ピエリの視点
「よくもそんな余裕を見せるんだな」
「時間に追われる必要がなくなったからですよ」
テリアさんの協力者たちは強い。
単純に年齢に見合わないレベルを超えている。年齢を考慮に入れなくても彼女らは強力な戦力だ。しかも彼女らをここに送ったのはオステノヴァ公爵のはずで、あの公爵の力は座ったままでバルメリア全域に等しく届く。ここの戦いにも『転移』の力で介入するだろう。
しかし他の場所でも他の人でもなく、ここで国王を狙う敵に彼女らを送ったということがどういう意味なのかはっきりと見えた。
「相変わらずですね陛下。大局的な目的のために自らの命さえ餌に出すとは」
「何を言っているのか余にはわからぬぞ」
平然と会話を交わしながらも、体は降り注ぐ攻勢に対処していく。
最前線は国王、ジェリアさん、ケイン第二王子の三名。王と王子と公爵令嬢が最前方というのは笑えない配置だが、これがバルメリア王国の特徴なので仕方がない。
幻術と爆炎の変則を利用してロベル君とリディアさんが支援や遊撃を実施し、シド君はハセインノヴァの力を十分に活用した暗殺術で隙を狙う。そしてアルカさんが前方の三人を絶妙に避ける射撃術で強力な火力を投射してきていた。
相当な連携と力だったが、今の私の剣術と魔力はそれら全てを防ぎきってもお釣りがきた。
「ぐっ!?」
私の斬撃が国王の肩をかすめた。『覇王の鎧』のせいで体まで届かなかったが、始祖武装である鎧の肩鎧がごっそりと切り取られた。
今の守勢など何でもないということを知らせながら、私は平然と言葉を続けた。
「テリアさんのお友達は確かに強いのですが、厳密に言えば正規戦力ではない方々が多いです。国王を守り安息八賢人を討伐するという目的に適う戦力はこの方々ではありません。騎士団の万夫長級あるいは団長が直接出陣するのが正しい配置でしょう。それなのにこのような者たちをここに集めた理由は何だろうか。他の人には理由がよく見えないでしょうが、陛下の性格と戦略をよく知る私には明らかです」
――蛇形剣流奥義〈一頭竜牙〉
もう一度斬撃の竜を放つ。
ちょうど同じ方向から飛び込んできたジェリアさんとケイン王子が同時に巻き込まれた。二人はそれぞれ氷の盾と結界で防御しようとしたが、斬撃の竜がそれを簡単に噛み砕き、二人を襲った。
「ちっ……! 下がれ!」
「ジェリア!?」
ジェリアさんは『冬天世界』の魔力を高めた体で斬撃を受け止めた。
「うぐ、あ……!」
「ジェリア、何で……!」
「……ボクはすぐに戻る。少しの間耐えてくれよ」
ジェリアさんは血まみれになった体を剣で支えながらそう言った。
ふむ。正直本気で殺すつもりだったが、思ったより強くなったね。これは見積もりを上方修正する必要があるようだ。
一撃で一人を無力化したことを脅威に感じたのか、敵たちの緊張の気配がさらに強くなった。
「他の八賢人たちを騎士たちが押さえつけている間私一人を相手にしながら顔に余裕が全く見えませんね。もう少しリラックスするのがいいですよ」
軽い野次の意味を込めて言葉を発しながら、歩みをさらに前へと急がせる。
飛びかかってくる者たちと遠くから投射してくる火力を斬り続けながら、視線だけは国王に固定した。
一息で国王の目の前に移動。上から下へ思い切り剣を振り下ろすと、国王は結界兵器の大剣を持ち上げて防いだ。私が押し下げる力を国王が結界と腕力でなんとか耐え抜く形となった。
「私を含めた五人はここ。テシリタとサリオンは大監獄。筆頭はいつものように雲隠れ。八賢人全員を最低限の戦力で縛り付けている間騎士団の主力は核心戦力を欠いた安息領を討伐する。昔から陛下はこのような作戦を好んで使いましたね」
「……否定はせぬ。汝がここで時間を無駄にしている間に安息領の勢力が急速に減っていくであろう」
「正直どうでもいいことです」
おや、少し倦怠感を覚えてしまった。
国王と力比べをする私の背中にありとあらゆる攻撃が浴びせられたが、私は強大な魔力を噴出するだけでそれを全て弾き返した。
「そもそも安息領に入ったのは目的を果たすためだけです。正直部下たちなんかどうなろうと関心もないです。それに目の前にいるキングを捕まえさえすれば自然とゲームの勝利は私のものになります。わざわざこの機会を蹴り飛ばす理由がありますか?」
そもそも国の核心である国王と四大公爵家の一員たちが集まって私を押さえつけるというのがバカげた作戦だ。
国王は論外として、残りの面々もほとんどが四大公爵家の後継者たち。ロベル君のような使用人たちは置いておくとしても、後継者たち一人一人が重要人物であることは疑いの余地がない。
どんなに強くても一人も死んではいけない奴らがぞろぞろ集まって死地に飛び込むなんて。こんなのは作戦でもなんでもない。
救いようのないバカの作戦か、あるいは何か別の理由があるのかだが……。
「ふむ?」
ふと巨大な気配を感じると同時に、突然猛烈な炎の風が視界を覆った。
その炎風を突き抜けて、いや伴って一人が飛び出してきた。テリアさんのメイドであるトリアだった。
両腕が炎風と混ざり合った触手のような形態になっていた。それが瞬時に私の両腕に絡みついた。
相当に強力な魔力の気配を漂わせていた。どうも見えないと思ったら、今まで戦闘に参加せずに隠れたまま力を溜めていたようだ。私を制圧するために。
「このまま大人しくしろ」
「嫌なら?」
だがそれでもまだ力不足だな。
トリアの肉体と魔力は強力だった。私でさえも息をするように簡単に砕き散らすことはできなかった。しかしそれだけで、力を少し使えば振り払うのは容易だった。
だが砕いても砕いても絶え間なく襲いかかる炎風の触手はかなり煩わしかったし、時間も取られた。
しかもさっき感じた巨大な気配はトリアのものではなかった。
その気配の正体が、私に飛んできた。
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