バルメリア王の意味
「ぬおっ!? やるじゃねぇか、おい!!」
ボロスは勢いよく再び立ち上がり槍を振り回した。国王は魔力の盾でその一撃を弾き返し、直後に後方にいた騎士数名がボロスに斬撃を放った。
ボロスは嬉々として立ち向かおうとしたが、その前に私が魔力の手で奴を私の前まで引っ張ってきた。
「うわっ!? おい、何してやがんだ?」
「たわけ。前後も分からず飛びかかってどうするつもりだ」
「どうせあいつが目標だろうが。のこのこ出てきやがったんだ、ありがたく斬り殺せばいいぜ」
はあ。いつもそうだが何も分かっていない奴だ。まったく。
「そんな簡単な問題なら私が先に飛び出して斬っていただろう」
ボロスの奴はまだ不満げな様子だったが、他の八賢人たちは国王と騎士たちを警戒しながら見守っていた。
やはりボロス以外は頭の回る奴らで良かったな。
どういうわけかリーダー役をすることになってしまったが、実際にあえてリーダーを一人立てるならこの場では私が適任だろう。力でも残りの四人を一度に制圧できるほどだし、何より……八十年間騎士として生きてきた私ほど相手についての情報をよく知っている者は他にいない。
国王はニヤリと笑いながら右手に魔力を集中させた。
「まことに遺憾だな。そのまま来させれば良かったものを」
「陛下の陰湿な罠にかかると私たちが面倒になりますからね」
わざとひどく皮肉った調子で言ってみたが国王は相変わらず笑うだけだった。まぁ、昔からこの程度の挑発に乗ってくるバカではなかったね。
一方、騎士の一人が国王に話しかけた。
「陛下。今からでも避難なさらねばなりません」
「もはや遅し。今逃げたところで逃れられると思うか?」
「何とかしてそれを可能にするために私たちがここにいるのです」
「否」
国王は断固として言いながら右手の魔力を展開した。手から噴き出した結界の糸が無数に絡み合い巨大な大剣の形状を取った。
強力な結界の起点であり、それ自体が一つの動く結界でもある結界兵器。それ自体はそれほど珍しくない。
しかし国王の結界兵器は尋常ではない魔力を放っていた。
次の瞬間、国王はボロスの目の前にいた。
「うおっ!?」
結界兵器の大剣とボロスの槍がぶつかり合った。強力な斥力がボロスを押し返した。
しかしボロスも動揺して適切に対応できなかっただけで、態勢を立て直してもう一度押し返すと二人の力が拮抗した。
ボロスは愉快そうに笑い声を上げた。
「わっはっはっは! なんだよ、王様ってのは全部こんなもんかよ?」
「我が始祖、英明なる覇王は皆の前に立ち、敵を防ぎ砕く英雄であられた。我らバルメリア王家は常に始祖の態度を胸に刻んで生きておるのだ」
「くはははは! 面白ぇじゃねぇか、おい!!」
嬉々として槍を振り回すボロスと冷静に立ち向かう国王の対決はかなり互角だった。
「あのままでいいのか?」
「当然そうじゃない。……だが、今は慎重に接近しないと」
その様子を見守りながら私はしばし考えに沈んだ。
バルメリア王家は代々万人のために率先して戦う勇者を標榜してきた。あの国王も実際に多くの戦線に直接出て戦った。私も何度か一緒に戦ったことがあった。
しかしだからといって君主である国王の武力が絶対的かというと、もちろん答えはNOだ。
よほどの騎士より強いのは事実。しかしバルメリア王家の真骨頂は結界であり、その能力を最大限に活用してありとあらゆる結界の補助を受けてようやく万夫長級程度だ。安息領に例えるなら安息八賢人の下位の奴らと良い勝負になる程度だろう。
そんな国王が私を含む八賢人五人を相手に逃げ出さなかっただけでなく、むしろ不用意に接近しながら攻勢を取っている。
国王は勇猛と無謀を勘違いするバカではない。いくらバルメリア王家が勇猛だとしても、自分の変事がどんな結果をもたらすかよく分かっているはずだ。
それでもこのように行動するということは……。
「相変わらず考えが多いな、ピエリ・ラダス。それが汝の長所でもあり短所でもあるのだ」
国王の突然の言葉が私の耳を打った直後だった。
「ふむ?」
目の前が歪んだ。視界だけでなく聞こえる音も、皮膚で感じる触感さえも奇妙に捻じれた。
正確に何なのかは分からないが、単なる幻覚ではなく空間を歪める結界の一種だった。
ここは王城、つまりバルメリア王家にとってはホームグラウンド。高位貴族さえも知らないありとあらゆる結界が存在する。恐らくそのうちの一つだろう。
もちろん今の私にはこのように平然と考察を続けられる程度のものでしかない。
「それも仕方ないでしょう。考えるのをやめさせるほどの脅威が全く感じられませんから」
左手を振り回した。その動作一つに宿った膨大な魔力が結界の力を荒々しく破壊した。
そして一歩を踏み出した瞬間、突然床全体に結界の糸が走った。
――バルメリア式結界術奥義〈無間処刑〉
再び空間が歪み、今度は魔力の流れまでねじれた。
攪乱を超えて空間と魔力の歪みで敵を引き裂く攻性結界。バルメリア式結界術でも最上位の技だ。
本来はより広い範囲で多くの敵を虐殺する秘術だが、範囲を圧縮して威力をさらに引き上げたようだ。さっきの歪みはこの結界の力が範囲外に漏れ出た断片に過ぎなかったのだ。
「取るに足らない罠ですね」
力を込めて地面を踏みつけた。広がっていった魔力が結界を押しつぶした。
最上位の攻性結界とは言っても今の私には脅威にはならない。
しかし歪んだ空間は元に戻らなかった。
砕け散る魔力がいつの間にか別の流れで動き始め、再び周りの光景が揺らいだ。今度は攻性結界ではなかったが、さっきよりずっと深く強力な攪乱の結界だった。
〈無間処刑〉も次のための準備だったというのか。
それを把握すると同時に、私は国王が直接乗り出した理由をようやく理解した。
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