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「危ないのはお姉様も同じでしょう! お姉様はやりながら、なんで私はダメなんですか!?」


 いやまぁ、それは正しいことだけど。


 この言葉が出るといつも言えなくなる。まだ幼いからダメだと言うには、私が執行部に初めて入ったのが十一才のことだったから説得力がない。他に反対する名分もない。


 率直に言えば反対すること自体が私の利己主義であるだけで、名分のようなものがあるはずがないけれど……アルカが危険なことをして怪我でもしたら私の心がもっと痛いwあよ。


 そのような考えをするためにためらっている間、アルカはまた言い放った。


「しかもそもそも執行部は生徒じゃないですか。そんなに心配するほど危険なことをするはずがありません! たとえするとしても将来騎士になって本当に危険に直面する人たちなのに何が悪いのですか!?」


 うわぁ、なおさら言うことがない。


[助けて、イシリン! 五百年の知恵が必要なの!]


【知らない、バカ。私の五百年には貴方の無理を貫徹させる知恵なんてないわ。あっても教えてあげないわよ】


[この非情な人間め!]


【本当に申し訳ないけどね、私は人間じゃないわよ。それよりそもそもそんなに反対する必要があるの? 実利的に見ればむしろアルカまで巻き込む方がいいじゃない? 悲劇を防ぐと言いながら一人で何を甘えるのよ】


 それは……そうだけど。でも、姉としてはどうしても迷う。ゲームで起きたことを考えると、アルカがどうかそのようなことと一生縁がなければいいのい。


【だからそれが甘えることよ。そもそも執行部に入ることに反対する程度にアルカを悲劇から遠ざけることができるの?】


 それはそうだ。


 アルカなら執行部でなくてもいくらでも私についてくるだろう。さらにゲームでは終盤に国全体を荒らす大災害が発生し、結局その影響でこの国が完全に瓦解した。結末になればケイン王子が再建するけれど、とにかく国が一度瓦解したということはすなわちそれだけ大きな事件が起きるという意味だ。


 実は以前アルカがこの話を持ち出した時もイシリンは同じ指摘をした。その時は結局うやむやにしたけど。


「あの……アルカ様? もし不快でしたら、僕のお願いは撤回します」


 そんな中、ジェフィスがそんなことを言い出した。この子はまたどうしたの!? と叫びたい気持ちは山々だけど、どうしてもそうはいかない。


 幸い、私が出る必要はなかった。


「何言ってるんですか! ジェフィス様は構いません! それとも何ですか、お姉様がやってあげるって言ったのに断るってことですか!?」


 理不尽だよ! 考えてみれば貴方のせいだからね!!


 ジェフィスも少し困った様子だった。そしてどうしたらいいか分からないという目で私を見た。私はただ微笑んで頷いた。まぁ、今はこれくらいでいいだろう。


 それにしてもアルカのことはどうしよう。


「ごめんね、アルカ。執行部は少しだけ延ばしてもらえるかしら?」


「なぜですか?」


「うーん……ごめんね。今説明するのはちょっと……」


 両手を合わせてできる限り困っているとアピールした。こうしておけば結局アルカが先に折れてくれる。一応今は保留して後で考え直したい。


 ……卑怯な姉でごめんね。


 アルカは不満そうに鼻息を吐きながらも、私の予想通りに一歩退いた。


「仕方ないですね。代わりに後で必ず聞きます。いや、理由などは関係ないから執行部に入ります」


「うん、ちょっと待ってくれたら許してあげるわよ」


 ごめん、嘘だよ。何とか次に話が出る前まで言い訳を探さないと。


 一方、私とアルカの争いを見守っていたリディアは、ロベルのわき腹をつつき、彼に耳打ちした。


「ねぁ、テリアはなんであんなにアルカが執行部に入ることに反対するの?」


「残念ですが知りません。僕もそこまではわかりません。恐らく執行部は高学年になるほど実戦に直接参加することが多くなりますから、アルカお嬢様の安全のためではないでしょうか」


「執行部でやることより、この森で魔物たちと戦う方が危険じゃない?」


「ここでやるのはただの修練ですからね。必ず成し遂げなければならない目標もないし、危険ならそのまま逃げてもいいでしょう」


「それはそうね。勢いを見ると、リディアが執行部に入りたいと言っても反対しそう」


 えっと……リディアの入部に反対するつもりはないんだけど。しかし、堂々と賛成すればまたアルカがなぜ自分だけを差別するのかって爆発してしまいそうで怖い。どうしよう?


【どうしようも何も、そのまま許せばいいのよ。貴方、他のことは合理的にうまくやりながら、この問題だけはすごく不合理なのは知ってるの?】


[いや、でも……心配なんだから仕方がないのよ]


【そんなに心配なら貴方が守ってあげればいいじゃない。どうせ貴方、いざ事件が起きた時はアルカが他の所にいると不安に思うでしょ? むしろ目に届く範囲にいた方がいいわよ】


 そうかしら?


