悪意の意図
【くっ……!】
テシリタはすでに衣の端だけでなく体も吸い込まれつつあった。
まだゆっくりと引きずられていく程度だったけれど、亀裂がテシリタを吸い込む力がどんどん強くなっていくのが感じられた。すでにテシリタが放出する魔力と邪毒が亀裂に吸収されていた。テシリタが亀裂に向かって何か魔法陣を展開しようとした。けど魔法陣が完成する前にすべて亀裂に吸い込まれてしまった。
【ふむ!!】
するとテシリタは異質な魔力が凝縮された拳を繰り出した。まるで物理力で亀裂を破壊しようとするかのように。
しかし拳が生み出す衝撃波と魔力の波動さえも亀裂に吸収されるだけだった。
そもそもあの亀裂は時空が壊れてできた空間。それを破壊するということ自体が筋違いなのだろう。
次に取る行動は明らかだった。
「アルカ、気をつけなさい」
「はい!」
術式や亀裂に干渉できないのなら、術式の使用者であるお姉様と私を制圧するだけ。
そう主張するかのように、テシリタの小さいが強力な肉体が私たちに向かって突進してきた。
ジェリアお姉さんをはじめ皆がテシリタを阻止するために魔力を展開したけど、テシリタは昇天した肉体の気勢と力だけですべてを突破した。
お姉様がテシリタに対応しようと動こうとした瞬間、私が先に一歩前に出た。
――天空流〈三日月描き〉
単純だが斬撃においてはそこそこの奥義にも匹敵する斬撃に、『万魔掌握』で習得したいくつかの攻撃的な特性と巨大な魔力を込めて振るった。
普通の戦いなら、今のテシリタにこの程度の攻撃は通用しないだろう。しかし今はテシリタの魔力放出がほぼ無力化されていた。だから今だけは阻止するのに効果があるんじゃないかな、という考えだった。
【甘いぞ。たかがそれほどの力がオレに通用すると思ったか?】
しかしテシリタは拳を一度振るうだけで魔力斬撃を破壊した。
放出する魔力が亀裂に吸収されるとしても、テシリタの体内に凝縮された魔力まで奪うのは無理。だから莫大な魔力を拳に凝縮して振るったのだ。
その拳が私に向かって繰り出された瞬間、お姉様と私が一緒に振るった剣がその拳を止めた。
【防御できると――】
「私たちの力だけで防ぐとは言っていないわ」
お姉様はテシリタの恐ろしい力に耐えながらも苦しげに笑みを浮かべた。
その瞬間テシリタの体があからさまに後ろに引きずられ始めた。
亀裂と術式がテシリタを拒絶する力がどんどん強くなっていった末に、今や彼女の力だけでなく肉体までこの世界から追い出そうと力を発揮しているのだ。
テシリタは足を大地に突き刺して踏ん張ろうとしたけれど、その地面自体が剥がれて一緒に亀裂へ飛んでいった。
その瞬間テシリタの口がゆがんだ笑みを浮かべるのを見た。
【まさかここまで――】
漏れ出た声は小さかったがはっきりと聞こえた。その中に込められた感情も。
それは決して悔しさや悔恨のようなものではなかった。
【あの御方とオレの神眼の予知が正確だったとはな】
テシリタがそう言った瞬間だった。
テシリタの胸と腹。いや、そこを中心に体全体を金色の魔法陣が覆った。テシリタの体はすでに亀裂を半分ほど越えた状態だったけれど、その魔法陣はこれまでと違って亀裂の外へ追い出されなかった。
体内に魔法陣を展開したのだ――私がその事実に気づくのと同時に、テシリタの魔法陣が威力を発揮した。
見ただけで寒気と吐き気が込み上げてくる陽炎が周辺一帯にちらつき始めた。
「きゃっ!?」
私たちの強い肉体と魔力さえ巻き込むほど強い突風が吹き荒れた。
いや、突風ではなかった。
「これは……術式が!?」
異物を世界の外へ追い出す術式。突如それが暴走するように揺れ動き、私たちにまで影響を及ぼし始めたのだ。
まだテシリタに作用するのほど強くはなかったけれど、お姉様と私だけでなかった。私たち全員が、正確には私たちがいる戦場一帯自体が亀裂に吸い込まれようとしていた。
「今更しがみついてくるのかしら!? しょうもないことをしてくれるのね……!」
【オレの偉大なる師匠のためだ。しょうもないという非難など、あの御方の望みを叶える喜びに比べれば何でもないぞ】
お姉様が挑発するように言ったけれど、テシリタはただ平然と答えるだけだった。
すでにテシリタの肉体は亀裂の外へ完全に追い出された。しかし世界が追い出そうとする〝異物〟はまだ残っており、テシリタの巨大な力が亀裂を掴んで閉じないように維持させていた。いや、少しずつさらに大きく引き裂いている感じさえした。
テシリタが何をしたのかは簡単に分かった。
周辺一帯を覆う恐ろしい陽炎。おそらく範囲内にあるすべてのものをテシリタのように世界の異物として扱われるようにする何かだろう。詳しい原理は分からないけど、テシリタと何か謎の繋がりのようなものが感じられるのを見れば……強制的に眷属かそれに近いものにしているのだろうかな。
テシリタが言っていたのを考慮すると、最初から私たちがこの方法を取ることを予測して道連れ作戦をするのが計画だったのだろうか。
「術式を遮断するわ」
お姉様が不意に言った。
「お姉様?」
「テシリタの術式は私たちを強制的に引っ張っていくものじゃないわ。私たちを自分自身と似た異物と判定させて、世界が私たちを追い出すように誘導しているのよ。だからその誘導術式の力さえ無力化すればいいのよ」
「どうなさるおつもりですか?」
聞きながらも私は不快な感じを受けた。
手足が凍りつくような感覚。漠然としているが強力な不安と不快感。そして何よりも……そのままにしておいてはいけないという強烈な拒絶感を感じた。
それが何のためなのかはすぐに悟った。
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