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結果と痕跡

 爆発と言っても正確には急速に拡散して大地に染み込む魔力であり、物理的に大地を吹き飛ばすといった類のものではなかった。


 その魔力の色は眩い白色。


 白光技の白色ではない。清らかで清浄で、聖なるとさえ言える浄化の力だった。


 邪毒神が浄化の力を使うのも奇妙なことだが、あいつの魔力は単なる浄化でもなかった。


 しかし追及する余裕はなかった。


「やってくれたね」


 槍を破壊して解放された筆頭の奴がいつの間にか目の前にいた。


 ボクが慌てて上げた剣と奴の掌が激突した。


「っ!?」


 まだ剣に宿る〈冬天世界〉が残っていたにもかかわらず、力負けして吹き飛ばされたのはボクの方だった。


 だが筆頭はそんなボクなど見向きもせず、すぐさま『隠された島の主人』を攻撃した。魔力がうねる掌と本来の姿が見えない真っ黒なシルエットの剣が激突した。


【〈終わりの槍〉のダメージも大きいはずだけれど、無理しない方がいいんじゃない?】


「そう言うキミこそ、その右腕が自壊寸前のようだけどねぇ?」


 筆頭の奴は腹部に大きな穴が開いていた。そこから血の代わりに真っ黒な邪毒がうねるのはグロテスクだったが、当の奴は平然としていた。


 一方で『隠された島の主人』は外見は無傷だった。しかし地下に向けて浄化の魔力を放った剣は反動のためか粉々になって消滅した。剣はすぐに作り直したが、それを振るう右腕の動きが妙に遅かった。


 さっきの浄化の力が自身の右腕にもダメージを与えたということか。……やはりあれは。


 そのときリドロン卿が筆頭の奴の後方から攻撃を仕掛けた。


「見え見えだよ」


 筆頭はまたしても黄金の剣を創造してリドロン卿を相手させた。


 しかしリドロン卿は槍で黄金の剣を次々と弾き飛ばし、その合間に筆頭の奴にも鋭く強力な突きを繰り出していた。速くて神妙な槍術だった。


 そしてリドロン卿の口が動いた。


「まだ地下の時空亀裂が完全に消滅していないようだな。仕上げは可能か?」


【思ったより亀裂を守るあいつの魔力が強かったね。できないことはないけれど、邪魔されてるとそれをやり遂げるほどの魔力を集められないよ】


「ならば私が相手をしよう」


 リドロン卿の槍の勢いがさらに激しくなった。


 同時に一瞬、彼の目がボクとリディアを素早く一度ずつ見た。


 ボクたちは言わずともその目配せの意味を理解して行動した。


 ――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉


 ――アルケンノヴァ式射撃術『無限の棺』専用技〈七式群れ狩り〉


 ボクは再び〈冬天世界〉を展開し、リディアは大きく開いた『無限の棺』が吐き出す無数の兵器を空中に浮かべ、その全てで筆頭の奴を狙った。


 リドロン卿とリディアがそれぞれ近接と遠距離から猛烈に攻撃を浴びせた。一方でボクは〈冬天世界〉の力で筆頭の奴を鈍化させると同時に、『冬天覇剣』に極限まで魔力を凝縮して一度の強力な斬撃を準備した。


 騎士団長級すら抑え込めるほどの攻勢。しかし筆頭の奴は強力な魔剣と魔槍を複数創造し、自在に動くそれらがボクたちの攻撃を全て受け止め時折反撃さえ仕掛けてきた。


 しかしいくら奴でも強力な魔道具を複数扱うには限界があるだろう。戦況はほぼ拮抗していた。


「ちっ、煩わしいねぇ」


 筆頭の奴が正体不明の柱を創造した。


 さっきボクとリドロン卿を制圧したアレだな。


「させるか!」


 ――『冬天世界』専用技〈神竜の檻〉


 神獣『リベスティア・アインズバリー』の形象が再び現れた。筆頭の奴を完全に包む形で。


 物理的なものだけでなく魔力と法則まで遮断する完璧な檻結界――しかし筆頭の奴はまだ平然としていた。


 ボクは術者であるため結界内の様子を見ることができるが、リドロン卿とリディアの攻勢が一時的に途切れた。


「ワタシが創造した魔道具の力を人間の結界なんかで遮断できると思った?」


 正体不明の柱に再び魔力が集まり、巨大な衝撃波が拡散――する直前。


「もちろんそんな考えなどせぬぞ」


 ボクが結界越しに答えると同時に、眩い極光が結界ごと筆頭を斬り裂いた。魔力を集めていた『隠された島の主人』が放った斬撃だった。


 最初からボクが結界を張ったのは奴の攻撃の気配をほんの少しでも隠すためだった。


「……やれやれ」


 筆頭の奴から苦笑いが漏れた。


 相変わらず当惑や悲観といった色は感じられなかったが、腰から上下に体が両断された。支えを失った上半身が奇妙なほどゆっくりと地面に向かって落ちていった。


「続けることはできるけど……まぁいい。すでにやるべきことは十分やったし、残しておくべきものもあるからね」


 頭巾の下からちらりと覗いた口が怪しげに笑うと、奴の手が一瞬開かれた。


 ――権能『創造』専用技〈世界の浮標〉


 真っ二つになった筆頭の分身体が光の粒子に変わって消えた。


 代わるように、その場所に現れたのは奇妙な魔力を発する独特な浮標だった。


 リドロン卿が探るように槍先で浮標をつついた。槍刃は浮標を貫けずに弾かれたが、奇妙で異質な気配を漂わせているわりには特に目に見える現象はなかった。


 しかしそのとき『隠された島の主人』が舌打ちした。


【最後まで面倒なことを……!】


 奴はまたしも右手の剣で地下に向けて魔力を放った。同時にボクは〈冬天世界〉を解除した。


 先ほどのように特殊な浄化の魔力が地下で爆発するように広がった。しかしかすかに感じられていた時空亀裂の気配は相変わらずだった。


『隠された島の主人』の右腕は魔力を放った反動で破壊された。それでも残った左腕で筆頭の奴が残していった浮標に向けて斬撃を放ったが、浮標はわずかに光を放ってそれを弾き返した。


【よりによってあの神器を残していくなんて。あれのせいで時空亀裂を閉じることができなくなった】


「破壊できぬか?」


【正真正銘の神器だからね。今のこの分身体に残った力ではどうにもできないよ。信じられないならあんたたちがやってみなさい】

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