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奇襲と対決

 ジェリアとトリアの時とは違い、私はラスボス化したからといって身体能力や魔力自体が強くなったわけではない。


 一時的に『浄潔世界』の加護を失ったせいで侵食されたとはいえ、世界一の邪毒耐性を備えた肉身は『浄潔世界』の加護が戻るやいなや邪毒を消し去り、後遺症も残らなかった。魔力量は元々イシリンのおかげで無限も同然だった。そのため、ラスボス化が私の力を直接的に上昇させてくれたわけではなかった。


 けれど、だからといって私が全く成長していないというわけでもない。


『バルセイ』の私が使っていた邪術。〈五行陣〉と似て非なるその権能を手に入れたことは、ある意味ではジェリアとトリアの時よりも大きな成長だった。


「くっ!?」


〈驕慢の視線〉で姿と気配を悟られない奇襲を成立させ、〈五行陣・木〉で急襲する。


 今の私の最強の奇襲手段だったけれど、テシリタは超越的な反射速度で反応してみせた。


 ――神法〈魔法創造〉・〈至高の瞳〉


 テシリタの目に強力な分析と分解の力が宿り、その力が〈五行陣・木〉に干渉して斬撃を乱した。鋭さを維持できなくなった魔力がテシリタの掌に粉砕された。


「させんぞ!」


 巨躯の老人――サリオンが飛びかかってきた。世界で最も硬い拳が灼熱の炎とともに繰り出された。


 その攻撃を剣で防いだけれど、激しい頭痛が私を襲った。


「くっ……!」


 防御の余波ではなかった。〈驕慢の視線〉の使用に伴う反動だった。


 私の邪術は暴力的かつ強制的に世界の法則を制圧して思いのままに操る力。強力で自由だけど、それだけ私自身にかかる負担も大きい。今の私は邪術に慣れていないためなおさらだ。


 しかしまだ戦闘続行が不可能なほどではなかった。


 ――テリア式邪術〈怠惰の剣〉


〈驕慢の視線〉を解除し、サリオンに向けて強力な支配の力を放った。


「ぬおっ!?」


 サリオンは〈怠惰の剣〉の力を正面から浴びても耐えてみせた。


 しかしサリオン程度の強者を完全に支配することは不可能でも、一瞬身動きできなくすることは可能だった。


 ――天空流奥義〈五行陣・土〉


 ――天空流終結奥義〈月蝕〉


 一帯の魔力を支配して退路と抵抗を遮断し、防ぐことのできない必殺の一撃でテシリタを狙った。


 テシリタは三つの魔法陣を同時に展開した。力で〈五行陣・土〉に干渉して魔力支配を部分的に解いてしまい、次元に干渉する力で次元に隠れる暗殺剣である〈月蝕〉の軌道をかわすと同時に自身は短距離瞬間移動で攻撃範囲から抜け出した。


 やっぱりこの程度では駄目かしら。残念だけど予想していたことだ。


「父上」


[よくやったよ]


 ――『転移』専用技〈軍勢転移〉


〈五行陣・土〉で一帯の魔力を支配したのは目の前の戦いだけのためではなかった。


 最も強力で変数の多いテシリタの力を一時的にでも封じたおかげでこちらが主導権を握ることができた。それを利用して大規模転移を発動させた。


〈怠惰の剣〉の力を振り払ったサリオンがこちらに駆けてこうとしたけれど、周囲に現れた騎士たちがサリオンをはじめとする安息領の戦力を食い止めた。


 大監獄を守るために駐屯していた万夫長たちをはじめとする主要戦力の半分ほどをここへ転移させた。いくらサリオンと安息領の兵力が強くても突破は不可能だ。


 残るのはテシリタと私の一対一の対峙だった。


「騎士団の万夫長たちをさしおいて貴様がオレと対峙するというのか?」


「まぁ、単純な力と戦闘技術なら万夫長の方々の方が強いでしょうね。でもあんたを相手にするのに必要なのは力の大きさじゃなくて、私が持つ変則的な能力なのよ」


「その判断は正しいぞ。貴様にはオレの前に立つだけの力もあるから資格もある。だがそれが正解だという意味ではないぞ」


 ――神法〈魔法創造〉・〈七歩獄門蹂躙〉


 テシリタの一歩が大地を踏みしめた瞬間、私たちがいる崖が轟音を立てて崩れ落ちた。


 砕けて降り注ぐ残骸と土埃の中で私とテシリタは同時に動いた。


 ――天空流〈流星打ち〉


 ――神法〈魔法創造〉・〈大地を裂く刃〉


 鋭く速い突きと巨大な魔力が圧縮された斬撃が土埃を裂いた。


 攻撃は衝突せずにすれ違い、私たちは同時に回避機動を取った。両方とも頬を掠めて血が流れ落ちた。


 攻撃の余波で周囲の土埃が散り、一時的に視界が晴れた中、私もテシリタも地面に落ちることなく空中でさらに速く動いた。


 天空流は元々空中機動と多方向戦闘が得意。テシリタは他の世界の法則で成り立つ魔法という変則的な力の所有者。お互い大地に拘泥する戦い方を固執する必要がない。


「わざわざ崖を崩したのは周囲を一掃するためかしら?」


「よく分かっているな。あえて邪魔されたくはないぞ」


 テシリタの魔法の刃を相手に剣を合わせながら問うと、彼女は好戦的に笑みを浮かべて肯定した。


 安息領も騎士たちも空中戦に参加する能力がないわけではないけれど、互いを相手にするのに集中しなければならないためこちらに割り込む余裕はないだろう。そういう点でテシリタの判断は正しい。


「そういえば貴様とまともに決着をつけたことがなかったな。今日をその日とするぞ」


 テシリタが足を上げて私の腹を蹴り上げた。私を押し退けようとする行動と同時に、それによって〈七歩獄門蹂躙〉の二歩目が成立した。


「ぐっ!?」


 恐ろしい衝撃が体内を揺るがした。喉元から噴き出した血を無理やり飲み込み、押し流される力に抗わずに距離を取った。


 二歩目でさらに増幅されたテシリタの魔力が多彩な攻撃に変わって降り注いだ。その全てをまだ維持されている〈五行陣・土〉の力で覆った。


 ――天空流奥義〈五行陣・水〉


〈五行陣・土〉が支配した領域ごと魔力を丸ごと奪い取って吸収した。剣に集約された魔力が尋常ではない鋭さと強烈な気配を放った。


 テシリタの〈七歩獄門蹂躙〉は強く、これからさらに強くなる。しかし私にも対抗する手段くらいはある。

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