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疑心と再整備

「魔力と邪毒の動きですか。どのような様子でしたでしょうか?」


「現段階では具体的にどのような傾向を示しているのか判断できないんだ。でも魔力の量を見たとき尋常じゃないレベルだってことは明らかだよ。もしかしたら安息領の所業としては今までで最大規模になるかもしれないんだ」


「最大規模というのは?」


 私がそう尋ねると、旦那様は顎に手を当てしばらく考えてから再び口を開いた。


「先日テリアが安息領がしようとしていたことを先手を打ったんだね。最低でもそれと同等のレベルになると予想しているよ」


 旦那様が言ったのはテリアがラスボス化した時のことだ。


 最低でもあの時と同等とは、ただ事ではないということだけは確かだね。あの時もバルメリア王国全域の時空亀裂を強制的に暴走させていたし、テリアが全て吸収していなかったら王国自体が消し飛ばされてもおかしくなかったから。


「テリアが戦闘で傷ついた隙にあの時と同じことを企てようとするのでしょうか?」


「それは難しいだろうね。テリアの能力がバルメリア王国の時空亀裂をすべて浄化したから。いくつかの巨大な時空亀裂が小さな残滓を残しただけで、ほとんどは完全に消滅したんだ。『浄潔世界』の世界権能はそれくらいの力だからね。まぁ、莫大な力を消耗して新たな亀裂を開くことは可能だろうけど……効率が悪いから大きな効果を得るのは難しいだろうね」


 ふむ。その意見には私も同意するけれど、そうなると何を狙っているのかという部分が分からないのが難点だね


 それについては旦那様にもはっきりとした答えがないようだった。


「とりあえず安息領が魔力を動かしている中心を見つけないとね。どこで誰が魔力と邪毒を操作しているのかさえまだわからないんだよ。まぁ、この程度の規模なら術者は限られているけどね」


「旦那様はそちらに集中してください。戦場の方は私が引き続き担当します」


「ありがとう。戦闘に関しては僕よりあなたの方が優れているだろうからね」


 旦那様ご自身の転移を活用したサポートが不可能なのは相当な損失だけど、二つのうちどちらかを選ばなければならないのであればそちらの方が旦那様に適する。旦那様の言う通り、戦闘の方は元騎士団長にして現総本部教育部長である私の方がより巧みにコントロールできるし。


「ただいま戻りました」


 そのときちょうどテリアたちとロベルたちが同時に戻ってきた。


「テリア。体調は?」


「……正直少し辛いです。完治は可能だと思いますが、しばらくは直接出るのは難しそうです」


 画面越しにも見たけれど、実際に見るとやっぱり悲惨な状態だった。紫光技で治癒系特性を模倣して自分自身に注ぎ込んでいたけれど……ピエリ・ラダスの莫大な力に晒された余波が大きかった。それでも『浄潔世界』のおかげで邪毒の影響を受けなかったのだけはせめてもの幸いと言うべきかしら。


「早く治療を受けに行きなさい。余計にその体調でまた先に出ようとするのはダメだから」


「はい」


 自分の状態がよくないという自覚はあるのだろう。テリアは文句も言わずに従った。


 その直後、イシリンが近づいてきた。


「テリアの代わりに私がここの状況を見守るわ。私が見聞きしたことはリアルタイムでテリアと共有できるし、テリアの意思を伝えることも可能だから」


「あなたは休まなくていいの?」


 イシリンの状態もそれほどよくなかった。手足が消し飛ばされたわけではないけど、傷ついていない部位がないほどだったから。


 しかしイシリンは平然としていた。


「この肉体はどうせ本体の一部を基にして魔力で具現化した分身に過ぎないの。ゆっくり回復する方が効率がいいからこのままでいるだけで、急な状況ならただこの分身を廃棄して新しく作ればいいだけよ」


「……そうですか。ならばいいわ」


 ロベルは比較的軽傷なのでここに残っていても大丈夫そうだけど、リディアは……やっぱり治療を受けた方がいいようね。前に出たのが主にテリアだったので相対的に怪我は少ないけれど、この子も無傷な状態ではないから。


「リディア。あなたも行って治療を受けなさい」


「い、いいえ! リディアは――」


「戦士には自分の体調を把握する自己客観化も重要だという基本も兄上が教えてくれなかったの? たわごと言わずに行って万全に回復してきなさい。その程度の負傷なら、旦那様の治療設備なら二十分もあれば解決してくれるわ」


 わざと目を剥いて少し強く言うと、リディアは怖気づいたように縮こまってから私の言葉に従った。


 まったく。テリアのおかげで自信を得たのは結構だけれど、余計な意地と突進性が強くなってしまったものね。私の姪でもあるからあの子の将来が心配だ。


 それに今は正直、治療をあえて拒否してここに残る理由もないし。


「ケイン王子殿下。私が申し上げるポイントに簡単な結界をお願いいたします。魔力反応が観測された場所を踏まえて安息領が何かをするなら分かるように印を残しておきたいのです」


「承知しました」


 今すぐは安息領が静かだ。だから負傷者たちを無理に現場に座らせておく必要はない。


 しかし奴らが何かを企んでいるという状況がある以上、今何も起きていないからといって油断はできない。そのためにむしろ負傷者たちは無理にでも早く治療して万全の状態に戻しておかなければならないのだ。


「とはいえ妙ですね」


 ふとジェリアさんが口を開いた。


「どういう意味ですの?」


「安息領が大きな力を集めて暴れるのはもはや珍しくもありませんが……根拠が見えないのです」


「根拠とは?」


 ジェリアさんは魔導具が出力してくれるバルメリア王国の地図を睨みつけながら、まるで視線で指し示すかのように目を少しずつ動かしていった。


 その視線が指し示すのは以前の事件が起きた場所だった。特にテリアが一年生だった頃のアカデミー襲撃事件から始まって、主にテリアが経験してきた事件の場所だった。


 私はその視線の意味を悟り、ジェリアさんが何を言いたいのかを一足先に察した。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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