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脅威の中の脅威

「これまで消極的な態度に終始していたくせに今になって急に過激な行動を取るなんて。身勝手すぎるでしょうそれ」


【珍しく私の意見と一致するね】


 別に『隠された島の主人』と心が通じるのが嬉しいわけではないけど、今だけは同じ気持ちになれた。


【とにかく『光』以外の奴らが信者たちに神託を下した。テリア・マイティ・オステノヴァを排除せよという神託をね】


「それは……かなり露骨ですね、私から見ても」


【そうよ。まぁ、五大神教の連中もかなり慌てたみたいだけどね。そんな直接的な神託自体珍しいうえに、特定の誰かを名指しで排除しろという過激な神託は史上初だったから。おまけに現実的にも問題が多すぎるし】


 そりゃそうでしょうね。


 お姉様は名うてのバルメリアの四大公爵家の一角、オステノヴァの一員。しかもそのオステノヴァ公爵家の次期当主の座に最も有力な後継者で、公爵令嬢にして騎士としてすでにある程度の権限と実績を持っている。


 そんな存在を排除しろだなんて、人倫や法といったものを論じる以前に物理的にとても難しいことだ。


【最初は信者たちもなんとか収めようとしたみたいだけど、五大神の馬鹿どもも今回は本気らしくてね。力の欠片を降臨させて直接命令を下したみたい。仕える神がそこまでするなら、さすがにどうしようもないでしょ】


「一体お姉様が何をしたってそこまで……!」


【まぁ、あの馬鹿どもにもテリアに恨みがあるわけじゃない。ただたまたま今テリアが奴らにとって許せない立場に追い込まれてしまっただけよ】


「同じことです! どうして勝手に罪のない人を排除するだなんて言えるんですか!? あなたはお姉様を助けるって言いながら、どうしてそんなことを平然と言えるんですか!」


 ブチ切れてしようがない。でさえ苦労しているお姉様を勝手に裁き、暴力で対処しようだなんて。


 しかも五大神教は国自体が宗教色の薄いバルメリアでは比較的弱勢だけど、世界全体という観点から見れば世界を左右すると言っても過言ではない宗教だ。そんな所で神が直接お姉様を排除しろという神託を下せば、お姉様の立場が危うくなる。


【……罪のない、か。その言葉に安心して同意できないのが悲しいね】


『隠された島の主人』は小さく何かつぶやいた。けれどすぐに様子が変わり、変調を超えても分かるほど怒りの感じられる声が流れ出た。


【私が本当に平然としていると思う? 一度も私を助けてくれなかったクソ野郎どもが今更邪魔をしてくるのを黙って見ているとでも?】


「……対策はあるんですか?」


【信者たちを止めてあげることはできない。私としても勝手に私を崇拝する馬鹿どもにそんなことで犠牲になれとは強要できないからね。その部分だけはあんたたちでなんとかしてちょうだい。私にできるのは一番邪魔な馬鹿どもを直接止めてやることよ】


「邪魔な馬鹿ども? それは何ですか?」


【愚かで情けない五大神の連中よ】


『隠された島の主人』の声から隠しきれない嫌悪感と軽蔑が露わになった。


 この世界の不請客と呼ばれる邪毒神がこの世界の秩序を司る存在にして守護神である五大神と仲が悪いのは別に不思議なことではないけど……何故かそれ以上の個人的な恨みと怒りのようなものが感じられた。


『隠された島の主人』はまた私の考えを読んだかのように鼻で笑った。


【さっき言ったでしょう? 力の欠片を降臨させたって。五大神は自分たちに特に近い聖者と聖女を通じて直接世界に降臨できる。全ての力と権能をそのまま与えることはできないけど、力の一部とともに神の意思が直接憑依することよ。端末……いや、降臨した媒介の自我が完全に抑圧されるわけではないから代行者と言うべきかな】


「力の一部というのはどの程度なんですか?」


【それはどれだけ力を降臨させて活用するかによって違うけれど……奴らが今回の件に臨む強硬さを考えれば、おそらく五大神教の聖騎士団全体を相手にするより代行者一人を相手にする方が難しいくらいにはなるでしょね】


 つまりその代行者を阻止してくれるということかな。


 五大神教の神の代行者については私が知っている内容と一致する。そもそも五大神の代行者は五大神教の最大の権威であり誇りで、最も最近の事例が五十年前だっただけに結構よく知られているのだから。


 その代行者を『隠された島の主人』の方が阻止してくれるなら、これ以上の助けはないと言えるでしょうね。本当に阻止してくれるのか、阻止できるのかは不安だけれど……私への態度はともかく、今までお姉様のために動いた心と成果は本物だったのだから。


【信じてくれるなら仕事が楽になるから私としては嬉しいけど、油断はしないでね。奴らの代行者をこちらで遮断してやるとしても、奴らが直接指揮する聖騎士団はかなり厄介だから。おまけにテリアにとって一番の危険はそんな連中じゃないよ】


「それはどういう意味ですか?」


【そもそもテリアの本来の敵は五大神教なんかじゃなくて安息領でしょ。そして筆頭の奴がテリアに注目している。五大神が動くのは安息領にとっても予想外の事態だろうけど、この隙に暴れるには絶好の機会だと思わない?】


 聞いてみればそうね。もともと安息領は隙を狙ってテロを起こすのが得意なのだから。


『隠された島の主人』が厳しく私を睨みつけている……ような気がした。シルエットだけの姿なので実際に眼差しなんか見えるわけではないけど、それにもかかわらず私を睨みつける気配がはっきりと感じられるほど感情と魔力が高ぶった。


【五大神教は知らないけど安息領はテリアの弱点をよく知っている。奴らにとっては弱点を突くにはとてもいい機会よ】


「お姉様に弱点なんてありません」


 力の大きさや技量は最強ではないかもしれないけど、能力の種類とバリエーションにおいてはお姉様に不可能なことはない。


 そういう意味で言ったのだけど、『隠された島の主人』はあからさまに嘲笑を漏らした。


【それは安息領もよく分かっていることよ。だから奴らはテリアを攻撃しない。徹底的にね】

読んでくださってありがとうございます!

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