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転移と対処

 指示部分は魔法にて部下全員に伝達し、状況を確認するためテントの外へ出た。


 これまでなら拠点を一箇所選んで集合していただろうが、今回は野外の森の中だった。数週間前から重要な作戦のための待機場所として術式と魔道具を幾重にも施して仕込んでおいた場所だ。


 森という自然環境と事前準備のおかげでそこそこ良好な隠れ場所だが、本来安息領の所有ではない野外という点で不安定な部分もある。オレの力で隠蔽を補強しておかなければとっくにオステノヴァの監視網に引っかかっていただろう。


 これでも行動を開始しようとする瞬間オステノヴァに探知される確率が高い。


 考えている間に視界の片隅でオステノヴァの部隊の姿を確認した。少し何か対話を試みたようだが、予想通り戦闘に突入しようとしていた。


「動くぞ。全員緊張しろ」


 転移のための魔法術式は事前に設置しておき魔力も供給しておいた。ただ休眠状態の魔法を起動するだけでいい。


 しかし転移魔法の起動のため隠蔽魔法を解除し、転移魔法が起動するわずか数秒の間だった。


[見つけたよ]


 ――『転移』専用技〈事物軍勢一方通行〉


 平凡な青年のような声とともに、視界のあらゆる場所から無数の魔道具が現れた。


「うわっ!?」


「ぐっ」


 剣、槍、矢、鉄槌、鎖。ありとあらゆる形状と用途の魔道具が乱立し、勝手に飛び回って部下たちを攻撃した。部下たちはあらかじめ態勢を整えていたおかげで大きくやられることはなかったが、それでも突然の大規模な奇襲に完璧に対処することはできなかった。


「姉上!」


「大丈夫だぞ。……と言いたいところだが、しばし護衛を頼む。オレは転移に集中するからな」


 オレに飛んでくる魔道具はサリオンに任せておき、オレは魔法術式の制御と補強に集中した。


 この奇襲により部下たちは右往左往しているが、冷静に言えば被害自体は大きくない。放っておいても直ぐに制圧できるだろう。


 しかし乱立する魔道具の本当の目的は部下たちを攻撃することではなかった。


「狡猾な奴めよ。最初から転移術式そのものを狙っていたのか」


[このような当然の戦術が狡猾に見えたのなら、それは君が無能だってことだね]


「ほざけ」


 魔道具が現れるとすぐに加えられた攻撃で転移術式が少し損傷した。その上その後も術式を破壊するための攻撃が続いていた。


 術式の損傷の程度は微弱だったが、転移は極度に複雑で繊細な術式。ごくわずかな損傷でも問題が発生する。


 その上攻撃はこれで終わりではないだろう。まず転移を妨害しておいた後、本格的な攻撃や兵力を投入して我々を相手にするのが奴の本当の目的だ。


 しかし――甘いな。


「あの大したというオステノヴァ公爵も急ごしらえの攻撃では大したことはないな。発見と攻撃の迅速さだけは評価してやるが、それだけだぞ」


 嘲笑いながら手を広げる。起動する転移魔法陣が地面から輝かしく光った。


 この程度の損傷を修復し攻撃を防ぎ止めることなど、オレには容易いことだ。少しでも時間を引き延ばしていれば危なかっただろうがな。


 ついでに部下たちの負傷を治癒する魔法も展開した直後。転移の光が視界を包み、体がふわりと浮くような感覚が続いた。


 その直後光が消え、新たな光景が目の前に現れた。


「ふんっ」


 ――神法〈魔法創造〉・〈極光の障壁〉


 転移するとすぐに展開したオーロラの防御壁が魔道具と白光技の砲撃を受け止めた。


「転移術式を毀損して若干の時間を稼ぎ、その時間と術式を復旧する隙を利用して術式を解析し転移先を逆算する。このような工作を通じて転移直後を狙うのだ。だから狡猾だと言ったのだ」


[まぁ、予想通り通用しなかったみたいだけどね]


 転移までしたのに平然と通信を維持するとは。相変わらずイライラする奴だな。


 オステノヴァ公爵の転移攻撃を引き続き防ぎながら周囲を見回す。目的地である崖の上にちゃんと到着したことを確認し、崖下へ視線を向けた。


 標的である大監獄が見下ろせる場所だった。本来ならここから大監獄を急襲する予定だったが、オステノヴァ公爵に気づかれたなら騎士団にも通報が行っているだろう。だからあえて隠蔽を気にせず派手な防御魔法を使うことも辞さなかった。


 騎士団はすでに大監獄の敷地内から溢れ出ていた。


「多いのぅ。あれほどの数が大監獄に入るはずがないわい」


 サリオンがその光景を眺めながら言った。


「空間を歪めて内部に巨大な駐屯地を作ったか、転移門を設置しておいて有事の際に投入できるようにしたのだろう。あからさまに警備兵力を大規模増強するのは重要な人員を押さえ込んだと広告するようなものだからな」


 もう意味がないと思ったのか、オステノヴァ公爵の転移攻撃が止んだ。


 その代わりに大監獄周辺に素早く陣形を整えた騎士団の頭上に大小の転移門が無数に現れた。


「断崖上の安息領に告ぐ。投降しろ。ここには貴様らを制圧する戦力が十分に整っている」


「生意気な口を利くな。オレとサリオンを制圧したいのなら団長級くらいは連れてくるべきだったなぞ。見たところそれほどの戦力は見当たらないが?」


 重要な場所を守るとあってそれなりに戦力を整えてはいるな。今すぐ気配で判別された戦力だけでも万夫長が最低三人はいるだろう。


 しかしたかがその程度で我々を圧倒できると思ったのなら、ひどく侮っているとしか言いようがないな。


「貴様らに分をわきまえさせ……」


 目では奴らの戦力を把握しながら口では挑発を発し、手では魔法術式を準備する。そんな時だった。


 魔力でも気配でもない背筋が凍るような感覚が背中を走った。反射的に後ろを向きながら魔法を浴びせようとした瞬間だった。


 ――テリア式邪術〈驕慢の視線〉


 ――天空流奥義〈万象世界五行陣・木〉


 紫色の閃光が視界を覆った。

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