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変則と分析

 光が空間を貫いた。


 既に何度も見てきたアルカさんの矢だった。しかし凝縮された力の量も尋常ではなく、何より……その異質な感覚が普通の魔矢の砲撃とは違っていた。


「はぁっ!」


 警戒と敬意を込めた斬撃でアルカさんの砲撃を払った。思っていた以上に重かったが……それ以上に異質な力が問題だった。


 この感じは筆頭の弟子であるテシリタの魔法という能力から感じたものと少し似ていた。


「もう一度!」


 そう叫びながら魔矢を装填するアルカさんの後ろに見慣れぬ少女がいた。


 身体的特徴を見るに資料で見たイシリンという者のようだ。そのイシリンがアルカさんに何か力を伝えたような気配が感じられた。


 ただテシリタの魔法と似たような類いだからだろうか。それが何なのか具体的に把握することができなかった。


 しかもそれだけではなかった。


 もう一度魔矢の砲撃が来た。私はそれを避けようとしたが、その瞬間魔矢から不可思議な力が噴き出した。それが私に到達する前に空間が先に歪み、瞬間的に周りの全てが暗黒の中に落ちていった。


 その暗黒の中でどこに動いても魔矢が私を追ってきた。……いや、違う。動いたと思ったが私の体の空間的な位置が変わっていなかった。


「くっ!?」


 剣で魔矢を防いだ瞬間私の体から何かが噴き出した。まるで澄んだ水に絵の具を落としたように色とりどりの光が暗黒の中に広がっていった。


 力の根源は分からないが、結果は明白だ。私の力が漏出していた。


 割合で見ればそれほど大したものではなかったが、直撃を受けたわけでもなく剣で防いだだけなのに私の魔力を漏れ出させるのは並の能力ではなかった。少なくとも力の大きさで私が圧倒されたわけではないということだけは確かだったが。


 私の魔力が極彩色の派手な形で暗黒の中を照らす中、突如として別個の光が現れた。


 真っ白なそれはすぐにアルカさんの姿となった。


「はあっ!」


 数多くの魔矢が衛星のようにアルカさんの周りを飛び回り、アルカさんが両手で振るう双剣と歩調を合わせて私を攻撃した。


 一つ一つは確かに強力な攻撃だが、ただ強い攻撃を物量として繰り出すに過ぎない単純な攻撃。今の私なら単純な力勝負でも、そして速度でも逆に圧倒できるはずだ。


 ……確かにそうなるべきなのに。


「ふむ?」


 魔矢が私の頬に軽く触れた。


 アルカさんの攻勢が妙に速かった。……いや、違う。速度は相変わらず私が予想した程度だったが、時々中間過程を飛ばしたような攻撃があった。魔矢が空間を飛び越えて瞬間移動でもしたかのように突然目の前に現れたり、振り下ろされ始めたばかりの剣が次の瞬間には突然私の体に触れていたり。


 力と技量の差があまりにも大きいので相変わらず私が不利というわけではなかったが、アルカさんの変則がその格差をある程度補っていた。


 ふむ。試してみるか。


 ――蛇形剣流〈踊る蛇の群れ〉


 蛇のように乱れ動く連続斬撃を放った。


 元々は華やかな外見で目と感覚を惑わせる間に本当の攻撃を仕掛けるための技に過ぎないが、今の私の力ならこれだけでも必殺に至る。


「っ!?」


 アルカさんが少し慌てたような気配を見せた直後だった。


「ほう」


 またしてもアルカさんが空間を飛び越えたような動きを見せた時だった。私が放った斬撃の乱舞も空間を飛び越えたかのように突然移動していた。アルカさんの不可思議な動きと完全に同じタイミングで。


「局所的な時間停止、もしくはそれに準ずる何かですね。かなり高度な技術です」


 単純に私の動きを停止させるのなら意識まで止めることはできない。


 しかし私一人だけの時間を停止させるのなら、私の感覚と意識まで完全に断絶させることができる。既に放った斬撃の魔力は止まっていないのを見ると私の肉体だけにピンポイントで作用したのだろう。


 しかし時間停止と言っても普通は魔力が発動する前兆がある。それなのに前兆が一切なく効果だけが発動するとは。どうなっているのか分からないがかなり脅威的な力だ。


 まぁ、それだけだ。


「たかがそれだけで私に挑んできたわけではないでしょう?」


 言いながら緩急を調節した攻勢を浴びせた。


 時には弱い力でただ速度だけを生かして腕や脚などの比較的致命的でない部位を。時には強力な魔力と致命的な速度で心臓や頭のような重要な部位を。剣で各箇所をそれぞれのペースで狙った。時には魔弾や白光技を出力と部位を調整しながら浴びせかけもした。


「っ、負けませんよ……!」


 アルカさんは必死に私の攻勢を受け止めた。当然その過程で先ほどの時間停止もまた続けて使用された。


 私は時間停止が使用されるパターンと状況に注目した。


 比較的防御しやすい攻撃にはほとんど使用しない。一方で致命的で、アルカさんの力では避けたり防いだりするのが難しい攻撃には必ず時間停止が使用された。


 一度は試しに三回連続で必殺の攻撃を放った。するとアルカさんは三回連続で私を停止させ攻撃を遅らせ回避した。


「ふむ、思った以上に強く、能力をうまく活用しているようですね。しかしそれだけです」


 連続使用には制約がないか、あってもゆるい方だろう。しかし一度に止められる時間は極めて短い程度で、力の消耗も大きいようだ。よく見ると反動で頭痛もあるようだし。


 思った以上に有用だが、想定していた限界の一部がそのまま見えた。


 ――蛇形剣流〈蛇の祭り〉


 振るわれた剣から伸びた魔力が奇妙に動く無数の斬撃となってアルカさんを襲った。


 本来蛇形剣流は魔力を操作して斬撃の軌道を自在に変化させる剣術。そこに私の愛剣は思いのままに斬撃を扱う力を持っている。これらを組み合わせれば、私自身の肉体が停止しても別個に動く斬撃がアルカさんを攻撃するだろう。


 それを基に隙を作り、私を停止させても逃げられない必殺を仕掛ける――実に簡単だが確実な攻略法だ。


 しかしアルカさんがそれだけで終わるという期待はしていなかった。


 何を見せてくれるか楽しみだな――。

読んでくださってありがとうございます!

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