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ルスタンの反論

「騎士団を最大限広く分配して配置する。安息領が現れるすべての場所を防ぎ切れるほどにな」


「そうすれば無条件で数的劣勢になるんだけど? 騎士が任務中に犠牲になるのも悲しいことだけど、そんな危険な配置をして任務自体を失敗したら無駄死にさ」


「無論その騎士たちだけですべてを防ぎきるのは無理だ。すべての任務地域に騎士を配置し、現地の人員で対処可能な場合は対処する。そうでない地域は騎士団の最高戦力で一気に制圧するのだ」


 パロム様は意外にも真剣だった。さすが現公爵ともなれば挑発程度は些細なこととして扱えるのかな。


 対応するルスタン様の表情も真剣だった。


「確かに千夫長級程度でもすごいレベルだし、万夫長級以上は一騎当千を軽くこなしてなお余りある。団長級まで積極的に動けば、よほどの事態でも一日に数十件は片付くだろう。だけど……」


 ルスタン様の手がテーブルを叩いた。するとテーブルに設置されていた魔道具から魔力が流れ出し、立体映像を描き出した。


 あれは……最近安息領が大規模に運用しているローレースアルファとオメガね。


「以前の安息領ならその作戦で十分だった。いくら数が多くても奴らの質は明らかに劣っていたから。中位幹部でさえ騎士団の百夫長と良い勝負になる程度だったしね。安息八賢人くらいになってようやく騎士団の最高位戦力と互角になる水準だった。だが今は違うね」


「奴らの新しい戦力のせいか?」


「そう。奴らがローレースとミッドレースのラインナップを完成させて以来、安息領の平均戦力が大きく上昇したんだ。ミッドレースオメガまで確認されているんだよ。以前ならいくら数が多くても蟻を踏み潰すように殲滅できただろうけど、今は違う」


 パロム様は立体映像を見てから鼻で笑った。


「考慮した上の策だ。奴らの最大の変数であるミッドレースオメガでさえ、騎士団の最高位戦力の敵手にはならんぞ」


 パロムは自信たっぷりに言ったけれど、ルスタン様は首を横に振った。


「問題は奴らのレースキメラの変数が大きすぎることだ。同じオメガでも、元々持っている力によって格差が非常に大きい。それに奴らの平均戦力が弱いのは事実だけど、だからといって団長級以上を足止めできる戦力がないわけではないんだね。先日のピエリもそうだし、クラセンの時にお前も経験したはずだ」


「……ふむ」


 パロム様は何かを考えているような顔で口を閉ざした。


 クラセンの時といえば、安息領の最高幹部二人を同時に相手にした時の話だろうね。詳しい情報は明らかにされていないけれど、二人のうち一人は安息領のトップであるテシリタで、もう一人も安息八賢人と推定される炎の能力者だって聞いた。


 安息八賢人二人、それも一人は実質的な最強者テシリタだったのだから、パロム様はそちらに直接対処するためにクラセン戦争に参戦できなかったと言っていた。


「クラセンの時の安息八賢人二人はお前と互角だった。最近のピエリも同じだったしね。その二回とも簡単に決着がつかずに時間がかかってしまった」


「それで不可能だというのか?」


「そう。個人としては名実ともにこの国最強の人間であるお前が相手でも足止めできる戦力を安息領は備えている。もちろん安息領には高位戦闘員が多いわけではないけど、騎士団も万夫長級以上は数が少ない。千夫長級は最近のミッドレースオメガたちの連携に苦戦している事例もあるんだね」


「……ふむ」


 パロム様はルスタン様の言葉を真剣に考えている様子だった。


 意外ね。力押しすると即座に言うと思っていたのに。


 一方ルスタン様は総団長を振り返った。


「総団長。総本部の意見は?」


「反逆者の意見とは反対でござる。集中した戦力で安息領の主要拠点とアジトを攻撃し一掃することを先決課題としておりまする。それが完遂された後は求心点を失った奴らを大規模展開で一掃することは構いませぬ」


「一般的で素晴らしい方法だね。ただ一つ、大きな問題があるということを除いては」


「問題? 何が問題だというのでござるか?」


「騎士団は情報が不足しているという絶対的な限界のことさ」


 総団長はぬぅっと呻いてから口を閉ざした。


 ルスタン様は薄く笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「主要拠点を攻撃する作戦が確実な効果を上げるには、奴らの指揮系統や求心力に不可逆の打撃を与えられなければならない。しかし騎士団は奴らのすべてを知っているわけじゃない。奴らはともかく数が多くて、隠れ回るのには長けているからね。そもそもそんな情報を持っていたなら、とっくに殲滅していただろう?」


「それは事実でござる。しかし平時と今とは違う。奴らの動きが大きく激しくなった分、奴らの根源もまたよく現れておる。実際にすでに重要な場所をいくつか摘出して討伐したのでござる」


「その重要な場所が今後どれだけあるかは分からないじゃない。それに安息領はよく組織された軍隊じゃない。狂信者にしてテロリストだ。奴らを制御するのに具体的な指揮や精巧な拠点なんて必要ない。極論すれば、そんなものはテシリタ・アルバラインが指を一度パッチンするだけでたちまち作られるからね」


 確かにルスタン様の言う通りだ。


 レースキメラを製作するには場所と規模が必要だ。それを破壊するのなら総団長の言葉も効果があるだろう。しかしそれが安息領全体を萎縮させる結果になるかは分からない。


 もちろん総団長もそんな単純なことを知らずに言ったわけではなかった。


「しかし奴らが利用できるものを減らしていけば、次の動きもまた明瞭になるはず。それもまた一つの誘い策でござる」


「間違いではないけど、その方式ではいつまで続くか分からない。その間被害は累積し続けるだろう。もちろん僕も空虚な理想主義者じゃないし、他に方法がなければそちらも悪くないけど……今は個人的に考えるにもっと良い方法があるんだ。だから提案しているんだよ」


 瞬間ルスタン様の目が光った。


 ……一見優しくて純真そうに見えるのに、今は何か妖しい蛇のような感じがし始めた。

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