遊びに過ぎない戦い
「あいつだと? あいつって誰だ?」
【さぁね。知りたければ力づくで口を開かせてみたらいかがかしら? できればの話ですけれど】
奴はそう嘲笑うと、すぐさま一歩前に踏み出した。
その足取りはまるで巨人の一歩のよう。
巨大で重厚な魔力がすべてを襲った。大地も、岩も、ボクたちも。ロベルが展開した〈虚像世界〉さえ揺らいだ。
〈冬天世界〉のすべてが集束された『冬天覇剣』で防御したボクでさえ、侵食技一つの重さにてさえ耐えきれず押し戻された。
「くっ……侵食技まで?」
「――我が娘の体でこのような洗練されない魔力の使い方なんて。やっぱり違うわね」
皆が圧倒される中、ベティスティア様だけが幽霊のように魔力の波を通り抜けた。再び剣と剣がぶつかり合った。
『テリア』は再び不快な笑みを浮かべた。
【あらあら。私は洗練されていない子だから捨てられたのですね? ありがたい説明ですわ】
「娘のふりをするのならば、せめてきちんと真似なさい。さもなくば正体を明かしなさい」
【…….】
瞬間奴の顔から表情が消えた。
ただそれを見ただけで背筋が凍るような戦慄が全身を駆け巡った。
【……は。何を期待したのかしら】
つぶやくや否や奴が剣を振るった。
片腕の力だけでベティスティア様が押し戻された。
その時はボクを含め他の者たちも魔力の余韻を振り払って再び立ち上がったが、すでに『テリア』は剣を振るっていた。
――テリア式邪剣術〈陰森の狼群れ〉
無数の斬りが斬撃となって放たれた。
まるで凶暴な獣の群れが襲いかかってくるような攻勢だった。一つ一つもとても強力だったが、それ以上に数の暴力が恐ろしかった。
全身の筋肉が力と魔力で満ち溢れ、膨らんだ筋肉の全力で剣を振るった。
「ぐっ!?」
斬撃一つを打ち払った瞬間、強烈なしびれが腕を襲った。歯を食いしばって繰り返し振るい続けて防御し続けたが、ともすれば剣を取り落としそうだった。
一撃一撃が奥義のようだった。それを軍勢のように隙間なく続けて放つとは、よほどの部隊でさえも耐えられないだろう。
一人だったらすでに死んで転がっていただろうが、今のボクは一人ではない。
――トリア式極拳流奥義〈二紋融陣〉
――『虚像世界』専用奥義〈幻影実体化〉
――『大地の盾』権能発現〈万象不侵略〉
――リディア式射撃術『無限の棺』専用奥義〈共滅のフィナーレ〉
――ハセインノヴァ式暗殺術奥義〈要点崩壊〉
――アルカ式射撃術『万魔掌握』専用奥義〈ハリネズミの沼〉
皆が近くに集まって全力の防御でなんとか耐え抜いた。
それでも『テリア』の攻勢の方が少し優位だったが、どうにか軽傷程度に抑えることができた。
もちろん奴の目的が完全にボクたちだけだったら耐えられなかっただろう。ベティスティア様が常に最前線で奴をマークしてくれたおかげだ。
――テリア式邪剣術〈湖の砕けた月光〉
『テリア』が続けざまに剣を振るい、ベティスティア様が神がかったような剣術でそれを受け流しながら機会を窺う攻防が続いた。
本当に……美しいな。
一刻も早くテリアを元に戻さなければならないのに、思わず我を忘れて見入ってしまった。
ベティスティア様はまさに剣術の極限。誰よりも速く鋭く正確だ。そしてまた時には敵を惑わせる技巧が光り、その技巧の間から敵の急所を断つ必殺の刃が何の予告もなく放たれた。
一方で『テリア』は趣が違った。
元のテリアはベティスティア様と根本的に同じ剣術だった。しかし今の『テリア』はまるで……踊っているようだった。
時には穏やかに。時には激しく。ゆったりと優雅な動きが目を奪うかと思えば、速く軽快なスキップと共に刃が流れる瞬間もあった。
普段の彼女とは違って無駄が多いが極に美しく、優雅で、それでいて敵より先に届く後発先至の奇妙な調和があった。
一見ベティスティア様と互角に見えた瞬間だった。
【退屈ですわね】
――テリア式邪剣術〈宵やみにぬれし刹那の視線〉
テリアが舞うように回転し、その動きに合わせて水平に剣が飛んだ。
たった一度の振るいから放たれた雄渾な気勢がベティスティア様の防御を破った。
「っ!?」
「ベティスティア様!!」
ベティスティア様の胸と腕に一直線に剣痕が刻まれた。幸い傷自体は骨に達するほどではないようだったが、攻撃の勢いを殺しきれずに後ろに飛ばされてしまった。
しかも斬撃の威力はボクたちがいる場所まで届いた。
「くっ」
「きゃっ!?」
防御が破られた瞬間、ボクは反射的に前に出て『冬天覇剣』を地面に突き立てた。同時にトリアも両腕を巨大化および硬質化して防御態勢を整えた。
トリアの両腕はそのまま半分に裂かれ、ボクの『冬天覇剣』は宿った〈冬天世界〉ごと真っ二つになった。
「侵食技が宿った固有武装を一撃で……!?」
【固有武装と申しましても持ち主次第ですもの】
その瞬間『テリア』はボクの目の前にいた。
「くっ!?」
反射的に『冬天覇剣』を修復すると同時に振るった。
奴は対応するために武器を構えもしなかった。ただ全身から魔力を放出しただけ。ただそれだけでボクを含む皆の攻撃と防御が無に帰し、全身を殴られたような衝撃と共に吹き飛ばされてしまった。
いや、ボクは吹き飛ばされようとした瞬間、肩に強烈な痛みを感じた。『テリア』の突きがボクの肩を貫いたのだ。
「ぐぅっ!?」
【ふぅん。あなたは邪毒に侵食されたことがあるのですね。興味深いわ。今私があなたに邪毒を注入したら、あなたは果たして耐えられるかしら?】
「させるものか……!」
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉変異体現形態
今度は侵食技をボク自身の肉体に降臨させた。
範囲をボク自身の肉身に限定することでボクを極限まで強化する形態。そこに法則を強要する〈暴君の座〉の力まで加えて、極寒の世界の重みを込めた拳を繰り出した。
それを『テリア』は剣さえ使わず手の甲で軽く弾いた。
【侵食技は個人の力量によるものに過ぎませんわ。実に取るに足らない重みですわね】
その言葉がボクの耳に届いた時には、すでに奴の刃がボクの体を斬り裂いていた。
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