 言われてみればそうかもしれないわね。


 とにかく、この問題は後で考え直すことにして、一応はジェフィスをどう強くさせるかを考えないと。


 おまけにケイン王子の歓心を買う計画もね。




 ***




 呪われた森から再びアカデミーに戻った後、私は普段は感じられなかった妙な気流を感じた。


 最初は小さな違和感だったけれど、敷地内を見回してみるとだんだんその感じが大きくなった。しばらく歩き回って観察し、耳を傾けた後になってようやく違和感の正体に気づいた。


 何か私を話題にした会話が多い感じがする。私をじろりじろりと見ながら話しをしても、私が見つめたり話しかけたりすると皆視線を避けたり言葉を慎んだりする。すべての人がそうではなかったけれど、最初はまばらだったのが時間が経つにつれてだんだん広がっていく感じだ。


「どうしたんでしょうか?」


「何かおかしいんだけど……リディアは気分が悪くなっちゃった」


「お嬢様、一度調べてきましょうか?」


 みんなも同じことを感じたようで、不快そうに眉をひそめた。


 しかも単純にヒソヒソ話で終わってもいない。いつの間にか喧嘩まで起きたのだ。よく見ると、私と親しい生徒たちと私のことをよく知らない生徒たちが互いに喧嘩を……というか、親しい子たちが何かを問い詰め、そうでない子たちが戸惑う感じだった。


 ただヒソヒソ話をしていれば聴力を強化して盗み聞きすれば良いけれど、些細だと言っても喧嘩まで起こったら放っておくことはできない。


「どうしたの?」


「あっ、テリア様!」


 近づいて話しかけると、両方ともびっくりした。しかし、その後の反応は違った。もともとヒソヒソ話していた側、つまり喧嘩が起きて戸惑っていた子たちは私の視線を避けた。反面、問い詰めていた子たちは憤慨したように怒気いっぱいだった。


「まったく、この子たちが変なことを言いました!」


「一体何の話で授業も終わったのに下校もしないで喧嘩してるの? 少し見守ったけど、貴方たちはずっと他の子たちに問い詰めながら歩き回ってたよね?」


「これは我慢できないんですよ!」


「だから何が我慢できなかったの? 私にも教えてね」


 やっと分かった事実は少し予想外だった。


 一言で言えば私に対する悪口だった。具体的には、私が有力貴族家の子たちを抱き込んで派閥を形成し、修練騎士団を掌握して勝手に動こうとするという内容だった。概してそのような内容を骨子とした噂が流れており、その噂に尾に尾をつける形でいろんな憶測が氾濫するようだ。


 まぁ、あんな話が出回るならヒソヒソ話すに値する。〝派閥を形成する〟、〝修練騎士団を掌握する〟程度のソースがあれば、そこからいろいろな不純な陰謀論ぐらいはいくらでも出てくる。今話している子たちの間でも、私が将来政界を掌握する思惑だとか、アカデミー自体を勢力に引き込もうとしているとか、いろいろな推測が出てきたようだし。


 私と親しい子たちはそのデマに憤慨して私のために走り回ったようだ。


「私のために頑張ってくれたのはありがとう。でも、だからといって喧嘩しちゃいけないじゃない。この子たちもただ噂を聞いただけなのに」


「うっ……すみません」


 喧嘩をしていた子たちに訓戒し、おまけにアルカとリディアの肩をつかんだ。この二人、 さっきから爆発寸前なのが丸見えで、すぐにでも爆発しそうなのよ。


 案の定、私に肩を取られたままでも険悪な声が流れ出た。


「その話、一体どこで聞いたんですか?」


「えっ、あの、それが……」


「答えて。誰がそんな戯言を言ったの?」


「さぁ、やめてね。ロベル、ちょっとこの子たち隔離させて」


「お姉様!?」


「テリア!? ちょっと……」


 まったく、こいつらは行動が軽すぎよ。


 そもそも公爵家の令嬢たちがそのような態度なら威嚇として受け取られることもありうるのに。そのようなイメージを作ったら、私のイメージまでさらに悪くなるからいろいろ悪手だ。私の味方になってあげようとする気持ちはありがたいけれど、その行動がむしろ私の評判を損ねていたら本末転倒だよ。


「ごめんなさい。余計に悪い経験をさせてしまいましたわね」


「い、いいえ! 私たちは大丈夫です!」


 私としてはできるだけ優しく笑おうとしたのに、噂を話していた子たちは依然として硬かった。しまった、これダメな奴?


 そう思ったけど、いざ私が何か話す前に子たちの表情が少し解けた。


「そ、それでも……やっぱり噂はただの噂か……とも思います」


「そう思っていただけると私はありがたいのですが、いきなりですの?」


「はい。テリア様は、あの……優しい御方のようで……」


 何だろう。そんな話を聞くような行動はしなかったのに。


 この子たちのためにもここでは忠告をしておかないと。


「急にどうしてそんな考えをされたのかはわかりませんが、あまり簡単に人を信じちゃダメですわよ? 表面的には親切に見えても、心の中ではどんな陰険なことを考えるか分かりませんからね」


 そう言って少し悪く見えるような微笑を浮かべたけれど……どういうわけかあの子たちが顔を赤らめた。一体何だろう?


 とにかく、その辺で話を終え、私はみんなを連れてその場を離れた。


 ……アルカとリディアをなだめなければならないから、美味しいデザート屋さんでもちょっと寄ろうか。

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