神の前で
ジェリアお姉さんが図々しく言った。
『私』の魔力と威圧に緊張した様子で冷や汗を流しながらも、ジェリアお姉さんの口元には挑発的な笑みが浮かんでいた。
それが気に入らない様子で睨む『私』に、ジェリアお姉さんは続けて言葉を投げかけた。
「貴様の動機と感情は理解したぞ。だが貴様は一つ勘違いをしている。非常に致命的な部分をな」
【言ってみて。聞いてあげる】
『私』の顔にはまだ不快感の感情が残っていたけれど、そうとは思えないほど大人しくジェリアお姉さんの言葉を待っていた。
ジェリアお姉さんの微笑む口元が少し震えた。緊張? 不安? 内心そんな気持ちがないわけではないようだった。しかしそれでも堂々と言葉を投げかけるのがジェリアお姉さんらしかった。
「無数に挑戦しても、テリアを救うことに失敗したのは貴様だ。そんな分際でこの世界からテリアを奪うだと? すでに無能が証明されてるくせに、テリアをちゃんと救えると思ったか? その自信はいったいどこから来たのだ?」
【……。痛いところを突いてくるね】
『私』は眉をぴくりと動かした。でも答えにはまだ平静さがあった。
【確かに私は失敗者よ。だけど人間の目ですべてを見て、神位に上り詰めてもがきながら確実に感じた。この世界の中では何もできないってこと、人間の力では何一つ成し遂げられないってことをね】
「神になってもできなかったのではないのか?」
【かつてこの世界の存在だったとしても、外に飛び出して神位に就いた以上は異物にすぎないもの。この世界の判定基準は非常に保守的でね。だから私自身の力で直接関与したことはほとんどない。私が人間だった頃のように世界の時間を巻き戻し、その後はわずかながら介入して環境や条件を少し変えただけよ】
『私』はふとお姉様の方を振り向いた。
いや、今回はなんというか……お姉様というよりも時空の亀裂そのものを見ているような感じだった。
今は開いているけど、本来は堅く閉ざされていた世界の壁を。
【この世界という枠に囚われている限り、テリアは何をしても救われない。だからいろいろと試してみた。今回の世界は唯一大きな進展があったという点では肯定的に考えているよ。けれど……同時に結局限界を超えられなかったってことも確認したね】
「性急よ。まだ結果は出ていないでしょ」
やっと我に返って一言反論してみた。すると『私』は私を呆れたように見つめた。
【結果が出た後じゃ当然遅いでしょ。それに私がどれほど多くの失敗を繰り返してきたと思う? この程度の流れなら結果なんて見なくてもすでにこの手の内にあるよ。特にあんたたちが知るはずもない真の脅威がちゃんと残っているからね】
そして『私』は片手を空に伸ばした。どこからか飛んできた小さな光の塊がその手に握られた。
光の中にあるものが何なのかは結局わからなかったけれど、『私』はそれを満足そうに眺めてから亀裂の中に投げ入れた。
そして『私』がその光を追うように踵を返した瞬間だった。
「ふっ!」
会話している間もひっそりとこっそり魔力を蓄積していた皆が同時に攻撃を放った。そしてその全ての魔力を私が『万魔掌握』にて一つに束ねて巨大な一つの破壊にした。
しかしその魔力は『私』に届く前にあっけなく無に帰した。視覚的には見えない壁に阻まれたような形だったけれど、魔力を見るとそうではなかった。
ただ神の本体が持つ巨大な力と圧倒的な存在感。彼女の存在そのものが迫ってくる魔力をそのまま押しつぶしてしまったのだ。
それでも諦める者はいなかった。
「お姉様を返して!」
皆がそれぞれの武器や手段を握りしめて飛びかかる中、私も『万魔掌握』にて作り出せる最強の魔力剣と弓を構成した。
そして大地を蹴って突進しようとした瞬間だった。
【遊んであげるのはもう終わりよ】
魔力が完全に散った。
それだけでなく体が動かなかった。私の体に何かをされたのではなく、逆らえないほど強い力が体全体をぎゅっと掴んでいるような感じだった。まるで巨大な壁の中に閉じ込められたように。
私だけでなく皆も同じだった。まるで剥製にされたように体が動かないだけでなく、体内の魔力さえも完全に固まってしまったかのように流れが止まっていた。
【必要なものがあって時間を過ごす間、一時的に対話に応じてあげた程度で私を止められると思ったの? 勘違いが甚だしいね。そしてテリアを返せだって? 何を馬鹿なことを言っているの?】
『私』は手を払うように軽く手振りをした。ただそれだけで私たち全員が吹き飛ばされてしまった。
抵抗はできなかったけど、瞬間的に魔力の流れを感じてどういう状況なのかを悟った。
私の特性である『万魔掌握』。惑星全体を支配するほど強力になった力で全ての魔力を掌握し、圧倒的な力で私たちを押さえつけたのだ。
【そもそも今のテリアを〝作った〟のは私よ。だから私の方こそテリアを取り戻す立場だよ。あんたたちに譲る理由なんてない。まぁ、たとえ論理的にそんな理由があったとしても、あんたたちが力で私からテリアを奪う可能性などないけどね】
『私』は私たちを一瞥もせずに亀裂に向かって歩いていった。
――と思った時にはもういつの間にか亀裂の外に出ていた。
【じゃあ、さらばよ。気が向いたらテリアの近況くらいは時々知らせてあげるね】
『私』はそう言いながら亀裂に向かって腕を伸ばした。その手で拳を握ると、まるでその動作に連動したかのように亀裂がドンと閉じた。
そうしてあっけなく『私』とお姉様が消えていく間も、私たちは無力にも何もすることができなかった。
昨日のお知らせで申し上げた通り、本日は昨日の分を取り戻すために二回更新いたします。
まずは今更新し、夕方にもう一度更新させていただきます。
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