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能力と疑念

「なりに代償はかかるけど、一発程度で終わるほど重くはないよ。今すぐにでもあちこちに撃ち込めるんだ」


「いかほどまで可能にござるか?」


 総団長が興味深げな眼差しで着弾地点を見つめながら尋ねた。まだ魔力の残響が光となって残っている方を見続けていると、まるで目がきらきらと輝いているように見えた。


 ルスタン様はにっこりと笑うとリモコンを何度か操作した。


 今度はオステノヴァ公爵領の方の空から光の筋が四つ落ちた。先ほどと同じ爆発が四回起こった。


「ごめん、ちょうど判明した拠点があってね。質問に答えれば、総団長が提示した作戦くらいならこのリモコンのボタンを百回ほど押せば今すぐにでも実現できる」


「これは……驚きにござる。まことに結構にござる」


 やっぱり総団長は兵器の価値を見抜いているのかな。


 一方、パロム様は中身の分からない顔でしばらく何かを考えてから口を開いた。


「確かにかなりの兵器だぞ。だが主導権を主張するにはこれだけでは足りぬ。いくら安息領とはいえ、同じ手段に手も足も出ないというわけではあるまい」


「そうだね。お前とピエリは軌道爆撃を素手で耐え抜いたこともあったし。お前なら魔力を逆追跡して魔道衛星を自分の力で直接破壊することも可能だろうね」


 魔道衛星は軌道にあるのに? 個人の力でそれを破壊するだなんて、そんな非常識な事が可能だってこと?


 驚愕とともにそんな疑問が湧いたけれど、会話の当事者であるルスタン様とパロム様だけでなく、他の人々も至極当然といった表情をしていた。


 一方ルスタン様はどこか妙な感じの微笑みを浮かべていた。


「でもさ、まさか僕がこれだけ自慢したくて話を持ち出したって思ってるわけじゃないね?」


 その言葉に会議室内に沈黙が訪れた。


 研究と謀略の達人と呼ばれるオステノヴァがこんなに簡単に全てを明かすはずがない。むしろ本当に凄いことは明かしていないかもしれない。そんな疑念を抱かせることこそがルスタン様の目的なのだろう。


 沈黙の真っ只中を引き裂いたのは国王陛下であった。


「オステノヴァ公爵の力は周知の事実だ。自身の技術力について語る時は一切の誇張も嘘もないということもな。十年前のフォーラムで言った言葉が『できると言うのはできるからだ』だったか? それを疑うつもりはない。ただ一つ気になることがあるのだが」


「なんだい?」


「最近のオステノヴァ公爵家の動きにはテリア嬢の関与が相当大きいようだな」


 ルスタン様と私が同時に眉をひそめた。


 ここでどうしてテリアの話が出てくるの?


「聞くところによると、最近の動きはほとんどテリア嬢の情報を基にしたそうだ。有能な娘を持つのは喜ばしいことだ。ただし国王である朕としては手放しで喜べぬところもある」


「……どういう意味だ?」


 ルスタン様の目が鋭くなった。


 陛下はフッと小さく笑いながらも、ルスタン様に負けないくらい鋭い眼差しで視線を受け止めた。


 そのときパロム様が「ふむ」と声を発した。


「そういえば不思議ではあったぞ。()()の公爵令嬢にしては情報の量と正確さが相当なものだったな。無論それだけオステノヴァの情報源が活発に動いているようではあったが、それは新しい情報を集めるというよりは持っている情報を検証する活動に近かったな」


 そう言ったのはパロム様だったけれど、ルスタン様はパロム様ではなくメノード様の方に視線を向けた。


 メノード様はその視線の意味を悟ったかのように口を開いた。


「オステノヴァの最近の活動については注視したのである。いつもと違う動きだったのであるから」


 メノード様の言葉は短かったけれど、言いたいことは十分に理解できた。


 オステノヴァ公爵家は研究と謀略の達人である分、対外的な活動が活発ではない。謀略のために必要な情報さえ神秘的で秘密裏に収集するのがオステノヴァの基本だから。


 まぁ、秘密裏なのは裏工作が得意なハセインノヴァ公爵家も似たようなものだけど、そっちはあくまで誰にも気づかれずに密かに工作員を潜入させる系統。それに比べてオステノヴァは人を使う時と使わない時の区別がはっきりしている。特に魔道具や術式を利用した無人活動の方が有名なタイプだ。


 そんなオステノヴァにしては外が騒がしかった分、注視していたということかな。


「で? 何が言いたいんだ? 別に問題になるようなことはしていないよ」


「率直に言おう。テリア嬢の情報源について具体的に語ってみよ」


 陛下の言葉だった。


 ルスタン様は片方の眉をわずかに持ち上げることで反応し、陛下は慣れた様子で苦笑いを浮かべた。


 しかし発言する声は厳しかった。


「オステノヴァとハセインノヴァはそれぞれのやり方で秘密裏の情報収集に長けている。だがどちらも、結局は表に出ないというだけのことだ。存在する以上、何らかの形で追跡することはできる。しかしテリア嬢の情報にはそういったものが見えぬのだ」


「今までそんなことを気にしたこともなかったくせに、なぜ今更?」


「情報が過度に正確で膨大なのだ。安息領についてよ」


 何を言っているの?


 私は陛下の要点を掴めず混乱していたけれど、ルスタン様はすでに何を意味しているのか理解したようだった。


 しかめた眉間と眼差しから露骨に不快感が現れていた。


「僕の娘が安息領と通じているとでも言うのかな?」


「!?」


 その言葉を聞いてようやくルスタン様の反応を理解すると同時に、思わず陛下を強く睨みつけてしまった。


 陛下はそんな私の反応はお構いなしに、ただ笑った。


「そうは思っておらぬ。通じているというには安息領の被害もまた甚大だからな。むしろ安息領側は騎士団の配置と作戦について全く知らずに大きな被害を被る事例ばかり報告されている。しかし……」


 陛下は一瞬何かを考えるかのように目を閉じた。


 その時間は長くはなかったけれど、不安な気持ちで待つ私にはまるで永劫のようだった。


 いや……あまりにも長かったせいで、とても待っていられなかった。


「少しお言葉を。よろしいでしょうか?」

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