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古い心

 それすらも罪なのに、ましてその人たちを全員殺して消し去ったのは『バルセイ』が始まるずっと前のこと。つまり、すでに物語が始まる前から私は自分の苦痛や復讐とは何の関係もない罪を重ねていったってことだ。


 それにもう一つ。気になることがあった。


「それで聞きたいことがあるの。……時間を過去に戻した後、()()()()()()()()()()()()()()()?」


『アルカ』が息を呑んだ。


 ……それだけで十分答えになっていた。


『アルカ』は時間とともに繰り返される経験が私の魂に積もり、それゆえに私の死と悲劇もまた繰り返されたというように言った。実際に言葉をそのまま受け取るならば、そう解釈するのが普通だろう。


 しかし、どこか納得がいかなかった。


 正直、論理的な理由はない。ただそれを言う『アルカ』の様子が、態度が……どこか正直じゃないって感じがあった。それを一人で考えていて、さっき気づいた。


 アルカは嘘をつくときにいくつかの癖がある。視線を逸らすとか、眉が微かに震えるとか、左手で拳を握ったまま少し腰の後ろに隠すとか。


 感情が昂ぶっているせいか視線を逸らすことはなかったけれど、眉が震えたり拳を後ろに引こうとして途中で止まったような動作が見られた。


 正直、それだけで推測するには根拠が足りない憶測に過ぎない。けれど……そこまで考えが至ったとき、私の心はすでに確信していた。


 まるで私の中の『テリア』が私に答えをほのめかしてくれたかのように。


「時間を戻す。素晴らしい権能に見えるけれど、世界全体の時間を戻すのは神にとっても容易なことじゃないでしょね。まして『隠された島の主人』の力は別の神の下位互換に過ぎないのでしょ?」


【……それは不可能や不完全の根拠にはならないよ】


「その通りね。下位互換だとしても、比較対象が凄すぎて相対的に物足りないだけかもしれないわ。でもそんなものだったら、あなたも不満は持たなかったでしょ」


『アルカ』はかつて別の神の力であり、今は自分が奪って使っているその権能に明らかに不満を持っていた。


 それが単に私の運命を変えられないからだけじゃないって、私の中の『テリア』が冷静に告げていた。


『アルカ』は言った。無数の繰り返しを経る間、『テリア』が受けてきた傷は続けて魂に蓄積されたって。記憶がなくても魂に積もった憎しみと絶望がだんだん表面にも現れたって。


 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『テリア』が繰り返してきた悪行とそれによるすべての不幸と悲劇は他の人々の魂にも蓄積されただろうってことだ。


 それに『隠された島の主人』は平行世界と関係があるという推測がある。それがどこまで事実なのかは私も知らないけど……もし事実なら様々な可能性がありうる。


 例えば世界の時間を巻き戻すことが本当にすべてを元に戻すのではなく……()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか。


 もちろんこれはまだ根拠が足りない推測だ。でも私の中の『テリア』が反応している感じがあった。おそらくこっちも完全に根拠のない話ではないだろう。


 今のこの考えを言葉にするのさえもったいなくて魔力で作った思念で『アルカ』の頭に叩き込んだ。


「結局、私が犯した全ての罪は厳然と世界に残っているのよ。むしろあなたのせいでさらに増幅された形になってしまったわ。それなのに、私がそれを無視して一人だけ楽な道に逃げることを望んだの?」


【あなたは……あなたは幸せにならなきゃダメなの。その資格があるんだよ。あなたが落ちたのはあなたの過ちじゃないんだよ】


『アルカ』は必死に言ったけれど、確信のない苦しげに揺れる声だった。


 おそらく自分でも分かっているだろう。願望は願望に過ぎず、私の言葉を否定することはできないってことを。


『アルカ』は『テリア』を救うというただ一つの目標にのみ執着するあまり、他のすべてを捨てた。それが正しくないということを知りながらも。私はその捨てられたものを語っているに過ぎない。それゆえに彼女は論理的に反論できないのだ。


 しかし……ああ。


「あなたはやっぱりアルカなのね」


【今私のことを嘲笑ってるの? 私はもう……】


「いいえ。どれほど変わり、どんな過ちを犯してきたとしても、あなたの本質は変わっていないのよ」


 誰かを救いたいという気持ち。不可能に挑戦する執念。失敗しても決して屈しない粘り強さ。


 まさに主人公らしいその姿こそが『バルセイ』のアルカが見せていた姿だった。


 今の私の妹アルカはそういった姿が比較的薄かったけれど、それは私の主導のもとですべてが『バルセイ』でよりも良くなったからに過ぎない。アルカ自身が中心となって難関を切り開いていかなければならない状況になれば同じように行動するだろうという確信があった。


『アルカ』はただ目の前の不可能があまりにも巨大で絶望的だっただけ。長い年月と無限の失敗が執念を異常な執着に変えただけで、彼女の根本は変わっていなかった。


 抑えきれないほど燃え上がる怒りの中でも、その事実だけは私に悲しみを与えた。


「アルカ」


【私はアルカじゃないよ。私は、私は……】


「ありがとう」


『アルカ』はびっくりした顔で私を見た。


 今にも泣きそうな顔。しかし本当に泣くことはなかった。それだけは私としても到底理由が分からなかった。


 そして正直、私の知ったことではない。


「あなたが私のために頑張ってくれたその長い年月を、あなたが背負ってきた悲しみと絶望を軽んじるつもりはないわ。たとえ正しくない手段を選んだとしても、それによってどこかに歪みを生んだとしても……あなたがそこまで尽くしてくれたのが私のためである以上、私だけはあなたの選択と執念を軽んじてはいけないでしょ」


 けれど、と言葉を継ぐ。


 同時に――今まで何も言わずに黙っていたイシリンを、邪毒の剣を抜いた。


 そして、別れを告げる。


「私は私が背負うべきものから逃げたくないの。それが私の意志だったかどうかに関わらず、今まで私が当然支払うべき代償を先送りにしてきたのだから」

分量の執筆はある程度進みましたが、まだ少し仕上がっていない部分があります。

昨日申し上げた通り、本日二回の更新ができなかった分は今週中に完了させていただきます。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

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