ちょっとだけの話
「あの……テリア。どうしてリディアと一緒に行くって言ったの?」
イシリン、リディア、ロベルと共に転移を待っている間の出来事だった。リディアが少し自信なさげな口調で尋ねた。
「なに? 一緒に行きたくないの?」
わざと少し冗談めかして応じると、リディアは手を振った。
「そ、そういうわけじゃないよ。ただね……相手はラスボス化したピエリでしょ? リディアが役に立つかなって」
「私がこういうのを親しさや感情で決めないのはわかっているでしょ? 十分に熟考した結果だから心配には及ばないわ」
「そ、それでも……」
ふぅん。最近のリディアは昔に比べれば自信がついたけど、今日は少し昔に戻った気分だね。
「なに? 自信がないの? ディオスにも勝ったじゃない。あの時も一対一ではなかったけれど、それは今も同じことよ」
「それはそうだけど……ピエリはディオスよりずっと強いんじゃない?」
「ま、そうね」
力の出力はピエリもディオスと大差ない。
しかしディオスは未熟極まりない奴が突然大きな力を得ただけのケース。正直に言えば、その力を扱う方法が圧倒的に下手だ。リディアがシドと二人で倒すことができたのもそのおかげだったね。
しかしピエリは自分の力を巧みに扱うのはもちろん、限界以上に引き出すことも可能な化け物。そんな彼に比べれば、ディオスは予行演習程度に過ぎない。
そう、その予行演習をしたかしなかったかも一つの経験だ。
「ディオスという強敵を相手に、ほぼ一対一に近いくらい戦力の中枢となって対峙した経験がある人は、私以外ではあなただけなのよ。その経験はとても重要だわ。それに……先日『結火世界』に到達したのでしょ?」
「え、どうしてわかったの?」
「魔力を感じてみればわかるわ。『結火世界』は他の世界権能より目立つものね」
『バルセイ』で『結火世界』を覚醒したリディアはすぐにその力に適応したけれど……適応を超えて巧みに扱うまでには少し時間がかかった。
力を引き出せなかったわけではない。むしろ……。
「もしかして……今のリディアの状態についても『バルセイ』にあったの?」
「そう。あなたの反応を見るに、今も大きく変わらないようね」
「……うん、そうだよ。本当に大丈夫?」
リディアは心配そうな眼差しで私を見上げた。
くっ……可愛い!
一瞬我を忘れそうになったけれど、今はそんなときではない。
必死に理性を保つ私の隣で、ロベルが首を傾げた。
「どのような状態でしょうか?」
「ああ、リディアの『結火世界』は火力が強いのよ。あまりにも強すぎるくらいにね」
「つまり強すぎる火力のせいで制御がうまくいかないということですか?」
「そう」
一言で言えば、『結火世界』を覚醒して間もないリディアは未熟な爆撃機のようなものだ。火力は強いけど、それを無差別に撒き散らすせいで味方まで巻き込んでしまう。
十分な時間をかけて修練したリディアは『結火世界』の力でハエ一匹さえピンポイントで狙撃するほどの精密さと制御力を誇るけど、今は全体的に『バルセイ』より事件の流れが速い。リディアがそのレベルになるまで待つ余裕がないよ。
「大丈夫よ、リディア。それがあるから私とあなたの二人組なのだから」
「どういう意味?」
「あなたがめっちゃ火力をばらまいても、それを全部避けてあなたに合わせて動ける人が何人いると思う?」
リディアは一瞬意味がわからないという表情で首を少し傾げた。
しかしすぐに私の言葉の意味を悟り、不満そうに可愛く頬を膨らませた。
「なに、リディアが未熟だから使い道がここしかない、ってこと?」
「あはは、そういう意味じゃないわ。でもあなたの力を最大限に活用するには、やっぱり私と一緒に行くのがよいと思って。それに……」
なぜか面白そうに見えてリディアの頬をコツンと突いた。可愛く膨らんだ頬から突かれた部分だけくぼんだけれど、リディアも負けじと頬の空気を抜かないので弾力があった。
……こんな感じは久しぶりね。
少し苦笑しながら言いたいことを締めくくる。
「私はそんな理由だけでこんな重要なことを決めたりしないわ。むしろ……あなたの力なら、わざわざ他の人がいなくても二人で十分だと思ったからこの編成を考えたのよ」
「……本当?」
「ええ、本当よ」
やっとリディアは笑ってくれた。にっこり笑う姿が可愛くて、私もより機嫌よく笑った。
そんな私たちを黙って見守っていたイシリンが口を開いた。
「それはいいけれどね。私が一緒に行かなくても大丈夫なの? 私がいないとあなたも全力を出せないじゃないの」
「それはそうだけれど、勝算はあるわ。むしろラースグランデの方にあなたの力が必要なのよ」
「……まぁ、それは私も同感だけれども」
ラースグランデの空間能力はかなり厄介な変則性と特殊性を持っている。その力にきちんと対抗できる人は限られているよ。
イシリンは肩をすくめると椅子から立ち上がった。そしてリディアの首筋をがっしりと掴むと、彼女を持ち上げた。
「え?」
「出発する前にちょっとアドバイスをするわね」
「い、今さらそんなこと……」
「心配しないで。頭の中に直接情報をたたき込んで体に熟練度をたたき込む魔法くらいいくらでもあるのよ」
イシリンは素手で小さな魔法陣を描きながら笑った。何か非常に邪悪そうな笑みだった。
不安そうに泣き顔を作るリディアを少し離れた場所に連れて行く途中、イシリンは首だけ回してこちらを振り返った。
「最近二人で話もあまりできなかったでしょ。たまにはしておきなさいな」
……あれは何の配慮?
理由のわからない行動が不思議だったけれど、確かにイシリンの言う通り、最近はロベルと個人的な話などをあまりできていなかった。
そんな考えが浮かんでロベルを振り返ると、ちょうど私の方を見ていた彼と視線が合った。
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