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反転と進展

「お答えありがとう」


 平然と吐き出しながら、こっそり溜めておいた魔力を一気に解放した。


 ――『浄潔世界』専用技〈理攪乱浄化回帰〉


 邪毒によって歪められた現象と法則を元に戻す浄化技に加え、〈五行陣・金〉の権能を全力で注ぎ込んだ。


 再生の力まで加えて一瞬で肉体が完全に修復され、姿勢を整えるより早く魔力を噴射して体を起こした。


【見え見えの奇襲ですわね】


『私』は平然と刃を突きつけた。


 私はそれを避けずにそのまま左手を広げたまま伸ばした。『私』の剣が私の手のひらを貫いた。しかし手をさらに押し込んで『私』の剣柄ごと手を掴んだ。死ぬほど痛かったけれど魔力で感覚を抑えながら耐えた。


『私』は相変わらず冷静で平然と別の手を振り上げようとしたけれど、それより私の異変の方が早かった。


 ――テリア式邪術〈驕慢の視線〉


 黄金の眼光に漆黒が混ざった。


【!?】


 黒ずんだ黄金の権能がほんの一瞬『私』の動きを封じた。やっぱりこれまでは予想していなかったようで『私』の表情に驚きが過った。


 一度軽い攻撃を加える程度の隙に過ぎなかったけど……それで十分よ。


 ――極拳流『浄潔世界』専用技〈悪性打滅〉


『浄潔世界』の魔力をたっぷり含んだ拳が『私』の腹を強打した。浄化の魔力が打点を通じて『私』の体内を掻き回した。


 速くて軽い攻撃だったけれど、〈五行陣・金〉と〈驕慢の視線〉の力で威力と作用を極大化したため非常に重い一撃だった。


【っ!?】


『私』は息を吐き出すと、私に掴まれた剣を放して後ろに逃げた。


 本来なら大ダメージになるはずがない一撃だったけど、『私』の顔に当惑感が浮かんだ。


【こ、れは……】


 私は放していた双剣を魔力で再び手の中に呼び寄せ、『浄潔世界』と浄化神剣の力を主武器として引き続き剣を振るった。魔力が鋭い斬撃となって噴き出す間、いつの間にかアルカも魔矢を撃ちながら支援してくれていた。


 しかし『私』はやっぱり手強かった。


 ――テリア式邪術〈怒りの態勢〉


『私』は巨大に増幅された魔力を人差し指に集中させた。その指を下から上へ振るうと、世界を裂くような勢いで伸びていった魔力が真っ白な空間を切り裂いた。その余波だけでアルカの弾幕が全て破壊された。私も巨大な攻撃を剣でかろうじて防御するだけで後退せざるを得なかった。


 しかし攻撃を振り払った『私』の方がむしろ苦しそうな表情で胸を押さえた。


【これは……よりによってこんなことを】


 苦痛の中でも隠しきれない怒りがありありと現れた顔だったけれど、『私』がすぐに行動を起こす気配はなかった。


 それも当然だろう。


「よりによってって? 当然予想すべきだったでしょう? これってれっきとした〝正規攻略法〟なのだから」


【……そうですわね。見落としていたことを認めます】


 私が邪術を習得して扱えるのはイレギュラーだけれど、『浄潔世界』の力をぶつけたのは偶然でも応急措置でもない。


 隠しルートのラスボスは結局邪毒に侵食されて暴走する聖女。この内面世界の戦いもそれは同じだ。


 まぁ、『バルセイ』のラスボスアルカは理性と自我がほとんどなくただ暴走するだけの存在だったため、今目の前で意思疎通ができている『私』とは違う。しかし誕生経緯は同じだから、根本的な攻略法は同じように使っても通用するはずだ。


 邪毒に侵食されて暴走する存在だからこそ、『浄潔世界』の力で暴走の原因を取り除けばいい。


『バルセイ』では『浄潔世界』の力を込めた技が特化ダメージを与える形だったね。


 今までそうしなかったのは……まぁ、正直に言えば威力の問題だった。『浄潔世界』の魔力は最強の浄化力を持っているけど物理的な破壊力はそれほど高くないから。それに私の主要な攻撃手段である紫光技の魔力とはきちんと両立できないし。いくら直撃すれば特効だと言っても、相手の力を突破できなければそもそも直撃が不可能だから。


 そして威力の問題以外にも一つ心理的な盲点があったからでもあった。


 でも今でも一度打撃が入ったことだけでも有意義な成果だった。


 ……今『私』の眼差しに現れた怒りは少し違う感じがするけれども。


【しかしあなた……本当にむかつきますわね】


「なぜかしら? 適切な攻撃手段を使うのは当然の……」


【服をちゃんと着なさいよ服を! 私の体で肌をそんなにあらわに見せないでください! あなたには恥じらいというものがないのかしら!?】


「……あら」


 そういえばそうだった。


 吹き飛ばされてしまった右半身を必死に修復したのはよかったけれど、再生したのは私の体だけ。服まで修復はしていなかった。


 ここにいるのは『私』とアルカだけで急迫した状況だったため気が回らなかったけれど、あんなにあからさまに指摘されるとは思わなかった。


「ラスボスのくせに些細なことを気にするのね」


【全然些細なことじゃありませんもの。あなたの頭はどうなってるのかしら? 貴族の令嬢としてあるまじき発言なのでしょうそれ】


 魔力で服を修復しながら言うと『私』が不満を漏らした。


 ……アルカも状況に似つかわしくないほど顔を少し赤らめているし、私も少し自覚はあるけどね。


 そんなことよりも一つ気になることがあった。


「少し様子が変わったわね」


【どういう意味かしら?】


「そういうことよ」


 おそらく本人は自覚していないのだろう。


 邪毒によって暴走するということは、言い換えれば邪毒を消せば消すほど暴走も解除されるということ。もちろんあいつの邪毒を全部浄化するのは私にもとても難しいことだけど、少し消しただけでも僅かながら変化が生じたのだ。


『私』の理性がとてもはっきりしているので、単に侵食されて暴走しているのではなく何か別の要素があるのではないかと思っていた。それが『浄潔世界』を大きく活用できなかった心理的な盲点。実際に別の要素がないわけではないだろうけど、どうやら効果がないわけでもないようだった。


 ……もちろんそれが分かったからといって、この戦いが楽になったわけでは決してないけれども。

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