筆頭とアルカ
「弟子を救いに来たというの?」
「わかりやすく言えばそうね」
「え? え? あ……?」
師匠はオレの方を振り向かなかった。
しかし深々と吐き出すため息が他ならぬオレのせいだということは容易に分かった。
「まぁ、少し正直じゃなかったワタシにも非はあるね。それでもこのバカ弟子を粗末に扱ったことはないのに、こいつ一人で勝手に自分が道具だの何だのと言ってね。ワタシを敬愛すると騒ぎ立てながら、ワタシの胸の内を勝手に判断しないでもらいたいものよ」
師匠が話している間も敵の攻撃は続いていた。
しかし師匠は強力な魔法の障壁でそのすべてを防ぎ、効率的かつ鋭く素早い魔法で敵を少しずつ制圧していった。
「これしき!」
テリアの奴を筆頭に敵の攻勢も激しかった。
ベティスティアがリタイアした今、敵の最大戦力はテリア、ジェリア、トリアの三人。その三人を先頭に残りの奴らが力を合わせた連携は高度に熟達していた。万全のオレでもあれを一人で相手にしたら太刀打ちできなかっただろう。
師匠があの奴らに敵うはずがないが、今の師匠は本来の神法を使えない状態。オレの方式である〈魔法創造〉で迂回的に魔法を具現化する形でしか戦えないため、思うほど圧倒的に敵を殲滅することができない。
その上……。
「師匠、その魔力は別の用途があるのではありませんか?」
「ああ……まぁ、そうね」
だとすればやはりオレのせいで魔力を無駄遣いしているのではないか。
この場で勝利できたとしても、他の目的のために蓄えておいた魔力をここで使ってしまったのならそれは無駄だ。結局オレのせいで師匠の計画に問題が生じてしまったことになる。
師匠はオレの胸中を察したかのように額に手を当てながらため息をついた。
「ワタシが大半の生命体を道具以下に見ていたのは事実よ。正直キミを弟子として受け入れた時も、最初はただ使える道具を直接作っておこうという程度の考えだった」
「ならば……」
「けどまぁ、……思いの外情が移ってしまったよ」
師匠はそこでようやく顔だけを向けてオレを見つめると、照れくさそうな笑みを浮かべた。初めて見る表情だった。
「悠久の歳月を生きてきたワタシだけど、実は弟子を取るのは初めてでね。唯一の弟子というのが思いのほか気に入ってしまったようだ」
「え……」
何を聞いたのかよく理解できなかった。
いや、聞いた言葉自体は頭に残ったが、それが意味するところがよく分からなかった。それほどオレには衝撃的だったから。
師匠はそんなオレを見て今度は面白そうに笑った。
「もっと早くからこんな話をしていれば、キミももう少し自分を大切にしていただろうかな? まぁ今さらだけどね……もちろん今でもキミ以外はどうなろうと知ったことではないけど、とりあえず役に立つなら回収して守ってやる程度はしてあげる。そして魔力を集めてきたのは今この瞬間のためではなかったけど、だからといって今使う価値がないわけでもないんだよ」
師匠はそう言いながら水晶球を操作した。さらに多くの魔力が流れ出し、そのすべてが数十個の魔法陣を描き出すのに消費された。
師匠の力が発動しようとした瞬間だった。
「言うことも勝手気ままですね、やっぱり悪い人らしいです」
突然師匠の障壁に突っ込んできた者がいた。
***
「アルカ!?」
お姉様が私の突発行動に驚いたように叫んだ。
しかし私は沸き立つ感情をぶつけるので精一杯で、お姉様に応答する余裕がなかった。
「散々人々を傷つけ悲しませておいて二人だけで泣き芝居ですか? 加減にしてください。見ていて吐き気がしちゃいますから」
「へぇ。キミもそんな風に罵って怒れる子だったのかな?」
「あんたが私のことについて何を知っているってそんなことを言うのですか?」
魔力の障壁に剣を押し当てた。同時に魔力を操作し、剣と目で同時に『万魔掌握』の力を放った。
――『万魔掌握』専用技〈法則体現模写〉
接した剣を通して筆頭の魔力を感じ、目で筆頭が展開した魔法を全て見渡した。
私の瞳の中に無数の魔法陣が浮かんだ。
「へぇ?」
筆頭は楽しげに目を細めると、手を動かして魔法陣を幾つか追加した。
それと同時に筆頭が最初に展開した魔法陣と私の瞳の中に浮かんだ魔法陣が同時に光った。この世界の法則に該当しない不可思議な何かが無数に飛び出した。
確かに正体不明のはずの何かだったけれど、不思議なことに私の頭の中に効果と使用法がはっきりと浮かんだ。同じ魔法をぶつけ合って相殺し、時には対応する魔法を瞬時に思い浮かべて展開した。
筆頭が二度目に展開した魔法陣もすぐに模写して相殺した直後だった。
「ふーん。つい先日までこんなことは不可能だったはずだけど。何をしたのかなぁ?」
「教えるわけないでしょ!」
叫ぶと同時に筆頭の魔力が私を遠くへ吹き飛ばした。
しかしその瞬間、私と入れ替わるようにイシリンさんが筆頭に突っ込んだ。イシリンさんの魔法が具現化した巨大な竜の手が筆頭の障壁を押し潰した。破壊には至らなかったけれど、お姉様とジェリアお姉さんとトリアが安息領を包囲し、筆頭の魔力障壁に攻撃を浴びせた。
その最中にお姉様の視線が私に向けられた。少しの戸惑いが混じった視線だった。
「アルカ、一体何を……」
「ごめんなさい、お姉様。終わってからお話ししましょうね!」
「……そうね。わかったわ」
目の前に最も重要な敵がいる状況なので、のんびりと話をする余裕はない。お姉様もそれをよく分かっているはず。
……それ以上に、いざお姉様が詳しい事情を尋ねても答えにくいというのが本音だったけれども。
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