用意された昇天
一閃。
背後の空間を切り開く。
まるで初めから私に資格があったかのように、神域は何の抵抗もなく私の前に〝門〟を開いてくれた。
【うっ……行かせはしない!】
『アルカ』が手を伸ばした。その指先から膨大な魔力が揺らめいた。
神の力、神の意志が余すところなく露わになった。殺意がなかったにもかかわらず、ただその力の巨大さだけで圧倒され、体を震わせるほどの力だった。
しかしそれが私に触れることはなかった。突如湧き上がった魔力の壁が『アルカ』の力を防いだのだ。
赤い力。私が生まれた世界から脱したため、もはや異物としての姿ではなく本来の姿として発現した古の神竜の権能。
【イシリン!? どうして……!】
【ごめんね。今回だけはテリアの味方をすることにしたの。そもそも、あなたも望んでいたことでしょう?】
『アルカ』は焦ったように魔力を連発したけれど、イシリンの障壁は堅固だった。
私はそれを他人事のように眺めてから背を向けた。
【行かないで! お願い……!】
「悪いけれど、私はもう道を決めたわ。もしすべてがうまく解決したら、戻ってきて近況くらいは伝えるわね」
おそらく実現しないであろう未来を別れとして残し、私は切り開いた空間の門に飛び込んだ。
瞬間、すべてがひっくり返った。
「っ……!」
いや、ひっくり返ったのではない。空間も時間も存在しない場所、世界という揺りかごから完全に抜け出した完全な『無』。何一つとして存在を許されない場所で、私の感覚そのものがめちゃくちゃになって道を失った。
けれど私は、私の肉体と魂はそれに耐えていた。
【真の昇天の条件は二つ】
意識が遠のくほどの虚無の中で、イシリンの声だけが頭の中にはっきりと響いた。
【一つは魂の力と格を十分に積むこと。これは当然の条件だわ。けれどこれだけじゃ神の座に到達することはできないの。すべての存在の魂には限界があるからね。それは自分を自分として維持できる枠組みでもあるわ】
体が変わるのを感じた。
いや、変化の本質は魂にあった。今まで閉じ込められていた肉体という牢獄から抜け出し、想像すらできなかったどこかへ進んでいく奇妙な感覚。
【もう一つは世界の外に出ること。それは資格の判別であると同時に、昇天に必要な前提でもあるの。資格のない者は世界の隙間が開いても魂の壁に阻まれて世界の外に出ることはできないわ。しかし資格を持つ者は世界の外で初めて自分という枠組みを壊し、超越の領域へと進むことができるのよ】
魂の膨張に耐えられなかった肉体は一度壊れた。しかし壊れた肉体が再び魂と融合して新しい何かに変わった。肉体と魂という区別と境界が消え、ただ一つの存在としてすべてが新たに作られていった。
【テリア。あなたは自分の分身を世界の外へ、地球まで送り出したわね。あなたは何気なく思っていたかもしれないけど、その時すでにあなたは昇天の資格を証明したのよ。たとえ分身であっても資格がなければ世界の外へ送り出すなんて不可能よ】
……予感はあった。
もちろん具体的なものではなかった。私が進化するだの昇天するだの、そんなことを考えること自体が普通なら変なことだから。ただ漠然と何か自分自身が変わっていくような気がするという程度だった。
しかしこうして現実になってみると、それがこれだったという自然な気づきがあった。
「イシリン。あの『アルカ』と知り合いだったの?」
自分自身の変化を実感しながら、感覚も少しずつ変わっていった。
世界の外で何も認識できずまともに機能もしなかった感覚が少しずつ元の位置を取り戻していった。人間のままだったら認識できなかったものが見え、『無』のはずだったここがもはや『無』ではなくなっていった。
本来なら声を出すことすら不可能だったここで平然と言葉を発することができるようになったのもその影響だった。
【そうよ。そもそも力を失っても神は神だからね。いくら神の権能で時間を巻き戻しても、私を複製するのは不可能なの。だから時間を巻き戻すたびに私自身が直接始まりの洞窟に戻ったわ。もちろん記憶はほとんど封印されたけれど、少し残っているものもあったの】
以前イシリンは意味深な独り言を何度かつぶやいたことがあった。おそらくそれが『アルカ』に関連したものだったのだろう。
『バルセイ』でもアルカは邪毒の剣を得た。ということは『アルカ』もイシリンと知り合いだったはずで……おそらく協力者のような立場だったのだろう。
それにもかかわらず彼女は『アルカ』の意志を拒んだ。
「ありがとう。私の味方になってくれて」
【正直、心情的にはアルカの方に近いけどね。私もあなたが幸せになってほしいから】
「ならどうして私の味方をしてくれたの?」
【ちゃんと償いもしていないという心の負債を残したままじゃあなたが幸せになれないからよ。あなたがそんな人だってことはうんざりするほど知ってるからね】
笑みがこぼれた。
イシリンが私を理解してくれたことが純粋に嬉しかったし……この単純なことすら見えなくなってしまった『アルカ』のことが悲しかった。
もちろんそんな気持ちが私に躊躇いを与えることはなかった。
肉体と魂が一つになって再構成され、私という存在が肥大化する。その過程で自分がどのようなものになっていくのかを本能的に悟った。
すべてを知っているなら、思いのままに操ることも可能だろう。
そんな確信を抱いて自分自身に手を伸ばそうとした瞬間だった。
突然わかりやすい光芒が降り注ぎ――空間が変わった。
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