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ルスタンの術法

 私が受け継いだ金色の巻き毛と瞳。男でありながらどこか可愛らしい印象のある容姿。キラキラと輝くような雰囲気とどこか尋常ではない気配を感じさせる魔力。


 間違いようがない。四大公爵の一角であるオステノヴァ公爵、そしてお姉様と私の父親、その人だった。


 えっと、父上が突然どうして?


「ほう。オステノヴァ公爵が直々に来るとは思わなかったよ」


 筆頭は面白そうに笑いながら指で魔力の鍵盤を叩いた。新たに生まれた魔剣が数本、父上に向かって飛んでいった。


 お姉様と私が反応する前に、父上の魔力が先に動いた。


「せっかちだね。いきなり殺そうとするのは逆に余裕がないように見えるって分かってるかい?」


 父上は手を上げることもなく、目だけで転移門を開いた。飛び出した魔剣数本が筆頭のものとぶつかった。


 激突の余波で魔力が爆発したけれど、両者の魔剣は完璧に相殺されただけだった。


 続いて父上がようやく片手を動かして魔力を操作した。すると私たち側から私を除いた全員が『転移』の魔力に包まれた。


「父上!?」


 お姉様が慌てて叫ぶと、父上の視線がお姉様の方へ向かった。


「このままでは膠着状態になるだけだよ。ここは僕が片付けるから、君たちは他の方を頼むね」


「行かせてやるとは言った覚えはないけど?」


 筆頭が割り込んだ。莫大な力を秘めた魔剣や魔槍のような武具たちが一斉に私たち全員に向かって降り注いだ。


 それを私が〈創造のオーケストラ〉でなんとか半減させ、父上が召喚した数多の魔道具たちが残りを相殺した。


 瞬く間に皆が消えた。……私以外。


「すまないね、アルカ。力を貸してくれるかい?」


 私の傍に転移してきた父上がそう言った。


 もちろん異論はありません。


「いくらでも構いませんよ」


 躊躇なく言ったけれど、実は心配だった。父上も優れた術者だけど、私と二人だけであの筆頭を止められるだろうかな? しかも今は見物しているだけだけど、筆頭の後ろには他の安息八賢人たちがいるのに。


 そのとき父上が口を開いた。


「行かせる奴らは行かせても構わないんだよ?」


「……ふむ?」


 筆頭は父上の言葉の意味が理解できないといった様子で、片方の眉をピクリと動かした。


 父上は余裕のある笑みを浮かべた。


「正直、安息八賢人全員を封じられるとは思っていなかったんだ。何人か逃がす程度なら問題ないよ」


「へえ。ワタシをここに縛り付けて、他の八賢人の相手を他の奴らに任せるというわけね?」


「察しが早いね。でも分かっていても断れまいさ」


 父上が指パッチンをした瞬間だった。


 突然大地が激しく揺れ、莫大な魔力が周辺一帯全域から噴出した。


 筆頭の表情から初めて余裕と楽しさが消えた。


「……相当な規模ね」


「そう。そして浸透力も高いよ。その創造の術式、強力な分非常に複雑で繊細そうだね。それを維持しながら他の奴らを守る自信があるなら、やってみるといいよ」


 父上は言いながら無数の転移門を開いた。数多の魔道具が飛び出して筆頭の〈創造のオーケストラ〉に立ち向かった。父上側が若干劣勢だったけれど、私が加勢するとむしろほんの僅かながら優勢な状況に変わった。


 筆頭は再び余裕のある笑みを取り戻した。


「そっちこそ大丈夫? 最重要人物である四大公爵の一角がこんな所に直接来てしまっても」


 筆頭は脅すように歯を剥き出しにする一方、左手の演奏パターンを少し変えた。安息八賢人たちの周りに魔道具が数個現れた。あえて聞くまでもなく逃走のためのものだとわかる魔道具だった。


 それが発動する瞬間のことだった。


 ――ルスタン式魔道具制御術〈有似獄門偽名魔槍〉


 筆頭の創造の術式が生み出していた魔力の障壁を、どこからか現れた魔槍がまっすぐ貫いた。


 筆頭の〈たった一つの神槍〉と比べても決して劣らない、いやむしろ上回る一撃。それが敵の防御を突破し、そのまま敵たちを貫いた。タールマメインとベルトラムが瞬く間に血を吐きながら倒れ、さらに進む魔槍をピエリが掴んで止めた。


「行かせてやるつもりというのは嘘じゃないけど、まさか無傷で行かせてやるとでも期待したわけじゃないだろうね?」


「もちろんそうだけど、そこまで挑発して大丈夫?」


「もちろんさ。普段は前面に出ることは少ないけど、これでも結構強いんだよ」


 その瞬間、父上と筆頭が同時に動いた。


 筆頭の指が魔力の鍵盤を激しく弾き、父上が広げた手の中で魔道具が激しく回転した。


 筆頭の魔道具たちの一部が一つに纏まって巨大な尖塔のような武器に変わった。そして父上の魔槍がピエリの手から抜け出して父上の前に移動すると、周囲を激しく揺るがしていた魔力をすべて吸収した。


 凝縮された一撃と一撃が激突し、激しい嵐を撒き散らす中、父上が歌うように言葉を続けた。


「昔、ベティは『私より強い男と結婚する』と言って回っていたんだ。面倒な縁談を断るための方便だったけど、後に歴代最強の太陽騎士団長となる彼女に勝てる男などそうそういなかったんだ」


 父上の手からは激しい勢いで魔力が放出されていたけれど、父上の声は似つかわしくないほど落ち着いていた。


 爆音のせいで声が届くか疑問だったけど、筆頭の表情を見るとひとまず聞こえているようだ。


「そんな彼女の方が僕に先に惚れて告白してきたんだよ。いろいろあったけど……結局僕から先に求婚したんだ。でも僕も男だからね。目の前に挑戦すべきものがあれば我慢できないんだ」


「何に挑戦した?」


 筆頭の声が妙に明瞭に聞こえてきた。何か術を使ったのかな。


 当の筆頭の表情は予想がついているという様子だったけれども。


「ベティは自分から告白したから必要ないと言ったけど、僕は彼女が掲げた条件を守りたかったんだ。つまり――ベティに勝つことさ」


「へえ。結果は?」


「聞く必要があるのかい? もう彼女は僕の妻だよ」


 その瞬間、父上が残りの片手を横に伸ばした。


 転移門が開き、いきなり飛び出した赤い魔槍を父上の手が強く握りしめた。


「貴様が相手にする者が、少なくとも歴代最強の太陽騎士団長の全盛期より強いということをよく理解しておいた方がいいよ」

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