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協闘の可能性

「お姉様」


 その時アルカが私を呼んだ。


 どこか微妙に沈んだ声。一度も私に向かってそんな声を出したことがなかったアルカだったけれど、今は声だけでなく眼差しも妙だった。敵対心……まではなかったけれど、微妙に怒っているような感じだった。


 もちろん私が容赦なく叩きのめしたからではなかった。


「今日はなんでこんな形なんですか?」


「一緒でラスボスを相手にするシミュレーションよ」


「そんなものにしては変ですよ」


 まぁ、そう言うのも無理はないわね。今回指示した形態は少し納得しづらい部分があるだろうから。


 今回の訓練でアルカの役割は多くない。戦闘に参加しないわけじゃないけれど、想定した状況の中にはアルカなしで戦うことも含まれているからね。


 ……今アルカがその部分を深く掘り下げるのは良くない。


「それより訓練を続行するわ。時間がないんだもの」


 一方的に宣言した後、返事を待たずにすぐに動いた。


 前に突進しながら、魔力の錬成に錬成を重ねた末に極に達した斬撃を放つ。真剣に敵を撃殺するための一撃と同時に、きちんと受け止められるだろうという信頼が込められた攻撃だった。


「ふむっ!!」


 すぐに体を起こしたジェリアが最前線で斬撃を受け止めた。


「くっ!?」


 あまりにも強力な威力と重さがジェリアを圧倒した。しかし彼女は歯を食いしばりながらも両手と雄渾な魔力で『冬天覇剣』を支え、固有武装自体の堅固さと強力な力が斬撃を相殺した。


 その間に他の人たちも動いた。


 ――『無限遍在』専用奥義〈孤独な軍団〉


 ――『無限の棺』権能発現〈武装万開〉


 ――トリア式融合技〈傀儡の渦〉


 ケイン殿下の無数の分身とリディアの『無限の棺』が生む無限の兵器、周辺一帯を支配するトリアの炎風まで。


 そこに加えてアルカは『万魔掌握』の侵食技を展開し、シドは目立つ華々しい攻勢の間に隠れて静かな暗殺術を放ち、ロベルはただでさえ視界いっぱいの攻撃の怒濤を『虚像世界』の能力でさらに華麗にさせた。


 非常に強力で脅威的な攻勢だったけれど……足りないわね。


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 横に振るった斬撃で〈孤独な軍団〉を砕き、本来なら魔力の攻撃を全て支配するはずの〈傀儡の渦〉すら一撃で切り散らした。


 そして雨のように降り注ぐリディアの魔弾とアルカの魔矢を〈五行陣・火〉で逆に払いのけて皆を攻撃した。


 ――『虚像世界』侵食技〈虚像世界〉


 ――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉最終集束変異


 ロベルの力が空間を侵食し、ジェリアは最初から侵食技を『冬天覇剣』に集束した最終形態を繰り出した。その二人が〈五行陣・火〉の無数の斬撃を受け止めた。


 本来侵食技は同じ空間で両立できず、同時に複数の侵食技が展開されると互いに空間を分け合って衝突が起こる。それは敵同士だけでなく味方同士でも避けられない。侵食技が互いに共鳴してさらに増幅される場合もあるけれど、それはお互いがお互いを深く理解し波長を合わせなければならない高難度の機能だ。


 しかしアルカの侵食技は侵食結界ではないため他の侵食技と衝突せず、今のジェリアのように特定の物に集束した形態もそういった現象とは無関係だ。


 良い判断ね。一つの問題点さえなければ。


 ――天空流奥義〈五行陣・金〉


 視界の全てと確率を観測し、万事を左右する権利を手に入れる。


 瞬時に皆の配置と攻勢を見抜き正確に弱点を突くための剣術を展開。攻撃を払い、魔力を斬り払い、配置を壊しながら進む。


 いくら力を高めていくら隙なく浴びせかけても、ただそれぞれが力を使うだけでは絶対的な力の差を突破できない。


 それは皆がよく分かっていた。


 ――『万魔掌握』専用技〈万魔の強権〉


 ジェリアがさらに足を踏み出すのと同時にアルカの力が『冬天覇剣』に絡みついた。


『冬天覇剣』に凝縮された〈冬天世界〉の巨大な力にアルカの侵食技〈万魔掌握〉の力が加わった。周囲の全てを吸い込みながらさらに巨大化し、その巨大化した魔力が私の力さえ一部奪い教乱した。


 へえ。アルカの方から侵食技の特異性を利用してジェリアに合わせる形なのね。


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 ――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用奥義〈雪景切り〉


 一撃と一撃がぶつかり合い魔力が渦巻いた。


 本来なら私の方が勝っていたはずの激突だけれど、アルカの〈万魔の強権〉が〈五行陣・木〉の魔力を削り取り〈雪景切り〉の力をさらに強めた。その結果力が拮抗し相殺された。


 ジェリアはそのまま突進してきた。


 ――『冬天世界』専用技〈冬の戦場〉


 ジェリアの魔力が周囲に広がりながら氷の領域が形成され、『冬天世界』の魔力が空間を支配して私を鈍化させた。


 そして私の後ろにトリアが着地した。


「申し訳ありません、お嬢様。少々無礼をお許しください」


 前では氷雪の嵐を振るうジェリアが。後ろでは炎風にて襲い掛かるトリアが。


 ラスボス化を経験した二人が突撃隊長となって直接私を相手にし、残りの人員がそれぞれの手段で補助する。詳細な協議などはしていないにも関わらず、皆が各自の力をよく理解し適切な役割を占めた結果だった。


 そうして戦いを重ねた結果――。


「……ふう。今回はどうにか成功したぞ」


 私の首に剣を突きつけたジェリアが息を荒げながら言った。


 右手の剣はジェリアが弾き出し、左手の剣はトリアの巨大な炎風の手が掴んでいた。


 皆の力を合わせて私の手段を遂に無力化してからの勝利宣言。まぁ……真剣な戦いならこんな状況でも対応できるけれど、訓練でそこまでする必要はないだろう。


 それにここまで来たのは良いけれど、一度到達した程度では足りない。


「良いわ。でも一度で満足するわけにはいかないでしょう。すぐに次に行くわよ」

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