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最初の勝利、最初の敗北

 空間を、次元を切り裂く斬撃がピエリの胴体を切り裂いた。


「ぐ……あぁ……!」


 ピエリの胴体から血を噴き出したけれど、直前に体を後ろに少し引いたせいで切断には至らなかった。


 けれど切断に近いほど刃が深く入り、その軌道には心臓もあった。万全であればこの程度の重傷でさえ魔力で再生が可能だっただろうけど、全身に様々な傷が累積し力を消耗した末にこの重傷はラスボスにさえ重い。


 それでもピエリは依然としてラスボスだった。


「!?」


 一瞬気配を感じて体をわずかに横に傾けた時だった。縦に振り下ろされた鋭い剣撃が体と顔をかすめた。


 刃自体は浅かったけれど、込められた魔力が私の体に染み込み、強烈な痛みと痺れをもたらした。


「うぐ……!」


「中々やりますね……」


 ピエリは口から血を吐きながらも、闘志が燃え上がる眼差しで私を睨みつけていた。


 切られた胴体はまだ十分に癒えておらず、心臓の応急手当さえ不安定だった。血を魔力で誘導して出血を止め体内の循環を維持することで耐えていたけれど、それさえ力を少なくても消耗する要素だった。


〈月蝕〉を使用した時に〈五行陣・水〉で周囲の全てを吸い込んだせいで〈滅びの祭壇〉も消えていた。それもまたピエリが持ちこたえられる一因だろう。


「しつこいわねもう……!」


 私自身を雷電に変える〈雷神化〉の能力で、出血を雷電に変え左腕の代わりとなる義手とした。そして雷電の剣を握りしめたままピエリを切るために振り下ろした。


 しかしピエリは煌々たる雷電の一撃を左手で受け流し、右手の剣をすぐさま私の心臓に向けて突き出した。


 私は右手の剣でその突きを防いだけれど、恐ろしい力に抵抗できずそのまま吹き飛ばされてしまった。


 今の一撃で感じたけど、ピエリも確実に弱くなっていた。ダメージと消耗をすでに耐えられなくなったと感じられるほどに。もはやラスボスにふさわしい力ではなくなってしまった。


 けれどその弱くなった力というのがラスボス化する前の大英雄ピエリと同じくらいのレベルだった。


 ……本当に呆れるほどの化け物ね。


 しかもピエリほど大きな幅で落ちたわけじゃないけれど、私もまたダメージと消耗により弱くなった状態。そして〈月蝕〉はまだ私の腕と全身にリバウンドが来ている奥義だ。今のピエリを相手にしても軽々しく勝算を断言することはできない。


 それゆえ今は後先を見ず最大の一撃が必要な時だった。


 ――テリア式邪術〈怒りの態勢〉


 今の闘志と敵意を全て魔力に変換し、本来の出力まで全て集めた。〈五行陣・水〉の権能が魔力を両手に集中させた。


 ピエリも私の気配を感じ魔力を引き出していた。しかし彼の消耗が私よりはるかに大きく、〈怒りの態勢〉で瞬間的に大量の魔力を引き出した私の出力を刹那の瞬間に追いつくことは今の彼には不可能だった。


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 ピエリに向かって突進しながら、〈五行陣・水〉で凝縮した魔力全てを刃に込めて振り下ろした。


 ピエリもまた瞬間的に出せる全ての魔力を剣に凝縮して振り下ろした。単に魔力を集めただけでなく、その短い瞬間に極限まで硬く鋭く磨き上げ、魔力量以上の威力と精密さを誇る屈指の奥義だった。


 しかし芸術的に磨き上げられたのは〈五行陣・木〉もまた同じ。それゆえ魔力量の圧倒的な差が勝敗を分けた。


「ぐっ」


 紫光の剣閃がピエリの胴体を別の角度で深く深く切り裂いた。


 今度こそ完全に両断してやるという覚悟だったけれど、ピエリの斬撃を突破するのに力を消耗した上にピエリが反射的に体を引いたため今回もそうはならなかった。しかし体が二つに裂けなかっただけで、十分な重傷であることには変わりなかった。


 どんなダメージを受けても姿勢だけは崩さなかったピエリが初めて片膝を地につけるほどに。


 それでも彼の手は剣を離さず、魔力を再び動かす気配が感じられた。


 でも私は出力は無限ではなくとも、保有魔力量だけは無限に近い者。それゆえ次の行動を準備し実行することが可能だった。


 ――紫光奥義〈神縛の鎖〉


 私が使用できる最も強力な拘束と封印の術式をピエリに浴びせた。


 ピエリは瞬く間に紫光技の魔力に覆われた。頭部を除く全ての箇所が隙間なく拘束され、術式の力が彼の魔力を完全に封じた。


 ラスボスとして健在な状態の彼であればこの術式さえ通用しなかったはずだけど、今なら封鎖できる。


「……この力を得て敗北した相手があなた方とは。意外です」


 ピエリは首から下が完全に拘束された状態なのに平然と言った。


 ちょうどリディアも完全に力を使い果たして〈結火世界〉の風景が消えていく中、私は倒れたピエリに近づいて彼の顔を覗き込んだ。


 諦めも敗北感もなかった。いや、特にどんな感情も感じられなかった。今の戦いと敗北に何も感じなかったかのように。


「負けたわりには平気そうね」


「さぁね。それなりに考えはありますが……私の望むものを私の手で成し遂げねばならないと決まったわけではありません。どうせ私がこのまま捕まったとしても、安息領が目的を果たせばそれでいいのです。それに重要な戦力を二つも無駄にさせたのですから成果はありましたよ」


 彼の言う通り私とリディアは他の場所を助けに行くのが難しい状態だ。リディアは力を完全に使い果たし、私は魔力は残っているけど身体のダメージと消耗を回復しなければならないから。時間が少し経てばまた戦闘が可能になるだろうけど、そうなる前に状況が終わってしまう可能性もある。


 しかし……単にそれだけでピエリが超然とした態度を見せているのか少し疑問に思えた。

読んでくださってありがとうございます!

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