じたまま恍惚とした表情を浮かべた。


 どんな考えをしているのかはその姿だけで十分に伝わってきた。そしてリディアお姉さんは私と違って記憶に違和感を感じていないということも。


 私がおかしいってこと?


 今日はリディアお姉さん以外はみんな挨拶や短い会話程度だったけれど、記憶や感情に違和感を感じている人が私以外にいないってことは分かった。


 みんな大丈夫で私だけ特異だとすれば、やっぱり私がおかしいと見るべきかな。


「アルカ。何かあったの?」


 思考に耽っている最中だった。


 いつの間にか物思いから抜け出したリディアお姉さんが真剣な顔で私を見ていた。


「リディアお姉さん? 急にどうしたんですか?」


「今日のあなた、なんか変だよね。何か悩んでるんでしょ? 一人で抱え込まないで話してね。力になれることあったら力になってあげるから」


 こういう時は本当に察しが良いね、まったく。


 まぁ一人で抱え込んでうじうじしても意味はない。別に隠す理由もないし。リディアお姉さんなら私を笑いものにしたりしないだろうから。


 悩みは短く、決断は早かった。


「実は私の記憶に少し違和感があるんです」


「違和感? どんなの?」


「私が経験したことなんですけど、それが妙に馴染みのないように感じるんです。ただ、えっと、なんというか……全くなかったことって感じというより、ただ『私のもの』じゃないような気がするんです。実は私自身もはっきりしないので言えずにいたんです」


 リディアお姉さんは首を傾げながらしばらく言葉がなかった。


 そしてふと再び口を開いた。


「ふーん。それ、この邪毒神と関係あるかも?」


「え?」


「あなたが記憶に違和感感じることと、この邪毒神は特に関係なさそうに見えるんだよね。でも今日この邪毒神の名前聞いた途端、あなたの様子が妙だったでしょ? 今もここに来て探してるし」


 リディアお姉さんは本棚に挟まっていた本の中からどれか一つを取り出した。そして冒頭のページを開いて私に見せた。


 書かれている内容は邪毒神が世界の不幸と悲劇を没収したということ。さっき私も見たものだった。


「もしやのことだけどね。この邪毒神の能力が私の違和感と関係があるんじゃないかしら?」


「……!」


「正直リディアは特に変なもの感じなかったよ。だからあなたの違和感について正確な判断はできないんだ。でもあなた自身も正確な理由はわからなくても、この邪毒神の名前で何か感じて調べに来たんでしょ? そして記憶があなたのものじゃないように感じるなら、この邪毒神と何か関係あることを本能的に感じたのかもしれないよ。リディアの推測にすぎないから間違ってるかもしれないけどね」


「……いいえ。とても助かりました」


 正直思いもしなかった。衝動のままに動いただけで、肝心の私の衝動と違和感を結びつけるという発想さえ思いつかなかったのだから。


 この邪毒神の力が正確に何なのかは誰も知らない。ただ研究者たちの曖昧な仮説と探求の領域でしかない。でもこの内容に少しでも真実があるなら、関係がある可能性はある。


 どうして私だけが違和感を感じたのかは分からないけど――。


【――き……はや――】


 またあの音が聞こえた。


 さっきは耳鳴りなのか声なのかも区別しづらいほど微かだった雑音だったそれ。でも今回はさっきよりほんの少しだけ鮮明だった。それでも言葉を聞き取れるほどじゃなかったけれども。


 目を鋭くしながら周囲を見回した。しかし肉眼でも魔力感知でも何も見えなかった。


 一体どこの誰がこんなことをしている? これも邪毒神なのかな?


「アルカ?」


「声みたいなの聞こえませんでしたか?」


 もしかしてと思って聞いてみたけど、リディアお姉さんは首を振るだけだった。これも違和感のように私にだけ聞こえていることね。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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