テリアの邪術
その言葉には私も緊張せざるを得なかった。
『バルセイ』の中ボスとしての私が使う邪術。それは本質的に五行の境地と同等の権能だった。
世界の理を理解し力を借りる技術。しかし最も重要な力の使用と具現方式が少し異なるため差異はある。
最大の違いは……。
――テリア式邪剣術〈湖の砕けた月光〉
――テリア式天空流〈月光蔓延二色天地〉
同時に神速の剣舞を繰り広げる。
振るわれる刃に黄金と漆黒の眼光がそれぞれ宿る中、激しい攻防を繰り広げながらも絶え間なく現実を観察した。
確率を観測し望む可能性を掴もうとするたびに突然変化し無為に帰した。反対に漆黒の眼光が私の敗北を探るたびに黄金の光で妨害した。
〈驕慢の視線〉は〈五行陣・金〉とほぼ同じ確率観測と現実操作の権能。細部の違いはあるけれど本質が同一なため互いに妨害することもできる。
そしてそれはまだ権能が維持されているという意味。
【無理をせず早く切られて死んでくださいな】
「そっちこそ相当無理してるのバレバレだわ!」
正直身体と精神に負担が大きいのは事実だったけれど、それにもかかわらず堂々と言い返したのは相手がより無理をしているという点のおかげだった。
〈五行陣〉は最後の最終奥義を除いて一度に一つしか活性化できない。〈水生木〉のようなものも相性と高速転換を応用した連携に過ぎず、同時に複数の権能を使用したわけではない。
……まぁ、私はとんでもない無理と反動を代価に迂回する方法を持っているけれども。
その迂回する方法の根源がまさに『バルセイ』の私が使った邪術だった。今『私』が〈驕慢の視線〉と〈嫉妬の鎖〉を同時に発動しているように、あの邪術は〈五行陣〉と違って同時使用の制約がないから。
しかし可能だからといって代価がないわけではない。無理すればするほど体に負担がかかり、場合によっては全身から血を吐き死の危機が訪れるほどだから。
しかし『私』はそんな私の考えなどすでに知っているかのように嘲笑った。
【邪術の負担に耐えられないのは弱いからに過ぎませんもの。今の私には二つくらいなんてものでもありませんわ】
乱舞の激突が止んだ瞬間『私』はそう言うと右手を背中に回した。そちらから奇襲していたアルカの剣と『私』の剣が激突し金属音が響き渡った。
〈嫉妬の鎖〉は一つの能力を指定して封印する邪術。恐らく『万魔掌握』そのものを封印したようだけれど、自分自身の魔力を使用する方法も修練しておいたアルカだけに戦闘自体が不可能になったわけではない。
しかしアルカの戦力が落ちたのも事実だ。
――天空流奥義〈二つの月〉
二つの〈満月描き〉を双剣にそれぞれ凝縮し、莫大な力を秘めた刃を『私』に浴びせた。
『私』は押し寄せてくる私を見て嘲笑した。
【算段が見え見えですわね】
アルカを力で遠くに吹き飛ばし、再び剣を戻しながら私の剣と激突させた。刃と刃が絶え間なく交錯し火花が散った。飛散する魔力が互いの体を絶え間なく擦り、次の瞬間には傷一つない体で次の一撃を振るった。
防ぎ防がれ斬り斬られ。傷が累積するかと思えばまた元に戻る。黄金の眼光と漆黒の眼光が入り混じりながら無数の象が現れては消えるのを繰り返した。〈五行陣・金〉と〈驕慢の視線〉が絶え間なく現実を変え続ける余波だった。
まだ剣撃の応酬は拮抗。しかし互いのダメージが同等なわけではなかった。
「くっ……!」
【だんだん苦しくなってるのが見えますわね。今のうちに諦めてはいかがかしら?】
「バカ言わないで!」
目の血走りが破れ血が流れ出るのを感じた。強烈な頭痛が頭を掻き回し集中が乱れそうだった。
一方『私』は悠然と挑発を飛ばすほど何ともないように見えた。
『バルセイ』では中ボス化した私でさえ二つの邪術を同時に使うだけで反動があった。しかし二つまでは反動がそれほど強くはなかった。ラスボス化すれば二つ程度は簡単に耐えられるということかしら?
もちろん完全に予想外ではなかったし、今の私は一人ではないのだけれども。
――アルカ式天空流〈湖面に映る月光〉
魔力が凝縮された矢が『私』の後方を狙った。
『私』は当然のように矢を防いだけれど、その瞬間矢の形状が揺らいだ。そして瞬く間に剣を握ったアルカの姿に変わった。
矢と入れ替わるように現れたアルカが強力な斬撃を放ったけれど、『私』はそれさえ簡単に防いだ。
瞬間『私』の口元に笑みが浮かんだ。
【いい考えが浮かびましたわ】
『私』の一閃が莫大な魔力を噴き出しながら私を瞬間的に押し戻した。
その間『私』の指がアルカを指した。
あれはまさか!?
「アルカ、下がって!!」
【遅いわ】
――テリア式邪術〈怠惰の剣〉
アルカは私の指示を聞くとすぐに素早く反応したけれど、『私』の魔力が彼女を襲うのがより速かった。
「あ……!?」
まるで黒い霧がアルカの頭に染み込むようなイメージだった。
魔力がアルカの頭を侵犯した直後彼女の目から光が消えた。『私』に向かって溢れ出ていた敵意も、全身から沸き立っていた魔力も静まった。
その次の瞬間には焦点のない瞳が私に向けられた。
【あら、これで数が逆転したわね】
『私』は私を押さえつけるように剣を押し付けた。恐ろしい力が私を上から押し潰した。
アルカが光のない目をしたまま私に飛びかかってきた。
「ちっ……!」
――極拳流〈一点極進〉
腕の方は瞬間的に魔力を噴出して力に耐え、片足を上げてアルカを蹴り上げた。彼女の剣を砕き腹に突き刺さった蹴りが彼女を遠くに飛ばした。
しかしアルカは相変わらず意識が感じられない目のままぱっと起き上がった。
【あの子に〈怠惰の剣〉を使うのは初めてだけれど、使い道が多そうですわ】
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