準備と感じたこと
皆が一堂に会したのはいつ以来だろうか。
私とアルカの姉妹はもちろん、『バルセイ』の攻略対象者五人に我が使用人であるトリア、ロベル、ハンナ。私が前世の記憶を思い出して以来引き入れた重要な味方たちだけれど、最近はこのメンバーが全員一緒に集まることはほとんどなかった。
ジェリアとケイン殿下の最年長者ラインはすでにアカデミーを卒業しており、最近は安息領の蠢動により皆忙しくなったせいが大きい。アイロニーなことに、皆が友人として私を助けようと努力するせいで互いに顔を合わせるのが難しいという状態と言えるだろうか。
もちろん久しぶりに団体で集まったからといって、感動や懐かしさを噛みしめる場ではないけれども。
「私をここまで追いかけてきたのは確かに目を見張るべき成長だけど、まだまだよ。急激に強くなりすぎた分、まだ扱い方が未熟ね」
「……それでも一応数ヶ月の間にかなり成長したと思っていたのだが」
「それは合ってるわ。ただまだ足りないってことよ」
私が地面に剣を突き立てながらそう言うと、ジェリアは地面に倒れていた体を短い吐息とともに起こした。
ジェリアだけではない。皆倒れたり座り込んだりしたまま激しい息を何とか整えていた。あちこち暴れ回った体は汗と埃で汚れ、隠しきれない疲労の色が濃く現れていた。
まぁ、別に複雑なことではない。ただ久しぶりに訓練をしているだけだから。
「こんな感じの訓練は久しぶりだね。でも今こんな風に体力を使い果たしても大丈夫? 大仕事を控えているじゃない」
「大仕事を控えているからこそ、最大限力を磨いておかなければならないのよ。訓練を終えて休む余裕くらいは計算に入れているから大丈夫よ」
シドの言葉にそう答えてやると、彼はため息をつきながら肩をすくめた。
まぁ、それでも嫌そうな様子じゃないからいいかしら。
とはいえ、彼の言う通り大仕事を控えているのは事実だ。もうすぐ時空亀裂を一網打尽にする作戦が始まるのだから。
議論の末に父上は私の提案を受け入れてくれた。即ち時空亀裂を一斉に活性化させ、私の侵食技で一気に浄化するという作戦を。
当然そんな作戦を甘く進めるわけがない。亀裂を活性化させる人員だけでもかなり必要だし、作戦を決行する直前まではむしろ亀裂を抑え続けなければならない。そのための人員と作戦をかなり細かく調整している。
安全のためでもあるし、何よりバルメリア王国全域を巻き込む作戦である以上、各公爵家と王家の協力も不可欠だ。しかし当然ながら彼らがこんな危険極まりない作戦に同意してくれる確率は低い。
そのため彼らを説得する材料としても、具体的で安定的な作戦は重要だ。
まぁ、私たちがそこに参加するわけではない。私たちの役割は別にあるのだから。
「確かにテリアの言う通りね。あなたたちは足りないわ。いろいろと」
ここは呪われた森の基地にある広大な異空間結界の中。広大な荒野の姿をした結界内の空間でも、遠く離れるどころか私たちが訓練している真ん中に悠然と立って見守っている人がいた。
母上だった。
「今まであなたたちが、というよりもテリアが直接相手にしてきたラスボスたちは『バルセイ』よりも弱くなった状態だったと言っていたわね。それでもテリアは苦戦したの。なのにテリアを相手にあなたたち全員が挑んでも勝てなければどうにもならないんだもの」
母上の評価は厳しかったけれど正しかった。
今日の訓練は簡単だ。私を除く全員が心を合わせて私に全力で挑んでくること。もちろん相手をする私も遠慮なく全力で臨んでいる。
皆最初は難色を示したけれど、その気持ちは最初の攻撃を交わした瞬間に消えた。一瞬のうちに全員を地面に叩きつけることなんて、私にはそれほど難しくなかったのだから。
「皆勘違いしているようだけれど、私も訓練の時に本気を百パーセント出したことはないわ。真剣に挑んで」
最初の激突で全員を地面に叩きつけてそう言ってやると、皆真剣な顔で挑んでくるようになった。
そして状況は今に至った。両足を伸ばして立っている人は私一人だけという状況に。
正直皆すごく強くなったし、特にラスボス化の影響で目を見張るほどの力を手に入れたジェリアとトリアは私にとっても容易ではない相手だ。けれど命を懸けて戦う時の覚悟で全力を尽くせば、相手にならないレベルではないんだもの。
それに私たちの立場はより重要だ。
「あなたたちはラスボスを相手にするチームよ。少なくともテリアを倒すくらいの覚悟は見せてちょうだい」
そう。ここにいる皆は亀裂の暴走抑制や活性化には参加しない。私が侵食技を展開した後に現れるラスボスを相手にするためのチームだ。
隠しルートのラスボスは今までのボスたちとは違う。『バルセイ』でも最強のラスボスだったけれど、この現実ではさらに恐ろしい存在になるはずだから。
弱体化したラスボスだったジェリアやトリアとは違う。『バルセイ』と同等のレベルだったディオスやピエリとも違う。
隠しルートのラスボスは必ず『バルセイ』よりも強い。そしてこの方法を選んだ時点で絶対に出現を防ぐことはできない。
その事実はすでに全員に説明してある。
「もう一度言うけど、私は侵食技を展開した後は戦いに参加できなくなるの。なのに今回現れるラスボスは『バルセイ』よりもさらに強いの。つまり私なしで相手をしなければならないってことよ。そんなあなたたちが私一人にもまともに勝てなければ作戦自体が成立しないわ」
騎士団には今の私よりもさらに強い人材もいる。しかし彼らのほとんどが亀裂の抑制や当日の活性化、そして侵食技を展開する私自身の周辺の護衛に投入される。安息領も私たちの作戦をただ見ているだけじゃないだろうから。
もちろん本当に私の友人たちだけが投入されるのでもない。
「当日は私も参加するわ。でも今テリアを相手にあなたたちだけで勝算を掴めないのなら、ラスボスを相手に立ち向かっても私の足を引っ張るだけよ」
騎士団の大師匠であり歴代最強の太陽騎士団長だった母上が直接私たちと共闘する。
もちろんそれだけで安心できる相手ではない以上、母上の言う通り母上なしで今の私に勝てなければ望みが薄すぎる。
……今回のラスボスには特にね。
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