意外の襲撃
平和に日々が過ぎていたとある村。
そこにワタシたちが突然現れた。
まぁ、現れたといっても別に瞬間移動したわけではないけど。ただ隠密術で姿を隠していたのを解いて行動を始めただけだ。
それでも村人たちにとっては突然現れたのと大差ないだろう。
「え……? あれは?」
「うわっ、安息領!?」
突然現れた一団を見て住民たちは慌てて逃げ出した。
……むう、そろそろ古臭くなってきたかもしれないねぇ。
ワタシたちがいつも愛用している特徴的なマントと頭巾は隠密と防御の機能に優れているけど、こればかり使っているせいか今や安息領のトレードマークになっている。一般人が見ただけで安息領だってわかるほどだ。
隠密機能は非常に優れているので潜入に問題はないけど、そろそろ外見を変更した新しい装備を用意させる必要があるかも。
そんなのんびりとした考えをしている間に、届け出を受けて出動した騎士たちが視界に入ってきた。
「来たね。キミたちは予定通り進めなさい」
「はい。……本当によろしいのでしょうか?」
「このワタシが、たかがあんな連中に敵うはずがないって思う?」
「そのようなことは心配しておりません。ただ目立つのが嫌いな貴方様が直接出るということ自体を申し上げているのです」
聞いてみればそんな疑問を持つのも無理はないな。
そう思って笑ったけど、これは最初から決めていたことだ。
「考えがあってのことだから心配するな。キミたちは計画通りにしなさい」
「そういうことでしたら……承知しました」
連れてきた部下たちが作業に取り掛かるのを横目で確認した後、一人で騎士たちに向かって歩き出した。
部下たちは全員ミッドレースオメガ。こんな状況で届け出を受けて急遽派遣される先遣隊程度なら殲滅できる精鋭たちだ。
けど今回こいつらを連れてきたのは仕事をさせるためであって、騎士たちと戦って暴れさせるためではない。
今日暴れるのはワタシの役目だからな。
「安息領に告ぐ。騎士団の討伐隊がすでにこちらに向かっている。直ちに装備を捨てて投降しろ」
先遣隊の騎士が事務的な口調で警告してきた。
もちろんそんな警告を聞くはずがない。あちらも別に期待していないという表情だ。
「嫌だったら?」
頭巾のせいでワタシの顔は見えないだろうけど、声だけでもわかるほど挑発的に言った。すると先遣隊の騎士たちが不快そうに眉をひそめた。
「今は特殊状況だ。投降しない安息領は全員その場で即座に射殺せよという命令が下っている。抵抗しても死期を早めるだけだと知れ」
「それは怖いね。じゃあ言うけどね、ワタシも一言言わせてもらうから聞いとけよ」
先遣隊の騎士たちは即座に剣を抜いて構えた。
剣を抜いて魔力を集中する速度も、戦闘に備える姿勢も熟練している。おそらく新米ではないね。案外それなりに実力のある奴らかもしれない。
まぁ、意味なんて全くないけどね。
「キミたちの総本部に伝えなさい。安息八賢人の筆頭が親しく降臨したって」
――神法〈煉獄道発尽開顕〉
一帯の地面全体に巨大で複雑な魔法陣が展開された。
前兆も過程もない全速展開。文字通り瞬きする間に既に完成している術式に騎士たちは反応できなかった。
反応したところで意味はもちろんないのだけど。
「ぬおおっ!?」
蒼白い炎が溢れ出した。
天まで届きそうな勢いで立ち昇った炎は、しかし何も焼き尽くさなかった。大地も建物もワタシの部下たちも何一つ煤一つ付かなかった。
その中で唯一先遣隊の騎士たちだけが燃え上がっていた。
「こ、これは……!」
「十夫長! 防ぎきれません!」
彼らは魔力障壁を巡らしてなんとか防ごうとしたが、蒼白い炎はその魔力障壁ごと彼らを焼き尽くした。ゆっくりと、しかし確実に。
ワタシはのんびりとした足取りで彼らに近づいた。
「一応殺さないようにほどほどに調整してるんだよ。その間に総本部に連絡でもしたらどう?」
「くっ……貴様の目的は何だ? 虚勢を張って騎士団の戦力をここに誘導することか?」
「なんだって思おうがキミたちの勝手だけどねぇ」
手を上げた。
炎の領域の外から無数の魔弾と矢が降り注いだ。しかし〈煉獄道発尽開顕〉の炎が巨大な火炎の蛇に変化してそれをすべて飲み込んだ。炎に呑まれた弾幕は一瞬で燃え尽きた。
「まぁ、キミたちが総本部に報告を上げなくても問題はないよ。暴れていれば結局騎士団が駆けつけてくるから。あんな中途半端な討伐隊じゃなくて本隊がねぇ」
この程度の騎士たちなら一瞬で焼き尽くせるけど、一応脅し用に生かしておいた。総本部に報告を上げるならなおさらいい。
今のワタシの目的は大きく暴れること自体だからね。
接近してくる討伐隊の気配を感じて〈煉獄道発尽開顕〉をさらに拡張しようと魔力を注入した。魔法陣が輝き、炎がさらに激しく燃え上がりながら急速に広がっていく。
という結果になる直前のことだった。
――天空流奥義〈万象世界五行陣・木〉
【もう完全に狂ってしまったのね。わずかにあった分別まで投げ捨てたみたいだし】
鮮烈で鋭い極光の閃光が蒼白い炎を両断した。
一瞬で目の前まで迫った斬撃を左手で掴み取った。莫大な魔力が手の中で暴れ、激しい衝撃波が周囲の炎を吹き飛ばした。
手の中から湧き上がった〈煉獄道発尽開顕〉の蒼白い炎が斬撃を焼き尽くした直後。炎が開いた空間に黒い人影が降り立った。
へえ。こんなに早く来るとは思わなかったのに。
「久しぶりだね、『隠された島の主人』。力を使うのは控えめにするんじゃなかった?」
【狂った奴が暴れるせいでそんなこと言ってる場合じゃないよ。なにより私が力を使うのを控えめにしているのは貴様とのバランスのためよ。貴様が先にバランスを崩した状況なら私にも制約なんてない】
漆黒の邪毒に包まれたシルエットだけの分身体。しかし感じ取れる魔力は膨大かつ鋭く、両手に握った双剣は極光の鮮烈さをそのまま放っていた。
まぁいいよ。
「意外な展開だけど、これも悪くないねぇ。結局ワタシの目的には適う状況だから」
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