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真っ白な悪

「何だこれは!? 一体なぜテリアが……!」


 ボクは信じたくない現実に当惑せざるを得なかった。


 親友がラスボス化したということも大きな衝撃だが、それだけではない。よりによってテリアだという事実自体も問題だ。


 ラスボス化した時の力は元の力に影響を受ける。ボクが『バルセイ』での時より弱かったのもそのためだ。


 言い換えれば、元より強くなった状態ならラスボス化した時の力もより強くなるということだ。


「……お姉様は知っていました」


 当惑したボクの傍らでアルカが怒りに満ちた声を吐き出した。


「アルカ?」


「お姉様の侵食技は本来肉体そのもの。その力を外部に向ける第二形態〈浄潔反転〉の代価は肉体が本来持っていた加護を失うこと……つまり『浄潔世界』の邪毒浄化能力が体に適用されなくなります。今お姉様があの有様になったのもそのせいです」


 アルカの言葉を聞いてボクはようやく冷静さを取り戻した。


 テリアはアルカに今回の件の核心を任せた。アルカがあそこまでよく知っているのはテリアの資料のおかげだろう。


 そしてテリアは現象の原因だけ教えて済むような奴ではない。


「事実を隠していたことについては後でテリアの奴に怒ることにするぞ。そのためにも先ずは奴を元に戻さなければならぬ。方法はあるんだろう?」


「ええ。まずは突破しなきゃダメです。私をお姉様のもとまで連れてください」


「……それは君が習得した『浄潔世界』でテリアを浄化するためか?」


「それも過程の一部です。でも全てじゃないんですよ」


「難しそうだが、努力はしてみる」


 心を引き締めて皆に言葉を伝えようとした瞬間、テリアの体から巨大な魔力が噴き出した。


 紫光技の紫の魔力に、普段の清潔な魔力とは正反対の邪毒。巨大な力が剣を突き合わせていたベティスティア様を吹き飛ばした。


 まずはあの力を突破しなければならないということか。


 覚悟とともに動こうとしたが……その時テリアの表情が変わった。


 ニタァァァァ―――……。


 あれは……笑顔か。


 巨大な三日月のように、あるいは涎を垂らす獣のように。歯を剥き出しにしたまま大きく笑う顔は気持ち悪い。恐ろしいほど背筋が凍り、嫌悪感を覚えるほど卑猥な形相だった。


【まぁ。私を始末するためにお集めになったのがたったこれだけですの? 見くびられてしまいましたわね】


「えっ?」


『テリア』の口から歪んだ声が流れ出た。そしてアルカが呆然とした声を上げた。


「ど、どうして言葉を……? お姉様の資料には確か……」


【一介の個人が全てをコントロールできるはずがございませんわ。世の中予想外のことなんていくらでも起こるものですわ】


 すると『テリア』は強大な魔力を噴き出しながら前に一歩踏み出した。


 その直後ベティスティア様の強烈な剣撃が彼女を襲った。


「奇妙な意志の気配を感じるわね。人の娘の体を乗っ取って何をするつもりかしら?」


【あら。寂しいですわね、母上】


『テリア』が毒を滲ませるように言ったが、ベティスティア様はただ鋭い眼差しで剣を押し込んだ。


 すると『テリア』の眼差しが冷たく冷めた。


【……そうですわね、寂しくはございませんわ。母上はいつもそうでしたもの。忙しいという言い訳で私の心が死んでいくのを傍観なさった母上ですもの】


「……?」


 初めてベティスティア様の表情に疑問が浮かんだ。


 しかしベティスティア様が何かを言うよりも『テリア』がベティスティア様を吹き飛ばすほうが早かった。


 ――天空流〈三日月描き〉


 斬撃が吹き飛ばされたベティスティア様を追撃した。ベティスティア様は剣で防御したが、強力な力に耐えきれずさらに激しく飛ばされてしまった。


『テリア』は冷厳な眼差しでボクたち全員を一瞥した。


 あまりにも冷たく人間らしくない雰囲気。そこに不気味なほど真っ白な姿。


 まるで……幽霊のようだ。


【そうですわ。私のすべきことはいつも同じですの。殺して、奪って、壊す。今回も変わりはございませんわ】


『テリア』が魔力を開放した。


 あまりにも巨大で圧倒的な津波のような勢い。それだけでも遠くに飛ばされそうな体を無理やり支えた。魔力に混じった邪毒のせいで肌がヒリヒリした。


 しかしそんな些細な痛みなど些末なことだった。


 ――天空流奥義〈万象世界五行陣・木〉


 自然に振り下ろされた剣。その刃先から放出された魔力は、まさに人間を圧倒する至高の一撃だった。


 その斬撃がボクに向かった。


 予備動作を見た時から『冬天覇剣』に力を集中させながら備えたが、魔力が放たれた瞬間に悟った。


 死ぬ。


 ボクの力では到底防ぎきれない一撃。まさにラスボスという名にふさわしい絶技だったし、他の人たちが反応する暇もなかった。そのまま一刀両断されて死ぬのがボクの未来。


 ……しかし反応する暇がないのは『人』だけだった。


【ジェリア!!】


 空から剣が落ちてきた。


 剣は正確に斬撃を遮る位置に落ちてきて、斬撃を完全に相殺して弾き飛ばした。


 あの剣は――。


「邪毒の剣……イシリン!?」


【ごめんね、少し遅れてしまったわ】


 邪毒の剣から声が出た直後、剣の形状が急激に変形して竜人の少女の姿に変わった。


 イシリンは『テリア』が続いて放った魔力の突きを左手で掴み取って地面に叩きつけた。


 イシリンの敵意に満ちた眼差しと『テリア』の氷よりも冷たい眼差しがぶつかり合った。


「どうやら予想以上の何かがあるようね」


【邪毒の剣……そうでしたわ。そういえば邪毒の剣から全てが始まったの】


『テリア』が何かつぶやきながら剣を振り上げた。


 その瞬間彼女の後ろにシドが現れた。


 ――ハセインノヴァ式暗殺術奥義〈闇殺し〉


【のろまですわね】


『テリア』は認識すら不可能な速度でシドを両断した。


 それはロベルの力で実体化された幻影に過ぎなかったが、ほぼ同時に『テリア』の剣が空を切るとシドがそこから現れた。シドの力では防げない斬撃だったがイシリンの魔法陣が威力のほとんどを相殺してくれた。


 ボクの氷の領域とトリアの炎風、アルカの矢、リディアの魔弾、そして他の攻撃まで。一瞬に数多くの魔力が殺到したが、『テリア』は平然とそのすべてを斬り払った。


 漆黒の視線がボクたち全員を再び一瞥した後。『テリア』は真っ白な口元を歪ませて笑った。


【面白うございますわ。これを全部殺した後の〝あいつ〟の表情が楽しみですの】

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