一対一
テシリタは数多の魔法を放った。火や氷、雷のように前世のゲームでよく見られるような魔法はもちろん、空間操作や普通とは何か違う奇妙な幻術のようなものも絶え間なく放たれた。
一方で私の対応は単純だった。
「はあっ!」
〈五行陣・水〉にて強力な魔力が凝集された二つの刃をただ振るうのみ。
圧倒的な魔力量と密度を帯びた双剣がテシリタの魔法を全て斬り払った。本来なら剣で斬れないはずの種類さえも、過度に集束された魔力が空間と法則さえも歪めた。否、〈五行陣・水〉の権能が斬り払った魔力さえも吸収しながらさらに魔法を弱めた。
けれどテシリタはそんな単純な攻略法などに負けてくれる相手ではなかった。
「面倒だぞ」
冷たい声が流れ出た直後だった。
――神法〈魔法創造〉・〈千変の万華鏡〉
風景が歪んだ。
単なる幻覚や空間操作ではなかった。むしろそれ自体にはそのような効果はなかった。
テシリタはただ小さく微細だけれどこれ以上ない強力で複雑な魔法陣を数え切れないほど多く展開しただけ。でもその魔法陣があまりにも強い魔力を帯びたために空間が勝手に歪んだのだ。
当然その正体が魔法陣の軍勢である以上、その脅威は平凡な空間操作に比べようもなかった。
――テリア式邪術〈怒りの態勢〉
――天空流奥義〈五行陣・火〉
巨大な魔力を無数の斬撃の嵐に変えて放つ。万華鏡を成していた魔法陣の一部が破壊された。
しかし一つ一つが莫大な魔力を帯びている魔法陣を破壊するには大きな力が必要で、多数の魔法がすでに発動されて〈五行陣・火〉の力を削り取った。結局実際に撤去された量は二割にも満たなかった。
それでも空間を少し確保することができた。
――天空流奥義〈五行陣・金〉
再び〈怒りの態勢〉で莫大な魔力を生成。私が適切に扱えないほど莫大な量だったけれど、〈五行陣・金〉の力で無理やり制御した。
私は無限も同然の魔力量を持っているけど、出力と制御には限界がある。けれど〈怒りの態勢〉はその限界を超える量を吐き出せるようにしてくれる。
まぁ、そうはいっても制御能力まで向上させてくれるわけじゃないってことが欠点だけど、それを補う手段はあるから問題ない。
――テリア式天空流〈月光蔓延二色天地〉
莫大な魔力で再び乱舞を繰り広げる。
しかし今回は全方位じゃなかった。前方への一点突破により道を開き突進し、そしてテシリタに向けて斬撃を放った。
「お粗末だな。たかがその程度で済むのではないだろう?」
テシリタは〈千変の万華鏡〉の一部を自分の前に移動させた。魔法陣自体が盾となると同時に、吐き出された数十種の魔法が私を襲った。
「ふん!」
――天空流〈三日月描き〉
一閃で魔法の怒濤を斬り裂いた。テシリタには届かなかったが道が開けた。
テシリタが魔法で対処するよりも私が先に接近して剣を振るうのが速かった。
「オレをどれほど侮っている」
テシリタは新しい魔法を使う代わりに、両腕に万華鏡の魔法陣の一部を巻き付けた。魔法陣が物理的に私の剣を防いだ。
「接近戦だからといってこのオレを打ち負かせると思ったか?」
テシリタの両腕に巻かれた魔法陣から赤い雷が吐き出された。雷は蛇のように動きながら四方八方から刃となって降り注ぎ、一部はテシリタの腕に付いた刃となって私の剣を直接受け止めた。
もちろんこの程度の対応力は予想していた。
「そんなはずないでしょ」
――『万壊電』専用技〈雷神化〉第二段階〈雷鳴顕現〉
空間を支配する雷電そのものとなって赤い雷を受け止め、押し寄せる斬撃の猛攻をテシリタに浴びせた。同時に邪術と五行陣を再び転換した。
――テリア式邪術〈驕慢の視線〉
――天空流奥義〈五行陣・金〉
黒と金の眼光を放ちながらあらゆる確率を観測し演算し強制する。類似した二つの力の同時使用でテシリタの力さえも斬り裂き突破できる原動力を生み出した。
テシリタは赤い雷を吐き出しながら拳法で私の猛攻を受け止めた。
――テシリタ式極拳流〈天破激流〉
テシリタの拳が絶大な魔力の衝撃波を吐き出した。まるで天をも砕くかのような勢いの激流だった。
赤い雷まで巻き込んで襲いかかる衝撃が私を押し返した。
「オレの弟には及ばぬが、オレもその弟に極拳流を多少伝授された身だぞ。オレの拳もなかなか使えると自負している」
確かにそう言うだけの力ね。
『バルセイ』でもテシリタの攻撃パターンの中に肉弾戦があったため知識としては知っていたけれど、実戦で本格的に経験するのは初めてだ。
もちろんそうだからといって退くつもりはないけどね。
「はあああっ!」
金色の眼光を輝かせながら、時々そこに漆黒の眼光を混ぜつつ、紫色の雷電の嵐を絶え間なく浴びせる。
テシリタは赤い雷の嵐を繰り出した。しかしそれだけではなく、時々変則的な魔法が状況を攪乱することもあった。赤い雷が突然青い金属を纏った狼に変わって襲いかかったり、私の雷が小さな蝶のような無害な動物に変わって無力化されたり。
攻撃の応酬は激しかったけれど、状況が一時的に膠着状態に陥った最中だった。
「ふっ!」
テシリタは赤い雷を纏った赤い氷の槍を放った。恐ろしい魔力を放つそれを防御した私は後ろに押し戻されるしかなく、その瞬間テシリタは足元の魔力の足場を力強く踏みつけた。
テシリタの魔力が猛烈に膨れ上がり、周辺一帯を彼女の魔力が押し潰した。〈七歩獄門蹂躙〉の三歩目だった。
やっぱりあの魔法は面倒だね。
〈七歩獄門蹂躙〉はテシリタの切り札。歩みという形に拘束されるという欠点はあるけれど、七歩を完成させれば一時的にラスボスに匹敵する力を出せる。……いや、テシリタの技巧と変則性が加われば、ラスボスより危険かもしれない。
しかし私にもまだ手札が残っているし……来た。
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