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圧倒と疑問

 まるで広大な海に落ちたような感覚だった。


 果てしなく広大な魔力。ここが私の内面世界であるせいもあってか、世界全体をその広大な魔力が満たしているように感じられた。その魔力が体を動かしたり息を吸うことさえ困難なほどに私とアルカを押しつぶしていた。


 さらに恐ろしいのは、その圧迫感自体は『私』の意図ではないという点だった。


【たかがこの程度で苦しんでいるのですの? 本当に期待できない弱さですわね】


「うるさ……いわよ」


 私は〈五行陣・金〉の力と弱く発動した〈強欲の掌〉で圧迫の魔力を制御し、アルカは〈万魔支配〉で魔力を強奪することで圧迫を緩和した。しかし『私』も〈驕慢の視線〉と〈強欲の掌〉の力で支配力をさらに強化した。


 それは本格的な攻撃のための前哨戦。


 ――テリア式邪術〈怒りの態勢〉


『私』の魔力が爆発するように増幅された。


 他の特殊な効果はないけど、敵意や怒りなどの感情を大量の魔力に変換する邪術。感情が枯れない限り力比べで絶対的な優位を発揮する権能だった。


「わざわざそんなものを使わなくても、すでに力勝負で優位なはずよ。勝てそうにないから怖くなったのかしら?」


【安っぽい挑発ですわね。貴方の底力を警戒しているという証拠ですから、光栄に思ってください】


 ちっ、やっぱり簡単にはいかないのね。


 もちろん単に挑発だけで状況を打開しようとしたわけではない。この程度の簡単な挑発でも少しの時間くらいは稼げるのだから。


 その程度の時間ならアルカに指示を出し、攻撃を準備することくらいは十分に可能だった。


 ――アルカ式天空流奥義〈星空描き〉


 アルカの斬撃が無数に分裂した。


 いや、分裂ではなかった。『万魔掌握』の力が周囲の魔力を引き寄せて斬撃を複製したのだった。


 魔力がある限り無限に降り注ぐ斬撃の雨が『私』を襲った。しかし『私』は特別な対応さえせず、ただ本来の強力な魔力と〈怒りの態勢〉でさらに増幅された魔力を鎧としてアルカの攻撃に耐えていた。そして鋭い漆黒の眼光で私だけを見つめていた。


 その眼光から感じられるのは……やっぱり私が何を準備しているのか分かっているようだ。


 できれば気づかれたくなかったけれど、『私』も今の私については知らないことなんて何もないのだろう。性格も判断も能力も全て。


 そしてこのような呼びかけを受けても正面勝負を拒まないということも。


「行くわよ!」


 海のような魔力の圧迫感を肉体の力と魔力だけで切り開きながら、〈五行陣・金〉の全ての力を体内に集中させた。


 ――テリア式天空流終結奥義〈真 太極〉


 放つのは私の最強の奥義。


 双剣にそれぞれ流れる浄潔な魔力と邪毒を共鳴増幅させ、極限の一点に凝縮する。私自身の純粋な技量だけではまだ不可能なレベルの圧縮と制御を〈五行陣・金〉の力で無理やり成し遂げる。


 母上さえ防ぐことができないと自負する至高の突きだったけれど、『私』は平然と笑った。


 ――テリア式邪剣術終結奥義〈月消し〉


 ……世界が黒く染まった。


『私』が振るった剣から放たれたのは太山より大きく海ほど広い邪毒。しかし単に広大だから視界が染まったのではなかった。それ以上の何かが、まるで世界を丸ごと消し去るような何らかの〝法則〟が感じられた。


 私の〈真 太極〉と同じだ。〈驕慢の視線〉の力があってこそ具現化される何かだった。


〈真 太極〉の突きがその闇に突き刺さって莫大な邪毒を大きく削り取ったけれど、威力を完全に相殺することは不可能だった。


 その闇の波が私を飲み込み……。


「お姉様!?」


 ……波が収まった時、私はすでに右半身がほぼ消滅してしまった状態で吹き飛ばされていた。


 アルカが表情を驚愕で染めたまま私を受け止めようと飛び込んできたけれど、『私』の簡潔で速い突きの魔力がアルカの腹を貫いた。小さな傷だったけど高密度の邪毒が特殊な術式で刻まれ、アルカは倒れたまま麻痺毒に中毒したかのように完全に動けなくなってしまった。


『私』は無力化されたアルカの方を一瞥もせずに、右半身を失って倒れた私に近づいてきた。


【魔力で再生しようとしているようですが、無駄ですわよ。〈月消し〉は邪毒と〈驕慢の視線〉の権能で決して癒されない傷を残す奥義なのですから】


「ふん……親切、ね」


 皮肉を言おうとしたけれど、激痛と口から溢れ出る血のせいで言葉をうまく発することができなかった。


 そんな私を見下ろしながら『私』は不快そうに眉をひそめた。


【その有様になってもまだ諦めていないようですわね。何のためかしら?】


「そんなの、わざわざ、聞か、なくても、わかる……でしょう……?」


【……愚問でしたわね】


『私』は相変わらず不快さ満点の視線で私を睨みつけていたけど、特に私を再び攻撃しようとする気配はなかった。回復が不可能でも魔力で失血を防いでいるので、過度の出血を期待しているわけではないだろう。


 まぁ、過度の出血でなくてもこの状態が続けば生き残ることはできないだろうけど。


「……それ、より、ひとつ聞き、たい、のだけれ、ど」


【どうしてこんなことをするのかとか、どうしていきなり他のものを壊そうとするのかという質問なら受け付けませんわよ。あなたならわざわざ問答なんてなくても――】


「あなた、は……いつから、私の、中に、いたの?」


【……】


 その言葉に『私』は口を閉ざした。魔力が興奮したように揺れ動き、眼光が敵意で燃え上がったけれど、そうしながらも一瞬不安そうに揺らいだ。


 奴も分かっているだろう。私が何を考え、どんな意図でこのような質問をしたのか。


 そして……あのような表情で口を閉ざしたという事実自体が、私にはどんな雄弁よりも十分な答えだった。

読んでくださってありがとうございます!

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