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筆頭の目的

 ボクが何かをおぼろげに感じるのとほぼ同時に、『隠された島の主人』の力が筆頭の力を貫いて地中を激しく掻き回した。


 にやにやしていた筆頭の奴の気配がわずかに変わった。


「……へえ」


【やっぱり一度じゃ駄目かな】


『隠された島の主人』はもう一度力を集めて地面を打ち下ろそうとした。


 しかし今度は筆頭が作り出した魔剣が奴の一撃を防いだ。魔剣はその一撃に耐えきれず砕けたが、『隠された島の主人』の方も一撃の魔力が無に帰した。


 錯覚かと思ったが間違いない。あれは……。


「浄化の魔力……かしら?」


 リディアが呆然と呟いた。


 やはりリディアも同じものを感じたようだな。


『隠された島の主人』は今は我々に友好的だとしても、れっきとした世界の外からやって来た邪毒神だ。そして浄化の魔力というのは世界の外から流れ込んだ邪毒という汚染要素を取り除くためのもの。


 その浄化を邪毒神が使うだけでも驚くべきことだが、あの気配は普通の浄化の魔力ではなかった。


「ただの浄化じゃないぞ。あの特殊な魔力はおそらく……」


 しかし推測を口にする余裕はなかった。


 ――権能『創造』専用技〈世界創造・万物の剣〉


 ――権能『時間』専用技〈終わりの槍〉、〈時間編集〉


 筆頭が作り出したのは巨大な気配を発する奇妙な剣。


 一方『隠された島の主人』は不可思議な魔力を放ち、次の瞬間には古びた槍が筆頭の腹部を貫いていた。


「本体には影響ないけど、分身体は〈終わりの槍〉の力を素手で受け止められないねぇ。でもさ、一緒に耐えられる道具があれば問題ないんだよ」


 筆頭は頭巾の下の口から血を吐きながらも笑った。その状態のまま手を伸ばして『隠された島の主人』を指すと、奇妙な気配を発する剣が奴に襲いかかった。


 今まで筆頭が放つ力は異質な気配を漂わせていたが、その力を具現化する魔力自体は普通の魔力だった。しかし今あの奇妙な剣からは魔力とともに膨大な量の邪毒が溢れ出ていた。


『隠された島の主人』は双剣を交差させて奇妙な剣を防いだが、剣の強力な力と重さにて後方へずるずると押し戻された。


【くっ……!】


 手足にさらに力を込めて踏ん張ると、ようやく押し戻されが止まった。しかしまだ奇妙な剣と奴が力比べをしている形だった。


 一方筆頭の方も槍を掴んで魔力を注ぎ込んでいた。槍の魔力と奴の魔力が奴の体内で暴れまわり、互いに噛み合っていた。


「世界一つの重さを丸ごと圧縮した剣だよ。分身体なんかで耐えられるかなぁ?」


【空威張りが過ぎるね。分身体なんかで世界一つを丸ごと作り出せるはずがないじゃない。せいぜいこの惑星一つ程度でしょ。そもそも本当に世界一つと同格だったら、もうこの分身体なんて一撃で消滅させられていただろうし】


 二人の邪毒神は同時に魔力を発出した。相手をさらに圧迫すると同時に自分に降りかかる攻勢を払いのける力だった。互いの魔力が激突し、空間がきしみ悲鳴を上げた。


 当面は双方動けない状況で『隠された島の主人』が小さく舌打ちする音を立てた。


【そこのバカたち、よく聞きなさい。こいつの目的はここにある時空亀裂を刺激することよ】


「なに?」


【私もあいつも根本は邪毒神。力を使うだけでもこの世界の時空間に影響を与える。今私はあいつが力を使って発生させた亀裂を逆利用することで力を使いながら同時にその亀裂を縮小させる形で力を使っているけれど、それでも世界に与える衝撃が完全に消えるわけじゃない】


 その言葉だけで状況を理解するには十分だった。


 つまり……。


「ここで暴れること自体が奴の目的ということか?」


【ムカつくことにね】


『隠された島の主人』が不快さたっぷりの声で吐き捨てた。


 バルメリア王国のあちこちの時空亀裂を刺激することで前回のアカデミーの邪毒獣出現事件と同じような、あるいはそれ以上の事態を引き起こすこと。それが最近安息領が大々的に行動している目的だ。


 その時空亀裂というのは言わば世界に残された傷。一般的な手段では縫合して無力化することしかできず、完全に取り除くことは不可能だ。取り除くには特殊な手段が必要だ。


 そして縫合されただけの傷は刺激を受けるとまた開く。


 今まで安息領は特殊な道具や術式を利用して傷を引き裂く方法を使っていたが、筆頭の方法はより単純だった。邪毒神が直接力を使って世界に与える衝撃で亀裂を刺激するのだ。


 筆頭の奴の口が頭巾の下でにやりと気味の悪い笑みを作った。


「その通りよ」


「素直に教えてくれてもいいのか?」


「もちろんよ。どっちにしろワタシには得だからね」


 筆頭の奴の腹を貫いた槍が振動した。槍の魔力と奴の魔力が戦い続けながら不穏な揺らぎと亀裂を作り出した。


 それすらも奴の目的を早める近道の一つだった。


「あいつがこんなに早く対処しに来るとは予想外だったけど、別に構わないよ。どんな方向であれワタシがここで力を使うだけでワタシの目的は達成されるんだからね。あいつが亀裂を逆利用する方法で修復しようとしたって達成を後ろに少し遅らせる弥縫策でしかない」


【今さら貴様を止めようとしても亀裂を大きくする結果になるだろうね】


 だから堂々と肯定したというわけか。


 しかも敢えて筆頭が直接現れたということは、ここの亀裂がより重要だという意味に違いないだろう。


 今この瞬間も他の場所で安息八賢人たちが暴れているという報告が入っているが、単に目を引くためだけに筆頭という大物が直接乗り出すはずがない。


 ということは――ここの亀裂は筆頭が直接乗り出してこんな暴挙に及ぶほどの価値がある、ということかもしれない。


 しかし奴を止めるために行動することすら奴の助けになるのだとしたら、ボクたちはどうすればいいんだ?


 ボクが眉間にしわを寄せてその困惑を表現していた時だった。


【ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ。よく聞きなさい。今すぐあんたの世界にてこれを叩き落としてちょうだい】

読んでくださってありがとうございます!

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