小さな違和感
「くっ……!?」
刃に切られたボクの姿が煙のように消えた。トリアが超越的な速度でボクを後ろに引っ張り、ロベルの『幻想世界』がその場に残した幻影だった。
しかしボクの胸には刃に切られた傷がはっきりと残っていた。
【たかが幻影を代わりに立てただけで私の剣を避けられるとお思いになったのですの?】
『テリア』の言葉と同時にボクの傷から邪毒が溢れ出した。
「ジェリアお姉さん!」
――『万魔掌握』特性複製『浄潔世界』
アルカが『浄潔世界』の力で傷から溢れ出る邪毒を浄化してくれた。
しかしその短い時間の間にボクとアルカが同時に無力化された。それが『テリア』の狙いだった。
――テリア式邪剣術〈宵やみにぬれし刹那の視線〉
至高の一撃がボクとアルカを同時に狙った。
ボクたちが反応する暇もなかったが、斬撃が到達する前にベティスティア様がボクたちの前に現れた。
――ベティスティア式天空流奥義〈五行木象一刀両断〉
迫りくる邪毒混じりの斬撃に極光の線が刻まれた。
その線から溢れ出した力が瞬時に魔力を打ち砕き、そのまま膨張した刃が『テリア』まで狙った。しかし奴は鼻で笑いながら刀を振るうだけでその一撃を打ち砕いた。
奴の体からさらに魔力が溢れ出した。
【そろそろ戯れは終わりに――】
「そう。もう終わりよ」
イシリンの声だった。
――第七世界魔法〈赤天の大監獄〉
真紅の魔法陣が『テリア』の足元に現れた。
まるで鉄格子のように魔力の柱が幾つも立ち上がった直後、強烈な力が『テリア』を押さえつけた。
奴は見た目には何の問題もないように見えたが、気に食わないように眉をひそめた。
【これを発動させるためにずっと戦闘に参加せず力を溜めていたのですの? 面倒ですわね】
「それだけ強力だということよ。動きたければどうぞ動いてみなさいな」
【望む通りに】
『テリア』は平然と動いて監獄を打ち砕いた。体の動きが少し鈍くなったが大きな異常はないように見えた。
しかし魔法の監獄は破壊される瞬間に真価を発揮した。
【む?】
砕けた魔力の鉄格子から無数の斬撃が内側に向かって放たれた。
『テリア』は激しい舞を披露しながらそのすべてを斬り払った。しかし魔力の斬撃が破壊されるたびに魔力の粒子が散らばり、散らばった粒子が再び結合しながら果てしなく斬撃を作り出した。またあるものは斬撃ではなく封印の鎖を作り出すこともあった。
【ふんっ】
――テリア式邪剣術〈潜む虎の咆哮〉
『テリア』の一撃が空間に線を刻んだ。
その線から空間が激しく震え、その衝撃でイシリンの魔法が完全に砕け散った。
その時すでにイシリンは『テリア』に突撃していた。
「この程度時間を稼げば十分よ」
――第七世界魔法〈威名召喚・赤天の主〉
魔力の幻想がイシリンの体に重ねられた。
まるでボクの神獣『リベスティア・アインズバリー』と似た、燃える赤い鱗を持つ竜の姿。……いや、違う。その逆、あれこそがアインズバリーの原本と言うべきだろう。
イシリンは巨大な竜の拳を纏った拳を打ち出し、『テリア』は優雅な剣閃でそれを受け流した。
【少し大きくなった程度じゃ私に勝てないのですわよ?】
「それだけじゃないのよ」
イシリンの言葉と同時に様々な魔力が『テリア』の周囲に展開された。
シドの『地伸』とボクの『冬天世界』が岩と氷が混ざった闘技場を形成し、トリアの炎風とロベルの実体化した幻影が闘技場の過酷な環境を『テリア』に浴びせかけた。そしてケインの結界がそのすべてを強化し、その上にリディアの魔弾とアルカの矢が雨のように降り注いだ。
そのすべてを味方にした赤天の竜が突進した。
――テリア式邪剣術〈湖の砕けた月光〉
テリアは優雅に舞いながら幾度も剣を振るった。
一振りするたびに莫大な魔力が徹底的に鍛え上げられて噴き出した。みんなの魔力が砕けて舞い散り、イシリンが纏っていた竜の姿が彫刻するように削り取られていった。
しかしイシリンの力の核心はそんな外見の装飾などではなかった。
「はあっ!」
真紅の魔力を纏った拳が『テリア』の刀と激突した。強烈な魔力の衝撃波が炸裂し、『テリア』が少し後ろに押し戻された。
その直後イシリンは巨大な竜の姿の手で『テリア』を掴んだ。
「くぁはあああ――!!」
巨大な竜の口が大きく開き、圧倒的な魔力砲が『テリア』を飲み込んだ。
しかし奴の魔力は健在だった。
――テリア式邪剣術〈星空の下を流れる川〉
水が流れるような歩みと剣術。
それがイシリンの魔力砲を裂き、イシリンを斬り、続いて奇襲を準備していたボクたちを襲った。
ベティスティア様、ボク、シド、トリアまで。魔力砲の後続として突撃を準備していたボクたち全員を一度に捉え、まるで川が上から下へ流れるように自然な舞がボクたち全員を斬り伏せたのだ。
砕け散る魔力を一瞥していた『テリア』が突然魔力を噴き出した。
まるで巨大な山が丸ごと落ちてきたような衝撃とともに全員が大地ごと押しつぶされ、展開されていた魔力の残滓が完全に砕け散った。
そうして一時的に無力化されたボクたちを『テリア』は剣の代わりに足で一つ一つ蹴り上げた。まるでもて遊ぶような行為だったが、それに怒ることすらできないほど力の差が大きかった。
しかしたった一人、『テリア』の足蹴りが届かなかった人がいた。
アルカだった。
「せいやあっ!」
――天空流奥義〈空に輝くたった一つの星〉
アルカが莫大な魔力を帯びた刀を先立てて突撃してくると、『テリア』は鼻で笑いながら魔力を噴き出して彼女を吹き飛ばした。
その直後にベティスティア様とイシリンとボクとトリアが再び立ち上がって飛びかかったが、『テリア』はすべての攻撃を剣で受け流し刃や足蹴りで反撃した。
殴られて倒れる間、ボクはふと思った。
……今何か違和感があったのだが?
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