テリアという存在
邪術の力がアルカに染み込み、アルカの動きが変わった。
突進する勢いそのままに、方向だけを『私』に向けて。
【!?】
さすがにこれだけは『私』も予想していなかったのだろう。表情に驚愕が如実に現れていた。
もちろん『私』は素早く立て直し、すぐさま対応しようとした。けれどその時にはすでに私もアルカと共に攻撃を仕掛けていた。
『私』は両手の双剣に加え、自在に動く魔力剣を追加で作り出して私たちの協攻を防いだ。
数度の剣撃を交わした後、『私』は強烈な蹴りでアルカを吹き飛ばしてから私の剣を正面から受け止めた。力比べが始まり黄金の眼光と漆黒の眼光が絡み合った。
その時『私』が口を開いた。
【……まったく不愉快ですわね。貴方はこれまでも私から奪おうとしているのですの?】
「何を言っているのかわからないわね。私が以前から何かを奪ったってこと?」
【自覚すらないことがさらに吐き気を催させますの。貴方の存在そのものが問題なのですわ。……神崎ミヤコさん】
「え?」
驚いて集中が乱れ、思わず手から力が抜けた。
しかし『私』はそんな私の隙を狙うことなく、ただ表情と言葉で不快感を表すだけだった。
「……私はテリア・マイティ・オステノヴァよ。前世で神崎ミヤコだったことを否定するつもりはないけれど、今の私はミヤコの記憶と経験を継承したテリアにすぎないの」
【ふん。貴方は神崎ミヤコにすぎませんわ。私にはこう言う資格があるのです。……貴方も察しているでしょう】
「……それは」
その言葉の意味は……私もすでに分かっている。
しばし互いの眼光がただ相手を見つめるだけで、戦いが小康状態になった時だった。
「お姉様!!」
アルカの声とともに、怒りがたっぷり込められた魔矢の速射が『私』を襲った。
〈怠惰の剣〉の洗脳を解く最も確実な方法は同じ〈怠惰の剣〉で相殺すること。少し時間がかかったけれど、ついにアルカに刺さった洗脳の力が取り除かれたのだ。
【……腹立たしいですわね】
『私』は私を押しのけ、剣でアルカの速射を弾き返した。そして返礼とばかりに放った斬撃がアルカを牽制した。
その間『私』は少し考え込むような素振りを見せた後、私の方に指を伸ばした。
――テリア式邪術〈嫉妬の鎖〉
私の何かを封印しようとする鎖が飛んできた。
この鎖は幻影に過ぎず、本質は力を封印する力そのもの。物理的には防ぐことはできない。
しかしそれもまた本質は魔力に過ぎない。
――テリア式邪術〈強欲の掌〉
再び強烈な頭痛が私を襲い、その代償として剣に不吉かつ強力な力が宿った。
その力が〈嫉妬の鎖〉の魔力を残らず吸い取った。
……私はテリア。『バルセイ』での私とは道が違ってしまったとしても、私がテリアであるという事実は変わらない。ならば『バルセイ』の私が使っていた力を習得することも不可能ではないだろうというのが私の計算だった。
もちろん最初から狙っていたわけじゃない。けれど『私』が邪術を使うのを見た瞬間、私が直接それを振るう可能性を〈五行陣・金〉を通して見た。そして〈五行陣・金〉の力まで動員して結局手に入れることに成功したのだ。そしてこの邪術もまた根本は〈五行陣〉の権能のように互いに繋がっていて、一つを習得した瞬間にすでに他の邪術も使えるようになった。
ただ今の私には合わない力で、邪毒とも程度の関連がある権能であるため『私』ほど自在に扱うのは無理だ。同時使用はおろか一つを使うのさえ長時間維持することはできないだろう。そもそもまだ〈五行陣・金〉の力なしで自力だけで邪術を使う程度ではない。
しかしどうせ〈驕慢の視線〉に立ち向かうために〈五行陣・金〉を解除できない私には、このような手段が追加されただけでも非常に強力な武器だった。
「はあああっ!」
――天空流〈三日月描き〉
〈強欲の掌〉で吸い取った魔力に私の力まで加えて強力な斬撃を放った。
〈強欲の掌〉は〈五行陣・水〉と類似した邪術、つまりすべての魔力を強奪する。一点に集中する力は〈五行陣・水〉に劣るけれど、代わりに魔力を強奪する力自体はより優位だ。
『私』は不快感が如実に表れた表情で剣を伸ばした。
――テリア式邪術〈強欲の掌〉
斬撃の魔力が『私』の剣先に吸い込まれていった。
【そもそも邪術は私のもの。おぼつかない真似程度で私を超えられると思いましたの?】
「邪術の力だけじゃ無理でしょうね」
言った瞬間、アルカが無数の魔力剣の雨とともに突進した。私もそのタイミングに合わせて突進しながら奥義の斬撃を放った。
『私』は剣で直接攻撃を受け止める代わりに、〈強欲の掌〉で私の魔力を吸い取っていた剣先を地面に突き刺した。……何もない真っ白な世界なので地面と呼べるようなものはなかったけれども。
――テリア式邪術〈暴食の牙〉
『私』の剣から巨大な魔力が放出された。
その魔力の衝撃波は私とアルカの攻撃を残らず撃退しただけでなく、私たちを吹き飛ばした。私を守るための魔力の障壁を張ったけれど濃い魔力が障壁に張り付いて素早く崩していき始めた。
まるで虫の群れが張り付いて食い荒らすように。
「くっ……!」
できる限り鋭く研ぎ澄ました魔力で〈暴食の牙〉の力を振り払おうとしたけれど、〈暴食の牙〉は私のその魔力さえも食い荒らしながら弱めていった。
【私の力を使えるようになったとしても、自由に使うには程遠い貴方はまだまだ弱いのです。力を乱用すれば反動で貴方自身が死ぬでしょうし、その可能性を警戒して邪術を使わなければ結局弱いままで死ぬことになるでしょうね。どちらにしても私の勝利は揺るぎませんわ】
そう宣言しながらも、『私』は不快感を隠すことなく私を睨みつけた。
【ですが、そんな生ぬるい道理は気に入りません。……いいでしょう。のんびりと相手をするのはやめにしましょう。外のバカどもにしたように】
その言葉とともに『私』の巨大な魔力が解放された。
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