戦場の狙い
「……ふむ。一理ありますね」
[そして単に引き下がれというわけじゃないよ。すぐに別の場所に行ってもらわねばならないから。任務変更というわけ]
「承知いたしました。貴方の意志がそうであるならば」
筆頭の通信に応じている間も敵の攻撃が降り注いでいたが、適当に魔力と剣術を展開して全て受け流した。
[とりあえずそこから抜け出したら次の場所に移動させてあげるねぇ。王城の内側はやっぱりバルメリアの結界のせいで干渉しにくいから]
「この状況で自力脱出を要求するとは、他の者であれば相当困ったでしょうな」
[ワタシは出来ない奴に無理強いはしないよ]
「まぁ、そういう御方だとは存じておりますが」
攻撃を受けながらも平然と筆頭との通信に応じる一方、他の八賢人たちにも魔力で言葉を伝えた……というか、すでに私が言葉を掛ける前から此方に集まろうとしていた。筆頭があいつらにも言葉を掛けていたのだろう。
おかげで事が楽になるというものだ。
「今日はこれにて退かせていただきましょう」
「行かせはせぬ」
国王の言葉と同時に王城全体を包む巨大な結界が展開された。元々は防御用だが、内と外を断絶する強力な力で内部の敵を閉じ込めることも可能な代物だった。
笑うしかないな。
「行くのも来るのも私の心のままです。弱者のくせに生意気なことを言わないでくださいね」
返答を待たず、後方に向かって瞬間的に引き上げた全力で斬撃を放った。
巨大な轟音とともに外郭城壁ごと結界が砕け散った。
――蛇形剣流『倍化』専用奥義〈三頭竜牙〉
牽制を兼ねて奥義を放ち、斬撃の嵐が王城内を荒らし回る間に八賢人たちと共に脱出した。
あれで何人か殺せれば申し分ないが、それは難しいだろうな。とにかくあいつらの戦力を見た時に追撃を振り切るには十分だろう。
奥義の魔力が暴れ回る間に八賢人たちと共に王城から抜け出した。結界と騎士たちの妨害はあったが、城壁と最大の結界を破壊したおかげで抵抗は大きくなかった。少なくとも私の力を阻むことはできないほどだった。
[最高の結果ではなかったけど、おかげで王城にも術式を残せたねぇ。ご苦労様]
「やはり別の狙いがあったというわけですか」
[察していたねぇ]
「いつもそうでしたからね」
筆頭は元々そういうことをよく試みたからな。それにバルメリアの王城に侵入して術式を残す機会など滅多にないのだから。
具体的に何を狙って何を残したのかは分からないが、そこまでは私が知る必要もないし関心もない。
「それで、これからどこへ行けばよいのでしょうか」
[転移させてあげるよ。だから場所は――]
***
テシリタとの戦いも容易ではなかったけれど、その後の状況変化はさらに容易じゃなかった。
「――ふむぅっ!」
――極拳流奥義〈双天砕〉
巨漢の老人が放つ巨大な魔力を剣で受け流した。反撃として放った斬撃は逆に老人の拳に弾き飛ばされた。
母上と共にテシリタと二対一で戦っていたけれど、いつの間にか騎士団の一部を叩き伏せて振り切ったサリオンが割り込んできた。そして状況が分かれ、母上がテシリタを相手し、私がサリオンと戦う一対一の状況になった。
「はぁっ!」
「ふぅっ!」
剣と拳が衝突したとは思えない轟音が鳴り響き、爆発した魔力が周辺一帯を荒らした。他の戦いにも影響を及ぼすほど大きく濃密な爆発だったけれど、その爆発が押し出す衝撃波よりも私とサリオンが互いに向かって突進する勢いの方が凄まじかった。
――テリア式天空流〈月光蔓延二色天地〉
――サリオン式極拳流〈獄炎焼山閃連〉
紫光技と浄化の二色が入り混じった斬撃の乱舞と、機関銃のように噴き出す獄炎の鉄拳の乱撃が互いを喰らい付いた。斬撃がサリオンの炎を削り取り、炎が斬撃の魔力を叩き壊した。
破片となって舞い散る火花と魔力を掻き分けて進み、剣を振るう。サリオンの腕と衝突した剣をさらに押し込むと、サリオンも鋼鉄のような腕を押し込んで力比べに応じた。
「驚嘆すべき力じゃ。まだ二十にもならぬ若造がこのような力を持つとはのぅ」
「感心したなら褒美で負けてくればいいものよ? 年を取ったら若い者に代を譲って引退する時を心得るべきよ」
「儂より強い若者が儂の役目を引き継ぐなら、いくらでもそうするぞ」
偶然にも私とサリオンは同時に相手を押し退けようと魔力を噴き出した。
『万壊電』と『獄炎』の力が暴れ回り、互いを喰らい付く魔力が周囲に破壊をさらに撒き散らした。しかし余りにも濃密な魔力が突破を許さなかったせいで、肝心の私たち二人は魔力を魔力で防ぎ合う形になった。
状況を先に動かしたのはサリオンの方だった。
――極拳流〈頂点正拳突き〉
片手を離し強力な拳を放ってきた。私はそれを剣で受け流したけれど、強すぎる力と魔力を全ていなし切れずに後ろに押し戻された。力に圧倒されそうになったのをどうにか辛うじて耐え抜いた。
その後も時には拮抗し、時には強い力をいなしながら反撃を突き入れた。サリオンとの戦いは概ねそういう形だった。
テシリタの弟として遥かな歳月を生きてきたサリオンの技量は圧倒的だ。そこに長い歳月鍛錬を積んできた肉体と魔力もまた泰山のようだった。私がいくら才能と無限の魔力で地獄の修練を積んできたとしても、サリオンが積み重ねてきた歳月と修羅の経験を圧倒するのは難しかった。
戦闘スタイルという側面でほぼ私の上位互換に近い者。ある観点では術式で戦うテシリタよりもこっちの方が私には手強い相手だ。
それでもテシリタの方を母上に任せてサリオンを私が担当したことには理由がある。
今からその理由を見せてやるよ。
先週のお知らせで、今週の週末は両日とも二回の更新をするか、それが難しい場合でも一日は二回更新すると申し上げました。
現在の準備状況を見て判断した結果、本日は二回の更新は難しそうですが明日は可能だと思っています。
就寝までに十分準備して明日二回の更新をし、残りの一回は来週に行うことにいたします。
読んでくださってありがとうございます!
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