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テリア・マイティ・オステノヴァ:オリジン

 ずっと、疑問だった。


 前世の記憶を思い出した時はただ神崎ミヤコの記憶だけを引き継いだと思っていた。私の自我は前世のミヤコに上塗りされたのではなく、あくまでもテリアとしての私自身がそのまま続いたまま神崎ミヤコの記憶だけを思い出したのだから。


 しかし時が経つにつれて疑問が生じた。


 ――果たして神崎ミヤコとテリア・マイティ・オステノヴァのうち、()()()()


 実のところ時が経つにつれて生じたというよりも、初めからあった疑問がだんだん大きくなったのだった。


 アカデミーに入学する前。自分の力を磨き、それを試すために初めて魔物と戦った時。生命体との命を懸けた戦いを私はまったく恐れなかったし、魔物とはいえ命を奪うことにまったくためらいがなかった。むしろそんな自分自身を恐れていただけだった。


 アカデミーの修練騎士団として活動していた頃はどうだったか。あの時私は普通の手段では尻尾を掴んだり不正行為を暴いにくい奴らを暴力と脅しで治めた。リディアをいじめていたディオスと取り巻きたちにもそうしたのだ。


『バルセイ』のテリアは平等だった。誰をも差別せず同じように残酷に扱った。けれどそれは自分の境遇に対する長年の絶望と世界への憎しみが結局変質したものに過ぎず、本性がそうだったわけではない。むしろ『バルセイ』では幸せだった頃の私がとても優しく人を大切にする子として描かれていた。


 今の私は皆に愛され皆を愛し幸せな人生を送ってきた。それにもかかわらず『バルセイ』の自分のように必要な時に残酷さと非情さを振るうことができた。


 手がかりはそれ以外にもあった。


 例えば燃える海を調査した時。『息づく滅亡の太陽』は私に訳の分からない憎しみを向けてきた。『隠された島の主人』がアルカなら、修飾語として『結火』という名を背負ったその邪毒神が誰なのかなんて明らかだ。ならば彼女が私に向ける憎しみもまた一つのヒントになるだろう。


 例えば安息領が生贄に使おうとした少年に会った時。その少年が患っていた病である過魂症は強大な魂を肉体が耐えられない病。地球にあるはずのない病だった。なのにどうして神崎ミヤコは過魂症を患っていたのか。


 ……いや、実のところ過魂症はただ確信になる直前の推測に決定打を加えただけ。それより以前にすでにヒントは与えられていた。


『あなた、まだ『バルセイ』の悲劇に責任を感じてるんだよね?』


 地球でカリンお姉ちゃんが言った言葉。


『最後の質問権を使います。貴方が救いたいのは〝ミヤコ〟なんですの? それとも〝テリア〟なんですの?』


 私がそう質問した時、彼女は私に何と答えたか。


『私が誰を救いたいのかって? 当然あなただよ』


『それは答えになりません』


『いや、私にとってはそれこそ真理だよ。私はただあなたのためにすべてを計画して実行しているからね』


 彼女は私にヒントを与えるつもりじゃなかっただろうけど、私にとってはそれこそが決定的だった。


 どうして私は『バルセイ』の悲劇に責任と負い目を感じていたのか。


 どうしてカリンお姉ちゃんは、『アルカ』は〝テリア〟でも〝ミヤコ〟でもない〝私〟を救うと言ったのか。


 神崎ミヤコがこの世界とは何の関係もない普通の地球人だったとしたら? そのミヤコが転生したテリアは『バルセイ』のテリアとは別の人物だ。ならば〝ミヤコ〟と〝テリア〟は区別されるべきだ。


 なのにカリンお姉ちゃんはただ〝私〟を対象にした。まるで……〝テリア〟と〝ミヤコ〟を区別する必要なんてないかのように。


 その推測を確信にしてくれたのが過魂症であり……確信だったものを一つの真実にまで固めてくれたのは、私がラスボスとして覚醒した時に会ったあいつだった。


 私の中の『私』。神崎ミヤコが転生して『バルセイ』の記憶として未来を変えていった今のテリアではなく、悲劇と憎しみに絶望してより大きな憎しみで世界を飲み込もうとした『バルセイ』の自分自身。


 その『私』が私の中に存在することこそ、すべての推測と確信に対するこれ以上ない証拠だった。




「私は――神崎ミヤコは『()()()()()()()()()()()()()なのね?」




 テリア・マイティ・オステノヴァは憎しみの対象となった。世界から見捨てられた。そして憎しみを抱き、自分を捨てた世界を壊してやろうと決心した。


 アルカ・マイティ・オステノヴァはそんなテリアを救おうとした。でもいくら時間を巻き戻し再挑戦をしても救うことはできなかった。


 世界の中で終わりなく苦しむ少女を救うために彼女が最初に取った手段。それが終わりなく憎しみだけを吐き出す世界から()()()()()()()()()()することだったとしたら。


 地球を選んだ理由は分からない。魔力のない世界で平穏に生きることを願ったのか、あるいは他の理由があったのかは直接聞いてみる以外には知る方法がない。


 しかし強大なテリア・マイティ・オステノヴァの魂を地球人の肉体は耐えられなかった。


 地球以外にも何度かの試みがあったのか、あるいはその一度だけで無理だと判断したのかは分からない。でもともかく『アルカ』は『テリア』を再びこの世界に戻した。そして一つの種を植えた。


 神崎ミヤコだった頃に『バルセイ』という形で未来の悲劇をあらかじめ教え、その記憶を幼い『テリア』にそのまま引き継がせることで……自ら憎しみに閉じ込められる運命から逃れられるようにしたのだ。


 つまり今の私が神崎ミヤコの転生体である以前の話。神崎ミヤコこそが真のテリア・マイティ・オステノヴァの転生体だったということ。


 それが意味することは一つ。『バルセイ』のテリアの話はフィクションや平行世界の話ではない。あくまでも私自身の過去だった。


 それを確認することこそが今回の三問答の真の目的。


 つまり――この質問を通じて、私は確認できる。


『テリア』の残虐さは私の業。その残虐さが生んだものは私が過去に犯した罪。


 私が、贖わなければならない罪だということを。

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