奮戦と予想外
「どちらにせよ、行かせるつもりなんてないわ」
お姉様は筆頭に冷たく言い放つ一方、ちらりと私の方に目配せした。
その短い動作だけじゃ多くを語れなかったけれど、お姉様の魔力が代わりに思念を伝えてくれた。
返信を送る必要はなかった。私たちにはそれほどの信頼があるのだから。
――紫光技特性模写『刹那』
まるで刹那の瞬間に無限を圧縮したかのような一撃がお姉様の剣から噴き出した。それが筆頭の魔力障壁に隙間を作った。
それだけじゃ障壁を破るには足りなかったけれど、その瞬間イシリンさんが魔法で具現化した巨大な竜の両手が障壁の隙間をこじ開けて突き進んだ。
――『万魔掌握』専用技〈法則体現模写〉・〈たった一つの神槍〉
竜の両腕が引き裂いて開いた隙間に向かって、私は筆頭が使った魔力槍を同じように作り出して発射した。
「ッッッッ!?」
その瞬間、とてつもない頭痛が襲ってきた。
まるで大きな斧で頭を叩き割られたような痛み。ただ魔法一つを模写して使っただけなのに、その反動が頭の中を激しくかき回すのを感じた。
それでも半ば意地で集中力を発揮して魔力槍を障壁の亀裂に撃ち込んだ。
勝手に暴れようとする魔力槍をどうにか誘導して筆頭の転移魔法陣を破壊した。けれど筆頭が微笑みながら左手を振るだけで魔力槍が破壊された。さらに破壊された槍の魔力の制御をそのまま奪われた。
「魔力を奪うのは『万魔掌握』だけの専売特許じゃないよ」
筆頭は奪った魔力と自身の魔力にて数十個の魔法陣を同時に展開した。
それらが魔力で輝こうとした瞬間だった。
「それがどうしたというのだ?」
イシリンさんが広げた亀裂にジェリアお姉さんが飛び込んだ。
ジェリアお姉さんが地面に力強く突き立てた『冬天覇剣』が極寒の魔力を噴き出した。それが筆頭の魔法陣の三割を凍らせた。その間にイシリンさんの竜の腕にトリアの巨大な炎風の腕が重なり、二人で力を合わせて魔力障壁を完全に引き裂いた。
その瞬間ケイン王子殿下の結界が一帯を包み込み、シドお兄さんの助けを得て音もなく潜り込んだロベルが魔法陣の一部を虚像化して無力化した。
その上にお姉様の斬撃とリディアお姉さんの砲撃が浴びせられ、私がお姉様たちの攻撃を模写して同じように放った。
でも筆頭の表情からは相変わらず余裕が溢れていた。
「ちょっとは手応えあるねぇ。楽しむつもりはなかったけど、思ったより面白いよ」
筆頭は無力化された魔法陣を未練なく捨て、残りの数十個を同時に起動させた。ありとあらゆる魔法が四方に向かって噴き出した。その中でも最も近くにいたジェリアお姉さんに無数の魔力の波が牙を剥いた。
ジェリアお姉さんは『冬天覇剣』一振りに凝縮されていた侵食技〈冬天世界〉を再び展開した。ただし広大な領域を世界で覆い尽くすのではなく、まるで自分の前に盾を立てるかのような範囲だった。
局所展開された世界が筆頭の魔力を吸い込みながら世界の力で耐え抜いた。
「くっ……!! 個人の侵食技とはいえ、世界を打ち壊すほど暴れるとはすごいものだな……!」
ジェリアお姉さんは苦しげに言葉を吐き出しながらも、最後まで耐え抜いた。すると盾だった侵食技はそのままジェリアお姉さんの魔力を吐き出す門となった。無数の吹雪の刃が安息領たちを襲った。
「もう侵食技を実に巧みに扱うようになったねぇ。かなり成長した」
筆頭はゆったりと言いながら指を動かした。まるでピアノを弾くかのような動作だった。
まるで指の演奏が音楽を生み出すように、動作一つ一つごとに魔力が美しく散りばめられ魔法陣を描き出した。
――神法〈魔法創造〉・〈創造のオーケストラ〉
それは数十個の魔法陣が共鳴して一つの術式を成す魔法だった。
まるで一つの歌が数多くの音を包み込み耳の中で美しく舞うように、絶え間なく変化し絶え間なく新しさを生み出す魔力の歌。思わず我を忘れて見入るほど美しかったけれど、その魔法が作り出す無数の魔導具と武器は極めて現実的な脅威だった。
「くっ……!」
侵食技を自在に操り筆頭の力を受け止めていたジェリアお姉さんも。突撃して筆頭に襲いかかろうとしていたトリアとイシリンさんも。先頭を他の人たちに任せて火力砲台の役割をしていたお姉様、私、リディアお姉さんも。そして様々な方法で戦闘に貢献していた他の人たちまで。
筆頭の魔法が生み出す無数の武具の歌が私たち全員の力を防ぎ、受け止め、鋭く激しい攻撃で私たちを追い詰めた。
あの〈創造のオーケストラ〉という魔法の術式ももう解析した。真似しようと思えば真似できる。でもあれは相殺したり無力化したりできる種類の魔法ではなく、そのまま複製したところで同じように使えない魔法だった。あれの本質はただ数多くのものを創造するだけで、創造するものの設計と思想は本人の頭の中にあるものを活用するのだから。
でもあきらめるつもりはなかった。
――『万魔掌握』専用技〈法則体現模写〉・〈創造のオーケストラ〉
あまりにも高等魔法なので先ほどのように頭痛が襲ってきたけれど、歯を食いしばって指を動かし魔力の歌を奏でた。
私の知るすべての魔導具を。そして術式を込めた武具を。もちろん筆頭には及ばないが、一対一ではないのでこれだけでも助けになる。
そして自尊心と恥じらいを捨てるなら、手段はいくらでもある。
「父上!」
躊躇なく叫んだ。すると戦場のあちこちに大小様々な転移門が無数に現れた。その転移門たちが吐き出した無数の魔導具が私の〈創造のオーケストラ〉と共に筆頭の魔導具軍勢に対抗した。
ここまでは予想通りだったけれど、その後はそうではなかった。
「愛おしい娘のために働ける機会を逃すわけにはいかないからね」
安息領たちの後方に大きな転移門が開き、声が流れ出た。
強力な魔導具の代わりにゆったりとした靴音が転移門から流れ出て、その後を追うように声の主が姿を現した。
皆がその姿に驚いた。私たちだけでなく安息領たち、果ては筆頭さえも予想外だったのか眉を動かすほどに。
「……父上?」
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