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平原の対峙

 オステノヴァ公爵領、ノヴァ・オスタノス大平原。


 オステノヴァ公爵領の中心都市であるノヴァ・ステラノス市と共に首都圏と呼べる領域を二分する平原である。


 ノヴァ・ステラノスとノヴァ・オスタノスの間には巨大な森が一つあり、その森の中にオステノヴァ公爵家の本邸が存在する。つまり本来ならば最も中心となるべき地域だが、そのような場所に森と大平原が未開発状態で残っている理由は簡単だ。


 第一に実質的な首都圏の役割を果たす中心大都市区域はノヴァ・ステラノスにある別荘を中心に別途展開されているという点。第二に森と大平原自体が本邸を要塞化する核心防御施設だという点である。


「まったく趣味の悪い平原ですね。何もないように油断させておいて、果てしなく迷わせる場所だとは」


 映像の向こうでベティが率いる魔導兵団と対峙しているのは五大神教の聖騎士隊。その先頭で隊長服を着た男が呆れたような口調で言った。


『火』の宗派の聖騎士隊長、ランドス・アルケイダス。先日テリアに接触したのもそうだし、あれやこれやテリア……正確には『隠された島の主人』に反対する派閥でも最も活動的な行動隊長のようだ。


 ランドスだけでなく後ろの聖騎士たちも皆疲れた様子が歴然としていた。


「ノヴァ・オスタノス大平原は強力な魔道具と術式にて迷路化された場所ですので。ですがその迷路はオステノヴァの地に敵意を持って侵入した者にのみ発動するもの。ノヴァ・オスタノスの迷路を経験したということ自体が、貴方方が不純なご意図でこの地を踏んだ証拠ですわ」


 一方、ベティは冷たく鋭い眼差しで聖騎士隊を睨みつけた。


 彼女の言う通り。ノヴァ・オスタノス大平原は敵意を持つ者を果てしなく彷徨わせる見えない迷路だ。


 外見は何もなく開けた平原のようだが、微妙に方向感覚を狂わせ、平原の外の光景を欺く幻覚が果てしなく作用する場所。


 しかも迷路はリアルタイムで常に変化する。密かな術式と魔導具の力自体を克服しない限り決して突破できない。


 しかし聖騎士隊が大平原の果て、オステノヴァ本邸がある森の前に辿り着いたのは彼らの成果ではなかった。


「旦那様が貴方方との対話を許して道を開かなければ、貴方方は餓死するまで永遠に平原の迷路に閉じ込められていたでしょう」


「その点には感謝いたします。しかし敵意を抱いたというのは多少誤解があるようです」


「それは貴方方が判断する問題ではありません」


 ベティの目が光り、強烈な威圧感が平原を覆った。


 わざと平原全体を押し潰すほど強大な魔力を誇示する行為。貴族の女性としては品位ある行動ではないが、騎士にして戦士である彼女にとっては最も基本的な機先の制しだ。


 聖騎士隊はベティの威圧を目の当たりにして大きく萎縮した様子だったが、ランドスは緊張した様子を見せながらも縮こまりはしなかった。


「我々の用件は簡単です。テリア・マイティ・オステノヴァ公女様との対話が必要なのです」


「ご用件は?」


「……申し上げられません。ですがテリア公女様に害はないと断言できます。ただ一日ほど我々の神殿にご出頭いただければ……」


 その瞬間、ベティは目に見えないほどの速さでランドスの前に移動した。


 手袋に包まれた手がランドスの首を乱暴に掴んだ。


「わざわざ善人を装って我慢してやったのに、調子に乗っているようだな。私の前で目的を隠して我が娘を連れ去ると?」


 ベティの口調が変わると同時に鋭い眼差しがランドスを刃物のように刺した。単なる比喩ではなく、骨の髄まで凍りつくほど冷たい怒りの魔力が彼に注がれたのだ。


 それでもランドスは耐えようとするかのように拳をぎゅっと握りしめたまま口を開いた。


「そ、そうではありません。簡単な問答と要請を……」


「事前に連絡を取って了解を得るか説明をするでもなく、使者を送るでもなく、いきなり兵を挙げて領地を侵した。露骨な侵略行為を行った癖に、そのような薄っぺらな言い訳が通じるとでも思ったか?」


 ベティの手に力が入った。ランドスは我慢できずに彼女の手を払いのけようと掴んだが、鋼鉄より堅く強い手はびくともしなかった。


「そもそも貴様らの行為は本来なら領地に入る前に迎撃すべきだった。それにもかかわらずこのノヴァ・オスタノスまで来ることを許したのは、ただ貴様らの言い訳を聞こうとする我が旦那の慈悲だった」


「ぐっ、まっ……」


「私は今非常に怒っている。旦那様の慈悲がまだ私の怒りを抑えている間に、一挙手一投足よく考えて取るがいい」


 ランドスが苦しむと数人の聖騎士が対応しようとするかのように体を前に乗り出した。


 しかしその瞬間、ベティの厳正な視線が聖騎士隊を撫でた。


 ただそれだけ。それでも強大で圧倒的な魔力が聖騎士隊を押しつぶした。それなりに強い力と魔導具を備えているはずの彼らが全く抵抗できずに地面に叩きつけられた。


 ベティはランドスの首をようやく放したが、視線と魔力の圧迫は相変わらずだった。


「もう一度聞く。貴様らがこのような無礼を犯した理由を余すことなく申せ。最後の質問だ」


「げほっ、げほっ。最後の質問とおっしゃったとは……?」


「今回も正しく申さないのであれば、貴様らの大神殿に直接書簡を送る。貴様ら全員の首を刎ねて贈り物として送れば大神殿も重たい舌を少しは動かすだろう」


 ランドスはベティの威圧感に半ば押しつぶされながらも、彼女の言葉を看過できないといった様子で目に怒気を宿した。


「我々はこの世界を守護なさる五大神に仕える者です。そんな我々の首を勝手に刎ねるというのですか?」


「貴様らの無礼と罪を弁解するのに神の名を言い訳に使うな。それは神の名までも汚す行為だ。貴様らが犯したのは平凡な侵略行為にすぎない。言っただろう? 本来なら領地に進入する前に迎撃すべきだったと」


 ベティは二本の剣のうち一つを左手で抜いた。


 単なる脅しではないといった様子で、鋭い魔力が刃を伝って流れた。


「それより未だ質問の答えを聞いていない。質問に質問で返したのは見逃してやろう。だが慈悲は一度きりだ。よく考えて口を動かせ」

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