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『彼女』の正体

 やっぱりこれは予想通りだ。恐らく奴もその程度は私が察していることを知っているだろう。だから当然だという風に答えたのだろう。


 問題は次の質問ね。


 次の質問の内容もある程度考えておいた。ただそれをどう展開するか、文章の表現が少し気になった。あまりにも露骨な質問になってしまえば事実上正解を聞いているのと変わらなくなってしまうから。


 私の計画では最後の質問を()()()()答えを成功させなければならない。一つ目も必ず確認すべき重要な質問だったけれど、二つ目はなおさら粗末に扱えない。


 ……いっそのこと今正解を言い放ってしまおうかしら?


 条件は三問が全て終わるまでに正解を当てることだけ。別に挑戦機会が一回きりという制限はない。


 もちろん言葉で表現しなかっただけで、各質問の間あるいは質問が全て終わった後の挑戦機会はそれぞれ一回きりという点を術式に明示しておいたけれども。そんな条件がなければツッコミをつけられると思ったからね。それでも今の答えぐらいは間違えても構わない。


【何をそんなに考えてる? 質問は前もって全部考えておいたんじゃなかった?】


 奴が退屈そうにあくびをする仕草をした。


 ちっ、せかさないでよ。


 でも奴が割り込んでくれたおかげで発想が浮かんだ。どんな答えを出そうと、核心さえ確実なら望むものを得られる質問が。


「あんた、私と……『テリア・マイティ・オステノヴァ』とどういう関係なのかしら?」


 地球でカリンお姉ちゃんと話したとき。彼女は『私』のために行動すると言っていた。


 それが『テリア』に向けた真心なら、これはその動機の核心を突く部分だ。もし嘘だとしてもこの質問の答えを通して分かることがある。


 ……実はこの質問自体にも一つの目的が更にあるけど、それだけは絶対に気づかれてはならない。


【どういう関係かって。あまりにも包括的な質問だから、適当に意味のない答えでごまかしてもいいくらいね。でもそうしたらあなたの気に入らないでしょ?】


「もちろん十分意味のある答えをしてくれれば嬉しいわ」


 奴の言う通り曖昧に終わらせやすい質問だったけど、わざとそういう形式を取った。


 質問の内容も内容だけど、この質問に答える態度自体がもう一つの答えでもある。つまりこの質問にどう応じるかによって奴の心を垣間見ることができるってことだ。


 奴はしばらく無言で私を見つめてからめ息をついた。


【私が必ず救わなきゃいけない人、といったところかな】


 奴はそれだけ言って口を閉ざした。


 言葉を促したりさらに詮索したりはしなかった。質問権として扱われるのを警戒してもいたけど、それよりもそのまま放っておけば奴が勝手にもっと話してくれそうな気配だったからだ。


 何かを惜しむような、残念がるような表情。奴の心の中に長い間溜まった巨大な怒りが眠っているのを感じたけれど、その怒りの根源は結局悲しみだった。私の前でその根源の感情がより強く表れたのだ。


 それを私がなどうして知っているのか――それこそが最も重要な要素であり、私が今知ろうとしている真の質問。


 話をたくさんしたわけではない。事情を詳しく聞いたわけでもない。実際客観的に考えてみれば、私にとって奴はただの正体不明の協力者に過ぎなかった。


 それにもかかわらず私は奴を知っていた。奴自身が思っている以上に……私自身さえもつい最近までその理由が分からなかったほどに。


 私がそんなことを考えている間に、先に考えをまとめた奴が口を開いた。


【大切な人になりたかった。大切な人として慈しみたかった。でもあなたは私には遠すぎる人だったんだ。救うどころか慰めの言葉一つかけることもできなかったよ。……最初はここまで必死じゃなかったけれど、失敗を重ねて心が擦り減っていく間に少しずつ狂っていっちゃったんだろうね】


 自分を狂ったと断言しながらも、奴はあくまで淡々としていた。


 いや、あまりにも擦り切れてしまっただけだ。それほどの年月を、それほどの回数を繰り返しながらたった一つの執念にのみ埋没した生はすでに狂気だ。


【最初は理想があった……と思う。でももう人間には永遠も同然の無駄骨を折る間に、理想だの善意だのってことは全部蒸発しちゃったよ。私が神位に上ってまでしたかったのはただ一つ、テリア・マイティ・オステノヴァをクソったれな悲劇のしがらみから解放してあげることだけよ】


 自分の手を見下ろしながら話していた奴は、最後の一言を言い終えてから初めて私を見た。その目がまるで「これくらいで答えになっただろう?」と言っているようだった。


 ……そうだ、答えになった。十分なほどに。


 そもそも確信していた事実を再確認しただけだ。しかしそれでも、それが私の心の中で確信を超えた〝事実〟になると感情が押し寄せてきた。


 あいつの……()()愛しい妹の零落した姿が、あまりにも悲しく残念だった。


 同時に怒りも感じた。彼女が行ってきたことと、その結果として誕生した()()()()()()に。


「正直予想していたわ。あなたが誰なのか、何をしてきたのかをね。もう確信のレベルだったけれど」


【そう? じゃあこの面倒な問答を終わらせてくれる?】


「今回の三問答のこと。根源の質問に答えるわ」


 奴の……この子の正体。


 彼女がどこから来て、何のために今まで生きてきたのか。その根源。


 それをゆっくりと口に出した。


「あなたの記憶、あなたの繰り返しこそが『バルメリア聖女伝記』の根源。例えれば……あなたは『バルメリア聖女伝記』のアルカだったのね?」


 彼女はカリンお姉ちゃんとして『バルセイ』を作った。


 彼女がアルカとして生き、異界の神の権能を借りながらまで繰り返した絶望の時間。そのうちの一部だけを抜粋して作り出したのが『バルセイ』のストーリー。


 つまり彼女自身こそが、『バルセイ』のアルカのオリジナルなのだ。

読んでくださってありがとうございます!

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