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狙いの始まり

「リディア!」


 短い思念でリディアに必要なことだけを伝え、すぐに〈五行陣・水〉に転換した。


〈四蛇牙〉の斬撃のうち二つとピエリが同時に襲いかかってくる状況で、私はピエリが間合いに入ってくるまで待った。


 元々考えていた対応策は〈五行陣〉と各種術式、そして剣術を使用して対応すること。でも今は『バルセイ』の私が使用していた邪術まで手に入れた状態だ。当初考えていたよりも選択肢が増えた分、より確実な対応をすることができる。


 ピエリは斬撃と共に超高速で近づきながらも私の状態を見守っていた。〈四蛇牙〉の斬撃を先立たせながら先に斬撃を放つことも可能だろうけど、私が何かを狙っていることを感じ取って魔力を続けて凝縮しているのだった。


 ピエリならそうするだろうと思っていた。


 ――『結火世界』侵食技〈結火世界〉法則発現〈滅びの夏〉


 世界の気配が一変した。


 元々熱気に満ちて暑かった〈結火世界〉だったけれど、これは単なる暑さではなかった。体内の熱がさらに沸き立つような、世界全体が灼熱しているような、いや灼熱()()()()()()()ような奇妙な感覚だった。


 同時に体から赤い宝石が生え始めた。私だけでなくピエリの体からも。


「!?」


 赤い宝石は身体の自由を徐々に奪っていくだけでなく、莫大な熱と魔力を含んだまま揺らいでいた。今にも爆発しそうに不安定だった。


 ピエリの動きが鈍くなり〈四蛇牙〉の斬撃が先に私に到達したけれど、私は迅速な剣撃で斬撃を弾き飛ばした。体から生えていた宝石はいつの間にか消えており、その熱気がすべて剣に移動したかのように刃が燃えていた。


「ふぅっ!」


 ピエリは一部は手で、残りは魔力で宝石を引き抜いた。宝石は体から直接生えたものなので、引き抜くと身体をそのまま引き裂いたのと同じになり、たちまち血まみれになった。


 もちろんその程度は今の彼にはわずかな魔力であっという間に自己治癒が可能な程度だったけれど……宝石もまたすぐに再び生えてきた。


「これは……」


「もがいてみなさい。どっちにしてもすぐに終わるわよ!」


 叫びながら突進した。


 ピエリは再び戻ってきた〈四蛇牙〉の斬撃と共に私を迎撃しようとした。しかし彼の体は宝石が徐々に生えてくるにつれて目に見えるほど鈍くなり、宝石を引き抜いて治癒しては再び宝石が生えてくるのを繰り返していた。自然と私と戦う力も弱くなった。


 これが〈結火世界〉の法則発現〈滅びの夏〉の力。


『結火』とは熱と魔力を高密度に凝縮し結晶化させる能力。その『結火』が世界権能として進化して発現した侵食技である〈結火世界〉は当然その権能で満ちており、それを極限まで高めたのが〈滅びの夏〉だ。


 やや複雑な法則型能力を持つジェリアの〈暴君の座〉とは違い、〈滅びの夏〉の原理と効果はより単純だ。ただ〈結火世界〉内に存在するすべての熱を強制的に結晶化すること。〈結火世界〉自体に満ちている熱が結晶化し世界が徐々に覆われるのはもちろん、中にいる生命体の体温までもすべて奪われる。


 最終的には何もかもが『結火』の宝石に覆われ、自身の熱を奪われて死に至る能力。そのため付けられた名前が〈滅びの夏〉。


 この能力こそが私が今回の戦いにリディアを連れてきた理由であり、私とリディアという二人組だけで戦わなければならないと決めた理由だった。


「……っ……!」


 体の奥深くから感じる寒気に歯を食いしばり、魔力で熱を作り体内に循環させた。


〈滅びの夏〉の欠点は二つ。一つ目はリディアの力の消耗が大きすぎて長く維持できないため、決定的な瞬間を狙わなければならないこと。そして二つ目は敵味方の区別がないという点だった。


 リディアが未熟さを完全に脱ぎ捨てて自身の権能を巧みに扱えるようになっても、味方に及ぼす影響力を多少減らすことはできても無くすことはできない。そのため全力を尽くすリディアと共に戦える人間は結晶化された熱を〈五行陣・水〉で吸収して処理できる私しかいない。


「はあっ!」


 私が剣を振るうとピエリは眉をひそめながらも剣で防いだ。体のあちこちに結晶が生えた為に鈍くなった体を魔力で無理やり加速させて再び速度を取り戻した状態だった。


 しかし刃と刃がぶつかった直後、彼の体から生えた結晶が爆発した。


「くっ……!?」


〈滅びの夏〉が作り出した宝石もれっきとした『結火世界』の爆発物。威力自体は大したことはないけど、体温を奪われ続けるうえに体から生えたものが爆発すれば戦闘に支障をきたすのは明らかだ。体温を維持し傷を治癒するために常に魔力を消耗しなければならないのだから。


 それでもピエリは依然として強かった。


「ふぅっ!」


 大きく振るわれた剣から恐るべき魔力が噴き出した。それと同時に左右から〈四蛇牙〉の斬撃が私を狙った。


 一つだけでもよほどの騎士を瞬殺できる斬撃が三方向同時。私は〈五行陣・水〉で凝縮した莫大な魔力と〈驕慢の視線〉の強制力で防ぎきったけれど、〈四蛇牙〉の斬撃はまたしても逃げるように弾かれるだけだったし、ピエリの気勢も依然として衰えていなかった。


 その瞬間〈結火世界〉の魔力が大きく動いた。


 ――『結火世界』専用奥義〈滅びの城砦〉


〈滅びの夏〉が作り出した無数の宝石が上空に集まった。やがてまるで空を飛び回る城のような巨大な宝石の構造物が形成された。その先端は砲門となってピエリを狙った。


 城砦に凝縮された莫大な熱と魔力が熱線に変わってピエリに注ぎ込まれた。


「これしきなど――」


 ピエリは〈四蛇牙〉の斬撃のうちリディアの方を攻撃していたものまで私の方へ送って私を牽制し、剣に凝縮された莫大な魔力を城砦に向かって振るおうとした。


 降り注ぐ熱線と彼の剣がぶつかる直前、私は〈四蛇牙〉の斬撃を防御しながら同時に指でピエリを指した。


 ――テリア式邪術〈怠惰の剣〉

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