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五大神教の意図

「君を送ったのは『火』の枢機卿であろうな?」


「はい、そうでございます」


 宗派の枢機卿は宗派のリーダーが歴任する地位。つまり『火』の宗派の最高指導者がランドスにこの任務を任せたのだ。


 今回の方針に同調したのは『火』の宗派だけではないが、代表として『火』が動いたと見るのが正しいだろう。


 ランドスについては伝え聞いた話や情報以外には今見える姿でしか判断できないけど、『火』の枢機卿については飽きるほどよく知っている。


「枢機卿が君を派遣した理由は君が代行者だからというのか?」


「はい。恐れ多くも神に選ばれる過分な栄誉に浴し、その点が今回の任務に適任だとおっしゃいました」


 ふむ。だいたい絵が描けるね。


 僕が考えている間にベティが不快そうな様子で口を開いた。


「あの火狐か。そういえば聖騎士隊が『火』の部隊中心で構成されているのが不自然だと思っていた。貴様が質問に答えられない理由も理解できた」


 ベティの言葉にランドスは気になるように眉間にしわを少し寄せた。


「枢機卿が他の方々の目にそう映るのは否定いたしませんが、それが今回の件と関係があるのでしょうか?」


「あるとも。何も教えずに表面的な目的だけ指示して軍を動かしても不自然ではない火狐だからな」


 ベティの冷たい視線がランドスを貫くと、彼は体をびくりと震わせた。


 ベティはそれを見てさらに鋭い眼差しを向けた。


「貴殿がなぜここに来たのか、貴殿自身も口にした以上のことは知らないのであろう?」


「……はい、そうです」


 否定しても無駄だと判断したのだろう。ランドスは素直に認めた。


 つまりこういうことだ。ランドスが最初に明かした以外の情報を漏らせない理由は簡単だ。彼自身も知らないからだ。


 聖騎士隊を率いて行って最初に言った通りの目的を提示する。恐らくそこまでがランドスが受けた指示。それ以外は……。


「今のように僕らが深く掘り下げようとする場合、適当にごまかして時間を稼げという程度の指示があったのだろう。違うか?」


「……」


「そうだとしても枢機卿も酷いものだ。自分の宗派の代行者まで躊躇なく捨て駒として投げ出すとはな。『火』の宗派は融通が利かず突進的な方だが、どうしてあの枢機卿が『火』を代表する者になったか全く理解に苦しむ」


「捨て駒だなど、とんでもございません。何を根拠にそのようなことを……」


「それは明白であろう」


 ベティは残りの一振りの剣を右手で抜きながら言った。


「あの火狐が本気でテリアを確保するために貴様らを送るはずがない。私も旦那様もそのような要請に応じるはずがないことを承知しているからな。貴様らが引き下がらなければこちらが武力行使も辞さないであろうということも、そして――」


 風が吹いた。


 手を一度振るった程度の軽やかで爽やかな風。人一人が動いたとするにはあまりにも静かだった。


 しかしその風がランドスの頬を軽く撫でた時には、すでにベティの剣が彼の首元に突きつけられていた。


「この私を相手にするには途方もなく不足な兵力だということもな」


「私自身の能力を過大評価するつもりはございませんが――」


 ランドスは緊張の冷や汗を流しながらも毅然と言葉を続けた。


「私は神の代行者です。代行者と部隊に対してあまりに傲慢なお言葉なのでは?」


「突っ込むことしかできない愚かな『火』の代行者風情が調子に乗るな」


 その瞬間ランドスの顔に怒気が漂った。それだけでなく、ベティに圧倒されて倒れていた聖騎士たちからも怒りが滲み出た。仕える神を侮辱されたのだから当然の反応だろう。


 しかしベティはそのすべてを知っているからこそ、さらに嘲笑った。


「貴様が何代目の代行者かは知らないが、先代の一人が私に殺されたということは聞いていないようだな。『火』の意志が直接憑依して降臨したのに、私の斬撃を三回も耐えられずに切り裂かれて死んだ。しかも貴様の本来の力はあの時の代行者にも遠く及ばない」


 その時ランドスが非常に素早く剣を抜いてベティの刃を払った。


 ベティはわざと力を入れずに適当に剣を引いてやった。おかげでランドスは素早く後退して距離を取ったが、次の瞬間にはまたベティの剣が彼の首元に突きつけられていた。


「……!」


「神の力を扱うといっても、その神が弱くては意味などありはしない。この私を相手にするには最低でも代行者を三人は連れてこなければならない。あの火狐はそれをよく知っている。それなのに貴様だけを送った理由は簡単だ」


「僕らがテリアをここに連れてこないだろうということくらいは分かっているはずだ。適当にテリアが行きそうな場所を予測して他の部隊を送る時間だと思わない?」


「……」


 ランドスは答えなかったが、微妙に歪んだ表情を見るとやはり間違っていなかったようだね。恐らく他の部隊を同時に動かすという程度は知っているだろう。


 ベティは剣をさらに深く突きつけた。刃先がランドスの首に軽く触れて血が少し流れ出た。


「今すぐ帰るなら追わない。しかし帰らずにこの場で踏ん張るなら、今すぐに貴様らを侵略者として殲滅する。十秒やろう。決めるがよい」


「十秒も必要ありません」


 ランドスの剣がベティの剣を押し返すと同時に、彼の体から揺らめく魔力が噴き出した。


 本質は白光技の純粋な魔力だが、炎のように揺らめき熱気さえ発する魔力。『火』が誇る独特の魔力だ。


「正直そこまでは私も知りませんでしたが、枢機卿ならば十分下せる判断です。そしてそれを支えるのが『火』の代行者である私の仕事です」


「むなしい死を選ぶとは、悲しいことではないか」


「傲慢だと申し上げたはずです」


 ランドスの体から途方もない魔力が溢れ出た。


 彼自身の魔力ではない。明らかに彼のものではない、彼の限界を超えた魔力が肉体に光輝を加え、圧倒的な魔力を周囲に撒き散らした。


 ベティに制圧されていた聖騎士たちがその魔力の加護を受けて再び体を起こした。


「神もこの道を貫くよう命じられます。この魔力がその証。ですから――今から責務を果たします」

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