戦いの介入
――バルメリア制式術式〈軍勢一線進撃〉
騎士たちの力がリドロン卿に集まった。
軍勢全体の力を一人に集中させ個人の力を極大化する術式。万夫長である彼にそれが適用されれば、一時的に団長級以上の力を発揮できる。
「直接介入しないのではなかったのですか?」
「リスクがあると言っただけで、しないとは言っていないがな」
その返答にボクは思わず笑ってしまった。リドロン卿もボクに引き込まれるように笑った。
「我々は我々なりに行動する。君たちは好きに行動するがいい。私を邪魔しない程度に有能だということは信じているぞ」
「ありがとうございます。では」
爽やかな会話を終え、リドロン卿とボクは同時に動いた。
リドロン卿は筆頭に向かってまっすぐ突撃した。筆頭と『隠された島の主人』の激しい戦いが生み出した魔力の嵐を最低限の動きだけで神妙に避けながら突き進み、瞬く間に筆頭の近くまで到達した。
まだ剣が直接届く距離ではなかったが、その瞬間リドロン卿の剣が変わった。普通の剣から長く輝く純白の槍へ。
リドロン卿がその槍を突き出すと、槍先から解放された雄渾な魔力が魔力の嵐を押し分けて筆頭に到達した。
それを見た筆頭は左手で『隠された島の主人』の進撃を防ぐ術式を展開する一方、右手をリドロン卿の方に伸ばした。
――神法〈群星の意志〉
無数の光の星が筆頭の周りに現れた。
光の一つ一つが強力な力を秘めた魔力の塊だった。そのすべてがまるでそれぞれの意志を持つかのように飛び回りながら防御を行ったり敵を攻撃したりし始めた。
リドロン卿と『隠された島の主人』の両方に対応する術式だな。攻防一体の強力な力がリドロン卿を押し返し、『隠された島の主人』は拮抗していた。
だが隙がないわけではない。
――『冬天世界』専用技〈冬の注視〉
筆頭の動きがぐっと遅くなった。
どんなに防御を固めても、今ここはボクの侵食技〈冬天世界〉の中。侵食技の力を遮断する術式でなければ、ボクの領域内でボクの力を避けるのは不可能だ。
【余計な口出しをするなんて、お節介ね】
『隠された島の主人』はそう言いながらも機会を逃さなかった。
振るわれた剣から極光が溢れ出た。斬撃ではなく、何か正体不明の力が筆頭を襲った。
「ナマっちょろいねぇ」
それに対して筆頭もまた何か正体不明の柱を作り出した。
その瞬間巨大な衝撃波が奴に接近していたリドロン卿と『隠された島の主人』を弾き飛ばし、少し離れたところで〈冬天世界〉の力を注いでいたボクにまで余波が届いた。
「ぐっ……!?」
単なる衝撃波ではない。これは圧迫? いや、麻痺か?
強烈な圧力で押し返すのと同時に体を動かせなくする何かの力が感じられた。肉体全体を重く押し潰す力だったが……体が動かないのはその力のせいではなかった。
何というか、もっと根本的な……ボクの体が動くのを拒んでいるような感じだった。
追撃で奴は自分の周りに張り巡らせていた無数の光の一部を弾丸のように放った。
その瞬間後ろから赤い線が無数に飛んできた。ボクに飛んでくる光の群れよりも多かった。
赤い閃光は一つも例外なく筆頭の光をすべて撃墜し、爆発を起こして光を相殺した。そして残った閃光はリドロン卿の方へ飛んでいく光を払いのけた。
「させないよ!」
後方からリディアが叫んだ。
筆頭との距離が大分離れたおかげなのか体が少しは動いた。それでもまだ遅くてもたついた動作だったが、それでも無理やり首を動かしてリディアの方を振り返った。
リディアがいる所までも衝撃波が届いた形跡があったが、彼女は自分の体よりも巨大な棺を立てていた。地面の痕跡を見るとその棺を立てて衝撃波を防いだようだった。
その棺の一部が開いていて、何本かの銃器が飛び出ていた。
「ジェリア、大丈夫?」
「ああ。ダメージはない。ありがとう。ただ奴の力の影響か体がよく動かないぞ」
「わかった」
リディアはそれだけ言うとすぐに行動を開始した。
――『無限の棺』権能発現〈武装満開〉
巨大な棺が六つに割れてから完全に開放された。
開いた棺の殻が花のように地面に広がった。そしてその上には棺の大きさ上中にあるはずのない無数のスロットが浮かび上がった。おそらく物質的に存在していたのではなく魔力で具現化されたのだろう。
無数のスロットからはそれぞれ形状の異なる銃や剣や槍のようなものが飛び出し、いくつかのスロットは『結火』の赤い宝石魔弾を吐き出しもした。
武器一つ一つはリディアの『アーモリーキット』が生み出すものと同じ武器だったので目に馴染んでいた。だが『アーモリーキット』は本体を部品に変換するため一度に具現化できる武器は二、三個が限界だったのに、あの棺が吐き出す武器はまさに無数だった。
始祖アルケンノヴァは無数の武器を作り扱う稀代の大鍛冶師にして狩人。始祖武装『無限の棺』は始祖が使っていた無数の武具の創造を担当する……と聞いていたが、実物を見るのは初めてだな。
リディアは無数の武器の中から今使うのに適していると判断した銃を二丁選んで手に握った。そして筆頭の方を向かって躊躇なく発砲した。筆頭が纏う光の群れが速いスピードで減っていった。
だがリディアがそれを突破するよりも、一つの人影が光の群れの壁を斬り裂いて飛び込むのが早かった。
【邪魔だったようね? もうそれを出すなんて】
『隠された島の主人』だった。
リドロン卿もボクと同じようにちゃんと動けていなかったが、『隠された島の主人』はただ衝撃波で飛ばされただけなどなんでもないかのように再び飛び込んできた。
筆頭は燦然と黄金色に輝く剣を作り出して『隠された島の主人』の斬撃を防いだ。
「助けが欲しかったワケ? 弱っちいねぇ」
【ふん。こっちも雑魚どもが余計に邪魔をするよりは一対一の方が楽よ】
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