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終わりの入り口

「アルカ、行くわよ!」


「はい!」


 ――テリア式天空流『浄化神剣』専用技〈純白の月光〉


 ――アルカ式射撃術『浄潔世界』専用技〈恩恵の翼〉


 それぞれが使える最強の浄化技を発した。


 狂い暴れる邪毒は量も密度も圧倒的だったけれど、最強の浄化武具と浄化能力の力でそれを貫き裂いた。それでも一撃では半分どころか一割も突破できなかったけど、繰り返し削っていくだけでも道を開くことができた。


 しかしそれだけでは全て突破することはできなかった。いくら内面世界とはいえ力が無限ではないのだから。


 判断は素早く。


「アルカ。私が突撃するわ。あなたは遠距離から援護してちょうだい」


「お姉様!? 危ないです!」


「私の特性を忘れたの? 『浄潔世界』の侵食技は邪毒不可侵の身そのものよ。外の私の体は〈浄潔反転〉で失った肉体の権能をまだ取り戻せていない状態だけど、ここにいる心象の私は違うわ」


「じゃあ私も!」


 アルカが決然とした表情で叫んだ。


 眼差しを見れば単なる駄々や頑固ではなかった。自分も『万魔掌握』を通じて『浄潔世界』を習得したのだから同じことが可能だろうという判断をしたのだろう。


 しかし私は首を振った。


「『万魔掌握』で習得した『浄潔世界』では侵食技の権能を私のように魔力なしで使うことはできないんだもの。本来自分の力じゃないからね。だから射撃で支援して。それより言い争っている時間はないから私は行くわよ!」


「お姉様!? う……わかりました!」


 巨大な邪毒の嵐に飛び込みながら、一瞬頭をよぎったのは『バルセイ』でのラスボス戦だった。


 死んだ後にようやく『浄潔世界』を正しく理解した『バルセイ』での私もこんな場面で直接突撃することを選んだ。死んだ幽霊にも侵食技の権能が残っていたりもするけど、内面世界では肉体を持って動けたのだから。


 ……その記憶もはっきりと持っているはずなのに。


 一瞬よぎった悲しい気持ちを振り払い、体を突き出すように邪毒の嵐に突入した。


「っ……!?」


 息が詰まる。


 邪毒に侵食されたわけではなかった。いくら膨大で強力な邪毒でも結局『浄潔世界』の前ではただのエネルギー源に過ぎないのだから。


 問題は何事も過ぎたるは及ばざるが如しという点だろう。


 一瞬で浄化された膨大な魔力が津波のように押し寄せてきたのが私を苦しめた。このままでは魔力が多すぎて体が爆発してしまうのではないかと思えるほどに。


 ――『浄潔世界』専用技〈無限の聖槍〉


 邪毒を浄化しながら無限に増殖する浄化技で周囲の邪毒を減らしていく一方、溢れる魔力を無造作に吐き出しながら突進した。


 アルカの浄化の矢の助けも借りて突進した果てにようやく見えた。


【くっ……来たかしら】


『私』は胸に刺さった矢を片手で握りしめたまま苦しんでいた。


 矢の光は大分衰えていたけどまだ強力だった。恐らく放っておいても数分程度は持ったことだろう。


 しかしそれだけではこの戦いを終わらせるには足りなかった。


 無言で飛びかかって一閃。浄化神剣の力が邪毒を裂きながらさらに鋭く突き刺さった。


『私』は相変わらず苦しみながらも、矢を掴んでいない方の手で剣を振るった。剣と剣がぶつかり背筋の凍るような音が響き渡った。浄化神剣の力とラスボスの邪毒が互いを暴力的に噛み千切りながら鳴らす魔力の悲鳴だった。


「浄化神剣の力さえ耐え抜くなんて、本当にひどいわね……!」


【……そう言うあなたこそ、徹底的に私を嘲笑おうというのかしら?】


『私』は憎々しげに私の剣を、正確には浄化神剣の力を具現化している始祖武装『天上の鍵』を睨みつけた。


【始祖様は一度たりとも私を認めてくださらなかったわ。哀れに思うこともなかった。なのにあなたは平然とあの御方の認めの証を私の目の前に突きつけるのね】


「まっとうに生きなかった自分を責めなさいよ」


【……間違いではありませんわね】


『私』の声が一段と低くなった。そして魔力の流れに変化が生じた。


 次の瞬間、『私』の口が不吉で気分の悪い笑みを浮かべた。


【しかしここは内面世界。本質は心象の副産物に過ぎないわ。あなたが私の力を盗み取ったように……その逆も可能なはずよ!】


 その言葉と共に『私』の剣が変わった。


『天上の鍵』と似ているけど、違う。そもそも『私』が握っていた剣に魔力が被さって変形を起こしたものだった。


 呆れるね、本当に。


「いくら内面世界とはいえ、いきなり固有武装を出すなんて本当に無茶苦茶な奴ね……!」


【私の邪術を奪っていったあなたに聞きたくはありませんもの】


『私』は浄化の矢の力を押し返すことにほとんどの力を注いでおり、事実上腕以外は動かすこともできなかった。


 しかし片腕と残りの魔力だけでも私と力比べが可能なほど圧倒的な存在である上に、固有武装に浄化神剣とは完全に反対の権能――つまり邪毒の剣を降臨させた状態だった。


 邪毒の嵐の中で耐えている状況なので魔力量だけは私も引けを取らないけれど、その膨大な力を扱う技量面では『私』の優位を否定できなかった。


 ……やっぱり〝あの方法〟を使わなければならないな。


「ありがとう。邪毒の嵐を吐き出してくれて」


【何かしら? 『浄潔世界』で魔力を奪おうというのなら――】


「いいえ。おかげでこれからすることをアルカに制止されずに済むから」


 発言と共に一瞬後退した私は剣をくるりと回転させて逆手に握った。


 そしてその刃先を私の腹に当てた後――ありったけの力で突き刺した。


【何を!?】


「くっ……はあああああ!」


 全ての魔力を浄化神剣の力が宿る『天上の鍵』に注入し、浄化神剣の力を私自身に浴びせた。


 同時に私自身の権能を発動する。


 ――『浄潔世界』侵食技〈浄潔世界〉第二形態〈浄潔反転〉


 侵食技の権能が一帯を包み込んだ。巨大で猛烈な邪毒の嵐が瞬く間に浄化されて消えていった。


 しかし一気に全て浄化するにはあまりにも膨大な量だったし……その次は明らかだった。

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