テシリタの威圧
【派手な登場だな】
慣れたようで慣れていない声が私たちを迎えた。
普段のテシリタの声……とは違っていた。基盤がテシリタだということは分かったけれど、邪毒獣と邪毒神特有の歪んだ感じと奇妙な響きが混ざっていた。それでも完全に元の声が聞き取れないほど変調されたわけではなかったため、かろうじてテシリタだと分かる程度だった。
もちろん声が完全に変わっていたとしても、その姿を見間違えることはなかっただろう。
前世でよくあった小さな魔女のステレオタイプ、……のシルエット、と言えばいいかしら。邪毒神の一般的な分身のように全身が漆黒に染まっているわけではなかったけれど、漆黒の邪毒が全身でうごめきながら本来の姿を覆い隠していた。その中で目だけが金色の眼光を強烈に放っており、どこか異質な神聖さと神々しい魔力が全身を震わせるような威圧感を放っていた。
『バルセイ』のDLCのラスボステシリタの姿そのものだった。
【……なるほど。師匠の言われたことが少し分かった気がするぞ。これが世界に拒絶される感覚か】
テシリタは手で拳を何度か握ったり開いたりしてからそうつぶやいた。
私から見ればものすごい速さで手を素早く動かしたように見えたけれど、テシリタにとっては水の中で動くよりも抵抗が強い感じだろう。
私の周りにアルカをはじめとする仲間たちと母上まで一人二人と着地したけれど、テシリタはそれを完全に無視しながらただ自分の状態をあれこれ確認するだけだった。
……攻撃することができない。
隙だらけに見える外見とは裏腹に、彼女の魔力はどこにも隙がなかった。
テシリタの前に着地した時から既に〈五行陣・金〉で確率と可能性を観測していた。しかしいくら未来を覗き見て活路を探っても、今攻撃して効果を得られる可能性が一つも存在しなかった。むしろすべての未来で一方的にやられる未来ばかりだった。
これが神の領域まで昇天したテシリタの力。ラスボスの中でも唯一討伐ではなく追放という手段を使わざるを得なかった存在。ゲームとしての『バルセイ』で言えばテシリタより難しいボスもかなりいたけれど、設定ではどのラスボスよりも強い最強の存在。
私だけでなく周りの皆が緊張した様子が私にも感じられた。
【何をそんなに固まっている。オレを倒しに来たのではないのか?】
自分自身のチェックを終えたテシリタが顔を上げた。金色の眼光が私たち全員を同時に照らした。
テシリタはふと指を立てて私を指さした。正確には私の両目を。
【この領域に上がってみて分かったぞ。〈五行陣〉は確かに奇跡の境地と呼ぶに相応しい。神眼の権能を一部とはいえ模倣できるとはな】
テシリタの言う通りだった。
今テシリタの眼光が金色なのは偶然ではない。あれは未来を見通し自在に扱う神の瞳の証だから。
〈五行陣〉が神の力を直接的に模倣したものではない。しかし世界の法則にまで手を加える領域に至ったため、結果的に神の力と類似した存在になっただけ。
しかしあくまで〝類似した〟ものに過ぎない能力と、真の神の力には差があるものだ。
【先手は譲ろう。一度来てみろ。……と自信を持って言いたいところだが、正直オレ自身も今の肉体を制御する方法をまだよく分からぬ。オレを攻撃したいなら今がチャンスだぞ】
『バルセイ』でのまったく同じセリフね。
あれはテシリタの本心だ。実際テシリタはまだ肉体の制御に慣れていないのだから。
でもだからといってこれが絶好の機会というわけではない。
テシリタは本来相手の力を見極め自分との差を正確に測量する能力においては母上の『看破』と比べても引けを取らない分析者。そんな彼女があのように言うのは、力に慣れていない今の状態でさえ私たちの力に負けないという絶対的な自信があるからだ。
それは既に事前に皆に伝えておいたけれど――。
「じゃあその言葉に甘えさせてもらうわよ」
突然母上が地面を蹴った。
既に〈選別者〉の第二形態を発動した母上の両目が燦然たる極光を放っていた。それだけでなく母上が得意とするいくつかの特性魔力が既に体を包んでおり、極光の眼光に〈五行陣・金〉の金色が混ざって共に輝いていた。
その中にたった一筋の漆黒の色が。
――テリア式邪術〈驕慢の視線〉
母上の剣が至高の斬撃を放ち、テシリタは右手を上げてそれを防いだ。
テシリタの手にごく小さな傷が刻まれ、血が一滴流れ出た。
「まぁ。この邪術はなかなか使えるものね」
母上は冷静に品評してから後ろに跳躍して元の位置に戻った。
「えっと……それはいつ習得されたんですの?」
「昔から人の技を盗むのは私の得意技だったのよ。おかげでそれを基に天空流を作り上げたというわけよ」
知ってはいたけれど、やっぱり怖い御方ね……。
けれど母上の表情は明るくなかった。
「決められた未来の可能性の中から選択する〈五行陣・金〉は確率がゼロの場合には手の施しようがないわ。一方、あなたのこの〈驕慢の視線〉は確率を捻じ曲げて存在しない可能性も実現できるのは素晴らしいけれど、テシリタには致命的なほどではないわね」
母上は口を通じた言葉で先ほど下した結論を伝えてくれた。どうせ今のテシリタの前で秘密裏の情報伝達など不可能だと判断したのだろう。正確な判断だ。
一方テシリタは自分の手のひらを見下ろした。母上が刻んだ傷には母上の強大な魔力と特別な特性が残留したけれど、その魔力さえ瞬く間に洗い流され傷は跡形もなく消えた。
【ふむ】
テシリタは何を思ったのかそんな息づかいを一度だけして、突然ゆっくりと歩き始めた。まるで散歩にでも出かけるかのような軽い態度だった。
いつまでも固まっているわけにはいかない――そのような判断の下、私たちは皆同時に動き出した。
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