協力戦い
「うむ!?」
テシリタが何かを感じ取ってハッと顔を上げるのとほぼ同時に、突然巨大な魔力が爆発しテシリタを襲った。
その実体は私のものをはるかに凌駕する精密さで磨き上げられた極光の斬撃だった。
今この世界の人間で極光の魔力を扱えるのはたった一人だけだ。
「私の目の前で我が娘に傷を負わせようとするなんて。肝が据わっているわね」
母上だった。
テシリタは母上の最初の斬撃を魔法で受け流し、母上に向かって攻撃魔法を浴びせかけながら平然と口を開いた。
「今更現れて目の前云々とは、昔も今も身勝手で良心がないな。母親になっても変わらぬか?」
「すっかり老いぼれたくせに子供の姿で可愛こぶるババアにそんなこと言われたくないわ」
「……オレの身長が伸びなかったのはオレが望んだ結果ではないぞ。くそったれめ」
どうやら言い争いは母上の勝利のようだ。
母上がこういう態度なのは過去テシリタと何度か交戦したことがあるからだけれど、あんな言い争いをしながらも互いに斬撃と魔法を絶え間なく浴びせ合うのはさすがだね。
私も再び参戦した。同じ敵を相手に母上と一緒に戦った経験はそう多くないけれど、私たちは幻想的な呼吸で連携しながらテシリタの魔法を少しずつだけど押し返し追い詰めていった。
母娘の力……というより、母上が神妙なほど私の方に合わせてくれているおかげだけれども。
「それより貴様は五大神教と交戦中だったはずだが。そちらにも『光』の宗派が介入したのか」
「やはり見ていたのね。そうよ、そちらは『光』の人たちに任せて来たの」
言いながら母上は私に一瞬目配せした後、前に大きく出て剣を振るった。
テシリタの魔法は元々強いけれど、今は〈七歩獄門蹂躙〉の三歩を積み重ねて増幅された魔力と〈千変の万華鏡〉の素早く無数の魔法行使でさらに強力だった。
それでも母上は神技に達した剣技と魔力制御でそのすべての魔法を受け流した。
ありがとうございます、母上。
――天空流〈彗星描き〉
母上が防いでくださる隙に力を溜めて一点突破を敢行した。
降り注ぐ魔法を避けて突破しながら瞬時にテシリタに接近。そして予め溜めておいた大量の魔力を剣に注ぎ込んだ。
――天空流奥義〈二つの月〉
限界以上の魔力を〈五行陣・金〉の権能で剣身に圧縮し磨き上げる。その魔力自体が物質を分解する破壊的な雷電である『万壊電』であることもあって、触れるだけですべてを分解して切断する究極の剣となった。
その刃がテシリタの魔法を突破した末に彼女の頬に掠り傷を残した。
「なかなかやるな」
テシリタは頬から流れる血を舌で舐めてから、さらに赤く染まった舌を私の方に伸ばした。舌先に付いていた血が光る魔法陣を描き出した。
――神法〈魔法創造〉・〈天罰の一線〉
濃密な魔力が凝縮された血から発せられた魔法の閃光は他の魔法よりもっと強力だった。
けれど私に集中する一瞬、母上の方に浴びせかけていた魔法の勢いが少し弱まった。母上はその隙を逃さず突っ込んできた。母上の剣が閃光を荒々しく叩き割り、その勢いのままテシリタの首筋にも小さい掠り傷がついた。
私と母上がそのまま突っ込むと、テシリタは舌打ちをしながら〈千変の万華鏡〉の数多くの魔法陣を自分の周りに再配置した。
「やはり面倒だな」
数多くの魔法を一つに圧縮したかのような光の刃が私と母上の攻撃を阻んだ。
直後テシリタは母上の方にはその魔法の刃を変換した閃光を放ち、私の方は小さな足で剣を蹴り上げた。
その瞬間〈七歩獄門蹂躙〉の四歩目が成立した。
「きゃっ!?」
急激に増幅された魔力と空間を押しつぶす威圧が剣に大きな衝撃を与えた。壊れはしなかったけれど骨の髄まで伝わる衝撃が私を一瞬麻痺させた。
テシリタはその勢いのまま体を回しながら回し蹴りまで繰り出してきた。
「ふぅっ!」
今度は母上が私の前に飛び込んできて攻撃を防いでくれた。
防御は成功したけど、剣身を足の裏で叩くことで五歩目が成立した。空間を押しつぶす力がより強くなり、具体的な方向性を帯び始めた。
しかし母上は私とは違って蹴りと増幅の衝撃を柔らかくいなし、そのまま体を回転させながら斬撃を放った。
「まだまだだぞ」
テシリタは無数の閃光砲を乱射した。
一発だけでも十分重厚で強力なそれが弾幕を成すほどの連射。そこに一度に二歩を完成させてステップアップした威力は防いで受け流すことさえ大変だった。
それでも瞬間的に〈五行陣・金〉と〈驕慢の視線〉を重ね合わせてすべての攻撃を処理し、弾幕の隙を突くように放った〈流星射ち〉がテシリタの腹を目指して伸びていった。
テシリタはそれを避け、お返しとばかりにさらに密な弾幕を放った。
[その程度なら僕にも使えるかな]
その瞬間父上の声が響き、私の前に巨大な転移門が現れた。
門がテシリタの閃光砲を飲み込むや否や、テシリタの周りに小さな門々が現れた。吸収されていた閃光砲が逆に彼女を狙った。
テシリタがその攻撃を魔法で防ぎきるのには刹那の時間が必要だっただけだったけれど、その刹那さえも母上には大きな隙だった。
――天空流〈フレア〉
ただ速いだけの遠距離斬撃。
しかし母上が生み出すそれは誰も防げない最速の鋭さだった。テシリタにも通じるほどに。
「くっ……!」
テシリタの脇腹から血が滲んだ。
傷自体は深くなかったけど、これまでの中では最大のダメージだった。わずかな痛みと怒りによってテシリタの対応力を一瞬弱めるほどに。
その隙を突こうとした私の剣をテシリタの魔法が防ぎきったけれど、防御魔法がきしんだ。
それでもテシリタは笑った。
「……確かに一人でこの戦力に立ち向かうのは容易なことではないな。だが貴様らはまだ勘違いしている」
「何を?」
一瞬不安感が頭をもたげた。それを押さえ込むために、わざと声に力を込めた。でもそれは意味がなかった。
もう遅かったから。
「オレの勝利条件は別段この戦いに勝つことではないぞ」
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