表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

736/891

意図の激突

 父上はそう言うと腕と肩の動きだけで槍を投げた。


 身体の力よりも魔力と魔導具の推進力が槍をとても速く発射した。そこに加えて槍先から異質な魔力が感じられた。


 その魔力が突然筆頭の無数の魔導具の一部からも感じられると、さらに加速した槍が赤い線となって魔導具を撃墜した。


 その間も凝縮された一撃同士の対決はなお続いていたけれど、拮抗していた様相に変化が起きた。


 筆頭が巨大な尖塔を爆破した。その魔力の大部分が父上の槍に浴びせられ、槍の魔力のほとんどが飛んでいってしまい槍自体も弾き飛ばされた。


 父上は弾き飛ばされた槍を魔力で引っ掛けて手の中に呼び寄せた。


「ふむ。研究が得意な公爵のくせに、かなり強いね。それは認めるけど……」


 魔力の鍵盤でまた別の曲を奏でながら、筆頭はふと只ならぬ笑みを浮かべた。


「そうはいってもフィリスノヴァ公爵を倒せないレベルだけどねぇ。こう見えてもワタシは今のやり方でもあの奴より強いよ?」


「そうかもしれないね。どうせ僕もこの場で貴様を始末できるとは思っていないよ。目的を果たせばそれでいいんだ」


「目的か。もう遅いと思うけどねぇ」


 筆頭がそう言った瞬間だった。


 突然筆頭の後ろにいた安息八賢人たちの姿が変わった。彼らの容貌がまるで空気に溶け込むように消え、みんなが個性のない木の人形の姿に変わったのだ。


「えっ!?」


「ワタシが本当にこの有用な人たちを後ろで休ませていると思ったの?」


「え、いつ……!?」


「最初からよ。さっきの槍が後ろの奴らを攻撃してピエリが阻止したのも、全てワタシの魔法で演出した操り人形芝居だった」


 じゃあ本物の安息八賢人たちはどこに!?


 私は慌てて父上を振り返った。そして思わず首を傾げた。


 父上の自信満々な笑みが見えたから。


「僕こそ聞きたいな。なぜ僕が他の子たちを素早く転移させたと思う?」


 父上は手で回収した槍を横に伸ばした。只ならぬ魔力が槍に集まった。


「発動」


 父上がそう呟いた瞬間だった。


「うっ!?」


「げっ!?」


 突然槍に串刺し状態で人が現れた。


 タールマメインとベルトラムだった。


「……ふむ?」


 筆頭の眉が動いた中、父上は槍を適当に投げ捨てた。槍がタールマメインとベルトラムを串刺しにしたまま地面に突き刺さった。その上に強力な抑制と束縛の魔力場が被さった。


「幻覚だろうが何だろうが関係ないよ。この槍が貫いたという光景が目に見えたなら、それをいつでも現実にできるんだ。これはそういう槍なんだよ」


「……へえ」


「最初から安息八賢人たちをすでに逃がしていたのは知っていたんだ。だからこれを取り出したんだよ。ま、もっと多くの八賢人を貫けたらよかったけど、残りは他の子たちと兵力に任せてもいいさ」


 父上は二つの魔導具を召喚した。父上の両脇にふわふわ浮いているそれらは巨大な球だった。


 球を包んでいる金属装置が魔力を吐き出しながら激しく回転した。


「ベティより強いといっても、僕は肉体派じゃないからね。術式と魔道具を扱うタイプなんだけど……おかげで貴様とはちょうど相性がいいと思うんだ」


「相性? 下位互換を間違えて言ったんじゃないかな?」


「もちろん下位互換さ。でも貴様も分かるだろうね? こういう特性なら、勝てなくても時間を引き延ばして足止めするのは可能だってことを。それに僕にはこの子がいるんだ」


 父上が私の肩に手を置いた。


 父上の力に加え、私も引き続き〈創造のオーケストラ〉を奏でていた。筆頭の力は確かに強く多彩で、私一人では絶対に勝てないだろう。でも父上が傍にいれば出来るという自信が湧いてきた。


 この場で出来ることが時間稼ぎだけというのは少し気に入らなかったけれど、敵の最大戦力であり組織的にも核心である首長をこの場に引き留めることには十分すぎるほど意味がある。


 一方筆頭は愉快そうな笑いを上げた。


「アハハハ! いいねぇ、そのくらいでないと相手にする価値がない。でも残念な戦略ねぇ。むしろキミたちにとってより不利になるんだから」


 筆頭が再び指のパターンを変えた。魔力が不吉な空気を帯び始めた。


「ワタシはどうせこの場を離れたらそのまま退場するつもりだった。魔力をもう少し使う代わりにオステノヴァ公爵をこの場に縛り付けておけるなら、むしろワタシの方が得をすると言えるねぇ。ワタシと戦いながら他の場所を支援できると思うなよ」




 ***




『転移』の光が薄れ、視界に入ったのは屋敷の司令室だった。


 我がオステノヴァ公爵家のあらゆる魔導具と術式で各地を観測し、遠隔で戦略魔導具まで制御できる所。父上が普段作戦を遂行する時に利用する場所だ。


 片方の壁全体を覆っているのはバルメリア王国の地図。そこに魔力の赤い点と黄色い点がいくつも打たれていた。


「これは?」


 ケイン王子が地図を見ながら言った。


「作戦状況に関連する情報を表示する点です。今なら安息八賢人たちが行きそうな場所の候補でしょうね。赤色の方がより確率が高いでしょう」


 転移の瞬間に父上が私の頭の中に直接意図を伝えてくれた。お陰で私は素早く対応できた。


「すでに筆頭は安息八賢人たちを他の場所に転移させたわ。このまま隠れていれば捕まえられないでしょうが、すぐに他の場所に現れるはずです。そっちに対応しないといけません」


 父上がいなくてもここの施設を利用できるよう様々な制御装置が用意されている。


 私はその一つの前に立った。


「議論は可能な限り短く素早く行います。すぐに行動しましょう」

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