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手ごわい戦い

 一見理性があるように見えるが、よくよく見てみると妙に不自然で一貫性がない。


 綱渡りを美学とすると言いながら時折ああやって力自慢をしたり、美学や舞踊を云々しながら見下すような拳や蹴りを繰り出したりする。


 移動する時や剣を使う時は無駄が多いものの、動作と技巧は本当に優雅で品格のある舞のようだ。だが拳や足で直接打撃を与える時は似つかわしくない投げやりで乱暴な動作だ。


 一つ一つ切り離して見れば大したことはないが、まとめて見ると全く一貫性がないように見えた。


[イシリン、アルカ。今のテリアについて何か聞いたことは?]


[ごめんなさい。そもそもお姉様の言葉では理性を失って暴れ回るだろうとおっしゃっていました]


「私も同じだわ。どうやら今の状況はテリアにとっても想定外の事態じゃないかと思うわ」


 こちらが短い念話を交わす間にも、『テリア』は邪毒と魔力が凝縮された剣を無造作に振り回した。


 文字通り無造作だった。これまでの優雅で美しい舞のような剣術など目を皿にしても見当たらない一撃。


 もしかしたら理性的なのは外見だけかもしれないな。いずれにせよ邪毒に侵食されて暴走しているのだから。


 とにかくやるべきことは変わらない。


[全員に告ぐ。厳しい戦いになるだろうが、アルカを奴の前まで到達させることをボクたちの目標とする。テリアが残した資料にもそう書かれていたし、今あの奴がアルカの習得した『浄潔世界』を警戒しているのは明白だ。理由があるはずだ。ベティスティア様にもボクからお願いします]


【あら、皆様何をそんなに熱心にこそこそとお話しなさっているのかしら?】


「なに、こんな重要な時に即席作戦会議くらい当たり前だ。品位と美学を主張する奴が見苦しくそんなことを一々指摘するとはみっともないぞ」


『テリア』の口出しに挑発で返した後、もう一度剣を握り直して突撃した。


 前後左右からボク、トリア、ベティスティア様、イシリンが前列を担当する。ケインとロベルは結界と幻影でサポート、シドは隙を狙った攻撃、リディアとアルカが火力支援。アルカの専属メイドのハンナはこの陣形に加わるほどの力はないので、代わりに魔導具で自分の兄をサポートするようだ。


 今のボクたちにとっては最善の陣形だったが、『テリア』は馬鹿にしたように鼻で笑った。


【そうですわね。時には綺麗な圧勝も美しいものですわ】


 邪毒と魔力が台風のように渦巻いた。


 比喩ではなく、本当に一瞬にして台風と同等の規模で魔力が押し寄せた。それだけでもボクたち全員が揺らぐほどの力だった。


 しかしその程度の自然災害はボクたちには脅威にならぬ。


 ――『冬天世界』専用技〈神竜の震怒〉


 侵食技の力と神獣の力を暴走させて巨大な氷雪の台風を吐き出した。


 本質は〈竜王撃〉に神獣の力を融合させた神竜の暴風を極端に巨大化したもの。それが『テリア』の魔力の台風を弱めると同時にボクの剣と攻撃をさらに強化する。


 そこにトリアまで炎風を大規模に拡張して『テリア』の魔力が侵入してこられない領域を作った。


 しかし。


 ――テリア式邪剣術〈夜の森に響く滝の音〉


 一度の振り下ろし。それだけで巨大な災害級の力が振るわれた。


 ボクとベティスティア様はその一撃に巻き込まれて飛ばされてしまい、直後に氷雪と炎風の暴風が砕け『テリア』の力が流れ込んできた。『テリア』は左手の剣で邪毒と魔力の滝を吸収した。


 ――テリア式邪剣術〈月光美しき湖の風景画〉


 奴はそのまま一回転しながら剣を大きく振るった。噴き出した剣圧が皆を吹き飛ばした。正面からそれを最大限防ごうとしたトリアとイシリンは一瞬にして両腕を失い、他の皆にも深い剣傷が刻まれた。


 さらに斬撃の傷から一斉に邪毒が噴き出した。


「ぐっ!?」


「きゃあっ……!」


 危険だ。ボクとトリアはある程度耐性があるが、他の人たちはそうじゃない。この程度の濃度の邪毒に長く晒されると……。


「私が治療します!」


 ――『万魔掌握』特性複製『浄潔世界』


 ――『浄潔世界』専用技〈浄純領域〉


 神聖な力が一帯を優しく覆った。


 皆に刻まれた邪毒が瞬時に浄化されて消え、『テリア』の暴風も弱まった。純粋な邪毒ではないので完全消滅ではなかったが。


 一方『テリア』は魔力を噴き出して〈浄純領域〉の力を防ぎながら眉をひそめた。


【邪魔ですわね】


 奴は天を向いた突きの一撃で〈浄純領域〉を粉砕した。


 ベティスティア様とイシリンが誰よりも速く動いた。『テリア』が〈浄純領域〉を壊す隙を狙うために。


 しかし奴は二人を遥かに上回る速度と威力の斬撃で迎撃した。イシリンの右腕とベティスティア様の左腕が完全に切断された。


 しかし二人は止まらなかった。


 ――ベティスティア式天空流奥義〈五行水象万吸突破〉


 ――第七世界魔法〈赤天滅吼〉


 イシリンが放ったのは触れるものを分解して粉砕する特殊な魔力砲。


 一方ベティスティア様は刃先一点に全てを集中した極端な一点突破だった。


 自身の魔力だけでなく周囲の全てを吸い続けて凝縮する力がイシリンの〈赤天滅吼〉と『テリア』の魔力の残響まで吸収した。


 ――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用終結奥義〈冬天の証明〉


 ――トリア式極拳流終結奥義〈二紋共鳴融和陣〉


 別の方向からはボクとトリアも飛びかかり、残りの支援や遠距離攻撃も一緒だった。


【同じ手ばかりお使いになるなんて、そんなに戦術がないのですの?】


『テリア』は涼しげに嘲笑いながらくるりと回った。


 ――テリア式邪剣術〈月光に濡れし露の煌めき〉


 激しい舞とともに魔力が輝いた。


 一瞬に放たれた無数の斬撃がボクたちの全ての攻撃を突破してボクたちの体と大地に深い傷痕を残した。無茶苦茶に解放すれば山脈を吹き飛ばしても不思議ではないほどの魔力が鋭く練られた強力な刃となった。


「くっ……あ」


 威力に負けず劣らずダメージも大きかった。


 ほとんど全員が腕や脚のどれか一つは完全に切断され、胴体にも骨を超えて内臓に届くほどの剣傷が刻まれた。魔力で再生しようとしても簡単にはいかないだろう。


 予想以上のダメージだったが……ボクたちの全てが突破されること自体はすでに予想していた。


 腕を失ったまま飛ばされていくボクの下を一筋の閃光が横切った。

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