推測と信頼
「もうすぐだな」
地面に突き立てた『冬天覇剣』を支えにして遠くを見つめる。テリアがいる場所を。
今ここにはテリア本人を除いて彼女が引き寄せた者全員。それに加えてオステノヴァ公爵夫人のベティスティア様も予定通り参加した。
テリアは肉眼では見えない遠くで作戦を準備している。
地理的に正確にバルメリア王国の真ん中の場所。幸いにもそこは開発されていない山地なので、ラスボスが出現しても民間人の被害はほとんどないだろう。
「隠しルートのラスボス。どんな存在なのだろうかな?」
騎士団と連絡を取り続けていたケインがふとボクの横に来て言った。
「さぁな。聞いたことはない。……だが少し見当がつく部分はある」
「本当かい?」
「正体を見当づけたわけではない。ただどのような存在なのか感じは少しある」
テリアの発言と態度。今までを考えてみるとある程度輪郭は見える。
隠しルートのラスボスがどんな存在なのかはテリアしか知らない。彼女は知らないからこそ『バルセイ』の攻略を追っていけると言ったが、そんな理由だけならそこまで徹底して隠さなかっただろうという直感があった。
そもそも攻略法を追っていくことが目的なら、必ずしも正体を隠すだけする必要はない。そもそも攻略法を覚えている彼女自身がいるのだから。むしろ攻略法を共有して徹底的に実現しようとする方がより良い方法だろう。
そうしなかったということは……恐らく正体を隠さなければならない他の理由があるはずだ。それがボクの考えだ。
「過去テリアがボクとトリアについて隠していたことを考えてみれば、秘密にした理由が理性的なものというよりは個人的なものだという気がする」
「理性的な理由ではなく単に明かしたくなかっただけだと?」
「その可能性がかなり高いとボクは見ている」
具体的にどんな理由なのかまではボクにもわからない。しかしテリアが提示した理由はどう見ても説得力がなかった。
「リディアもそう思うよ」
そのときリディアが話に割り込んできた。
「テリアは攻略法をそのまま追っていくためだって言ったけど、何も知らない状態じゃずれちゃうかもしれないじゃない。テリアならそんな危険を放っておかないよ。むしろ詳しい内容を教えてから、道をずらす変数を遮断しようと努力するはずだよ」
「そうだな。テリアはそんなやつだ」
リディアの言葉に深くうなずいて同意を示しながら、引き続きテリアについて考える。
ボクたちの考えは明確だ。それでも今まで何も言わなかったのは、少なくともボクとトリアについて隠していたときとは違うと感じたからだった。
あのときは、まさかボクたちがラスボスとして覚醒することはないだろうという油断、そしてボクたちが敵になるという事実についてボクたちが傷つかないかという心配による秘密だった。
しかし今のテリアからは……何か強い意志が感じられた。ラスボスに対抗する力を用意するという意志が。
「それに……」
ふと後ろを振り返った。
視線の先にあったのは必死に書類の束を読み漁っているアルカ。
テリアが今回の件に関する重要なものを任せたと聞いた。秘密にすべき内容は魔力で封印されているそうだが、最後の最後に封印が解けてすべてを明かすと言っていたな。
その最後というのは今この瞬間、正確には作戦が始まった後。そのためアルカは最後の秘密の封印解除を待ちながら前のすべてを噛み締めていた。
「テリアがただ一人ですべてを背負うつもりだったなら、アルカにあんなものを任せたりしなかっただろう。あれ自体が一つの合図だとボクは見ているぞ」
テリアにも深い考えがあるだろう。その事実を信じて待つだけだ。
答えはなかったが、みんな真剣な顔で前を見つめていた。恐らくみんな似たような考えだろう。
もちろん心配がないわけではない。しかしボクたちの力と結束、そしてテリアの知恵に自信がある。だから絶望の可能性など考えない。
勝つ。ボクたちの前に置かれた道はそれだけ。
「始まる」
そのとき四方八方から巨大な邪毒の気配が感じられた。
作戦の第一段階。バルメリア王国全域に配置された騎士団とオステノヴァ魔道兵団、そして他のあらゆる組織が時空亀裂を一斉に活性化させたのだ。
時空の歪みが感じられると同時に激しい吐き気と嫌悪感が込み上げ、視界の片隅で邪毒が溢れ出した。
いや、あらゆる場所で邪毒が渦巻いていた。ボクたちの周り、遠くに見える風景、地平線の果ての大地に至るまで。巨大な亀裂が広がりながら瞬く間に大地を飲み込んでいくのがはっきりと見えた。
確かに理解した。これを放っておけばバルメリア王国全体が世界の外へ追放されるというのは誇張ではない。本当に世界に巨大な穴が開いて王国は絶滅する。
そしてそのときテリアがいる山から巨大で神聖な魔力が急激に膨張した。
侵食技の気配。空間を完全に侵食して世界を変形させる一般的な侵食技というよりは、現実に自分の力を重ね合わせるロベルの〈虚像世界〉に近い感じだな。
『浄潔世界』の力が瞬く間にバルメリア王国全域を覆った直後。四方八方あらゆる場所で溢れ出ていた邪毒と膨張していた時空亀裂が急速に縮小した。
邪毒の侵入を決して許さない『浄潔世界』の肉身。その力を世界に伸ばすという説明に相応しい威容だった。このままならすべてが円満に解決するという確信が持てるほどの力。
「これが『聖女』か……」
思わず声が漏れたが、言葉を終える前に異変が起こった。
確かに『浄潔世界』の侵食技は強力だが、敵もまた余りにも膨大なため一時にすべてを消滅させることはできなかった。
その死にゆく邪毒が一斉に一箇所に集まっていた。
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