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オステノヴァ邸の会談

 状況が一段落した……ってはとても口先だけでも言えないし、そんな余裕もない。


 しかし、そんな状況だからこそ方針と行動をはっきりさせるべきだというお姉様の意見に私も同感した。


「テリア、アルカ。お疲れ様」


 父上が微笑みながらそう言った。


 私たちの労をねぎらう言葉をかけてくれているけれど、そんな父上こそ疲労の色が濃厚だった。


 無理もない。最近の出来事は父上にとっても決して軽くはない事ばかりで、父上は誰よりも懸命に走り回っているのだから。


 先日の高位の方々の会議で結局父上が主導権を握ったのはよかったけれど、その代償として今の状態になったので何とも微妙な気分だ。


 もちろん父上は個人的な欲や権力のために今の状態を招いたわけではなかった。


「すまないね。子供たちに苦労をかけたくないと思って努力したのに、肝心の成果がないから」


「いいえ、私こそ父上にご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 お姉様が苦笑いしながらそう言うと父上は首を振った。


「君がいくら個人として強くてもまだ若い。親として子供に責任を押し付ける時期ではないよ」


 その言葉にお姉様は頬を不満げに膨らませた。


 ……不満を抱いたお姉様には申し訳ない気持ちだけれど、ああしていると可愛い。


「法的には私も成人ですもの」


「成人になったばかりだろ。それに公的にも君に任された役割というのはないじゃない? ほとんどは公爵である僕の名の下で動いているんだからね。……もちろん、君の成果と能力を貶めようとしているわけじゃない。君なら今すぐにでも自力で十分な地位を得られるだろうからね」


「高評価には感謝しますけれど、親の苦労を少しでも軽くできない娘の立場も少しは考えてくださいね」


「そうですよ。私たちも十分お手伝いできるんですから!」


 私まで加勢すると、父上は「ありがとう」という言葉とともに少し嬉しそうに笑った。


 うちの娘たちは立派だ! というような感じなのかしら。


 一方、父上の横で母上が少し冷静な表情で割り込んできた。


「娘たちと親子の情を再確認するのは私も歓迎する事ですが、ひとまずはこうして話し合いの場を設けた目的を優先してもらえればと思いますわ。今は余裕のない状況ですから」


 ……いつも感じることだけど、父上に足りない冷静さを母上が補っているようね。


 父上も同じ考えらしく苦笑いしながらも、座る姿勢を正して魔道具を取り出した。


 今私たちが話し合いをしているのは本来ならのんびりとティータイムを過ごす場所であるオステノヴァ邸の庭園。父上はそれほど広くないテーブルに魔道具を置いて魔力を注入した。


 魔道具から流れ出たのは今や馴染みとなった立体映像の地図だった。


 地図を見たお姉様と私は同時に表情を引き締めた。


「やっぱり深刻ですね」


 地図が示しているのは各地の時空亀裂の状況。既に何度も見たものだけれど、現状は相変わらず芳しくなかった。


 安息領の狙いを適切に阻止できたのは現在のところ半分程度だろうかな。


 戦闘員としての安息領の平均的なレベルは騎士団にとても及ばないけど、全世界の全信者を引っ張り出して我が国に投入しているので頭数だけは圧倒的だ。その頭数に安息八賢人を含む高位幹部たちまで総動員して暴れられては、いくら騎士団でも手に負えない。


 それに彼らの目的は騎士団との戦いではない。逃げながらどうにか目的だけを優先するか、一部が囮となって時間を稼ぐか、頭数で優位な側があらゆる手段を使ってどうにか目的だけを果たそうとすれば、全てを阻止するのは不可能だ。


 父上の表情も冴えなかった。


「成果がないわけではない。この過程で何と四人もの安息八賢人を拘束することに成功したからね。既に封印したピエリまで含めれば五人だ。対安息領状況としては歴代最高の成果と言えるだろね」


 筆頭、テシリタ、サリオン。この三人を除いた全員を無力化した。


 それは確かに大きな成果だけれど……。


「けれどこれは奴らが八賢人を消耗してでも目的を果たすことを優先したからこそ得られたものに過ぎないもの。実際に奴らの目的を阻止できたかどうかで考えれば、現在までは安息領の判定勝ちとしか言えないわ」


 母上の言葉だった。父上も重々しく頷いた。


 やっぱり厳しい状況なのかしら。そう思いながら横にいるお姉様を振り返ったけれど……お姉様はなぜか苦笑いを浮かべていた。


「まさか……面白い偶然ですね。いえ、偶然じゃないのかもしれませんけれども……」


「どういう意味だ?」


「現状が『バルセイ』でのと似ているんですの」


 お姉様は簡単に説明してくれた。


 今の時空亀裂活性化の状況は『バルセイ』でのとほぼ同じだという。お姉様のおかげで騎士団はずっとよく対処しているけれど、安息領もそれを突破するためにより多くの人員と資源を惜しみなく投入しており……結果的に結局似たような状況になってしまったようだって。


 父上は何かを考え込むように目を細めて顎に手を当て、母上は地図を鋭く睨みつけた。


「この事は『バルセイ』の……ルートだったっけ? 全てのルートで起こった事じゃないと言ってたわね?」


「はい。安息領が各地の時空亀裂を活性化させる事は正規ルートでは起こりませんでした。隠しルートでのみ現れた展開でしたね」


 母上の質問にお姉様が答えた。


 私も聞いたことがあった。隠しルートの後半に安息領はバルメリア王国全域の時空亀裂を刺激し……その後あれこれと事が続いた結果、時空亀裂によって隠しルートのラスボスが現れたって。


 父上が再びお姉様に視線を向けた。


「隠しルートか。確かに事件の規模が最大だと言っていたね。ラスボスも最も脅威的な存在だとも。それで? 今はどこまでなのかい?」


 父上と母上、そして私まで三人の視線が同時にお姉様に集中した。


 お姉様は視線の集中を苦笑いで受け止めたけれど、流すわけにはいかないとよく分かっているようにため息をついた。


「その前に一つ、確認しておきたいことがありますの」

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